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70話 弓

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 階段を登ると、陽夏が不安げな顔をした。


「…………また魔力が強くなってる。あの女の人の部屋を挟む度に強くなっていってるわ。警戒した方がいいかも。」

「そうか…………。」


 そういえば前回も陽夏は同じ事を言っていたな。

 モンスターが強くなる可能性も有り得るし、警戒していかなくてはな。

 そう思いながらも、ゴブリン程度なら何とかなると思い、そこまで深刻には考えずにズンズンと進んでいく。

 その時、胸に激しい痛みが走った。

 慌てて痛みがあった部位を治す。

 地面に体から出された異物が落ちる。


「えっ、今晴輝撃たれた!?」

「あぁ、そうみたいだ。」

 俺は地面に落ちた矢じりを拾い上げながら周りを見渡す。

 居た、何十メートルか先に弓を構えたゴブリンがこちらを見ていた。

 …………盾の次は弓か。

 やっぱり上に上がるにつれてどんどんとゴブリンは強くなっていってるようだ。

 強くなるゴブリンに焦りを覚えつつも、俺は冷静に間合いを詰める。

 弓のゴブリンは普通のゴブリンよりも遅いようで、俺に間合いを詰められている間に逃げようとしていたが、一瞬のうちに俺の攻撃圏内に入った。

 まぁ、別に普通のゴブリンだからといって逃げられるようなことは無いがな。

 弓のゴブリンは一瞬矢をつがえる仕草をしたが、射つことを俺が許すはずはなく、首を刎ねる。


「ふぅ、びっくりしたな。」

「…………。」

「ん? どうした?」

「いや、何でもないの。ただ、さっき晴輝が射たれる前に何か変な感覚があったのよね。」

「変な感覚?」

「そう、何かゾクってするような感覚だったの…………今までこんなこと無かったのに…………。」


 なんだろう、変な病気とかじゃなければ良いんだが…………。

 俺は陽夏を治そうとしてみたが、どうやら治すところが無いようだ。

 病気とかでは無いようだが、それでも心配な物は心配だ。

 俺ならばちょっと死にかけるくらいなら全然大丈夫だが、陽夏がそうなってしまえば話は別だ。

 少しでも間に合わなければコロッと死んでしまうかもしれない。

 俺が心配していると、陽夏は手をぐっぱーぐっぱーしだしたり、腕を回してみたりと不思議な事をしだした。


「あ、別に心配する事じゃないわよ、多分。何か、どちらかと言えばいい事が起こったような感覚なの。よく分かんないけど。」


 ううむ、不安な言い方だな。

 まぁ、確かに陽夏は杖の女の人の杖を吸収した時も感覚で何か掴んだみたいだし、陽夏の感覚はばかにできないんだよなぁ。

 ん? 杖?

 俺はその言葉が引っかかった。

 そういえばさっき陽夏は盾を吸収していた。

 つまり、杖を吸収した時のように何かが強くなっている可能性もある。

 俺はすぐさまその事を陽夏に伝えた。


「確かに…………じゃあ、さっきの感覚はそれによるものなのかな…………まぁ、次あったら分かる事ね。」

「まぁ、そうだな、けどあんまり危険な事は…………。」

「それ、晴輝が言える事?」

「はい、すみません。」


 散々陽夏に心配をかけておいて俺だけ陽夏の行動を制限するとか虫が良すぎるからな。

 まぁ、それでも心配なものは心配だ。

 陽夏は俺には無い攻撃力を持っていて、俺に必要だと言うのも理由の一つではある。

 しかし、一番の理由はそんな打算的なものじゃない。

 陽夏はもはや俺の中で大切な存在なのだ。

 例えるなら…………妹? 

 妹がいた事など無いが、多分こんな感じなんだろう。

 死んで欲しくない。

 純粋にそう思える。

 そんな俺の心配はよそに、陽夏は元気に進み出す。


「早く行くわよ!」

「…………おう。」


 不安はあるが、あの調子なら大丈夫だろう。

 俺は陽夏と共にダンジョンを進んでいった。





 ◇◇◇◇




「あ、居た。」


 陽夏は少し離れたところにいるゴブリンを指差した。

 ここに来るまでに何回かゴブリンに会いはしたが、幸か不幸か全部普通のゴブリンにしかあってこなかった。

 しかし、弓のゴブリンを探すことは諦め、進み始めた瞬間に弓のゴブリンを見つけた。


「どうする? 今なら背後から狙えると思うけど…………。」

「それじゃあ意味が無いよな、とりあえず俺が1回射たれてみるから、どんな感覚がしっかり感じ取ってくれ。」


 わざと射たれるとかいやに決まってるが、陽夏の戦力アップのためだ。仕方がない。

 俺は大声を出してゴブリンを引きつける。

 俺達に背を向けていたゴブリンはその声を聞き、慌ててこちらを向き、弓を構えた。

 さぁ、さっさと射ってくれ。覚悟は出来てる。

 痛いのは嫌だが、耐えられないわけじゃない。

 ゴブリンはそんな俺の願いに答えてか、すぐに矢を射ってきた。

 避けようと思えば夜蹴られる程度の勢いだが、覚悟を決めて掌で矢を受け止める。


「くっ。」


 めちゃくちゃ痛い。

 俺はすぐさま怪我を治す。

 一瞬にて痛みは消えていった。


「陽夏、何か掴めたか!?」

「…………ごめん、もう1回やってくれない?」

「…………。」


 俺は陽夏を無言で睨みつける。


「ごめんって! けど、何か掴めた感じはするの。分かった、次は晴輝が受け止める必要は無いわ、普通に私が受け止めるから晴輝は下がってて。」

「…………いや、俺がやる。」


 前に出ようとする陽夏を制し、俺が前に出る。

 はぁ、やるか。

 俺はもう一度弓のゴブリンに向き合った。
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