ある王族のはなし

及川雨音

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ミルト編

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 ぼくはこの国の王子ミルトです。
 将来りっぱな王になるべく、毎日勉強をがんばっています。
 なぜ王になりたいかというと、べつに父さまのようになりたいとかいうわけではありません。
 その地位に付随するある権利がほしいのです。

 それは……

 「ミルト」
 「あ、レイ!」

 レイに告白する権利です。
 王になればレイを好きにできるかもしれないからです。
 レイはとても綺麗な漆黒のオオカミです。耳としっぽがついたままだけど人間になることもできます。
 そうです、レイは人狼なのです。魔族だけど人間のぼくたちの傍にいてくれています。
 でも契約しているわけではないのです。
 歴代の王がレイがいないと死ぬと脅して、代々傍にいてくれているのです。
 レイが言ってました「生まれた時から知ってるやつに泣かれたらなぁ……」って。
 もちろんぼくが王になったあかつきには泣き落としをする予定です。
 死ぬまで離れないともう決めていますから。

 「飯できたって」
 「お腹ぺこぺこ!行こ~」

 レイの艶やかな毛並みを撫でながら一緒に大広間に向かいます。

 「これからパン食べるんだから触んな。毛がつくだろ」
 「いいんだもーん」

 ホントはそのしなやかな全身を舐めまわして舌についた毛を口内で愛でたいのですが、まだぼくにその権利はないので必死に我慢します。

 「この匂いはシチューだな。やった」

 しっぽがふりふりご機嫌です。
 ホントぺろぺろしたいくらい可愛いです。もうぼくの顔はでろでろです。

 何十人も座れる広さのテーブルでもぼくはレイの隣を陣取ります。
 向かい合うより隣のほうが食べてる姿を間近で視姦できるからです。
 レイは「こんな広いんだからスペースを贅沢に使えばいいのにお前らはもう」とか言いつつ隣にいてくれます。
 ぼくはその優しさにつけこみます。
 何百?何千?生きてるレイからしてみたら六歳のぼくは庇護する対象なんだと思います。父さまでさえ甘やかされているので若いぼくはもっと甘えて平気だろうとわがままを言います。でも父さまのわがままに比べたらぼくのなんて可愛いもんです。父さまの甘えを見るたびに、レイの甘やかしを見るたびに早くぼくが王になりたいと思います。

 ぴちゃ……っぺちゃ……っ

 ぬるくしたシチューを上手に舌ですくい舐めてます。
 牙がりっぱでかっこいいです。レイはパーフェクトです。
 その舌を舐めまわしたいなぁとじっと見ていたら。

 「おいしそうだね」

 父さまが登場しました。忙しい父さまですが、いつもご飯の時は必ず一緒に食べます。
 おいしそうに食べるレイを一瞥して父さまは。

 「レイ、こっちにきて」

 ぼくの向かいに座った父さまが膝をポンポンと叩いて呼びます。
 あーあ。幸せな時間は終わってしまいました。いつも来るのが早いのです。

 「あーハイハイ」

 ほら。そーやって甘やかす。だからぼくらはつけあがるのに。
 父さまが来るとレイがとられちゃいます。だからご飯は好きだけどキライです。

 ぼんっ

 レイが人化しました。
 いつ見ても変わらない美しさでご飯も忘れて毎回見惚れてしまいます。
 しなやかな体に綺麗についた筋肉に浮かぶピンクの乳首。
 周りの男どもが少し前かがみになりました。いつものことです。
 漆黒の長い髪をかき上げながら父さまのもとに向かう後ろ姿にぼくはヨダレが止まりません。
 急に振り返り、黒曜石よりも輝くその瞳と目が合い恍惚となっていると。

 「ミルト、シチュー冷める」

 注意されました。
 ちゃんとぼくのことも見ててくれているんだと嬉しさが募ります。

 レイが父さまの膝に最初に向かい合って座ります。
 だっこされているみたいでかわいいです。ぼくも大きくなったら絶対レイを乗せます。
 次に、横向きに座りなおします。
 はじめからそうしないのは父さまのわがままで「僕にまたがる姿で癒して」という願いを叶えてあげているのです。ぼくも早く正面から見れるようになりたい。

 「王、これを」

 前かがみ側近が書類を渡します。
 父さまは山ほど仕事があるので食事の時でさえ仕事をしながら食べます。
 でもぼくはそんな父さまが羨ましいのです。

 なぜなら……

 「ユイト、あーん」
 「あーん」

 これです!あーんです!!
 なんと父さまはレイに食べさせてもらっているのです。
 ぼくなんか病気の時しかあーんしてもらえないのに。
 だいたい、左手は書類を持ってますが右手はレイのくびれた腰に添えられているのです。
 その手で食べればいい話です。
 レイも分かってて、甘やかしているのです。
 仕事が大変だからと労わっているのでしょう。
 でも見せつけられるぼくはもんもんとしちゃいます。

 「あ」

 レイのおっぱいにシチューが垂れました。
 ピンクの乳首にどろりとした白い汁が映えます。
 とても芸術的で美しい光景です。尊いです。
 おもわず拝んでるやつもいます。

 「もったいない、舐めるよ」

 父さまがそれはそれはイイ笑顔でおっぱいに吸いつきます。

 「あっ、あっ、んぁっ」

 レイが悶えます。
 耳もしっぽもぺたんとなり体をしならせています。
 ぼくは前のめりでガン見します。
 悩ましげな顔でかすかにいやいやしています。
 もぉうかわいいです!美しいです!
 それにしてもしゃぶりすぎです。
 ときどき歯でコリッとしてるの見えてますよ。
 あ、とうとう指で弄りだしました。
 床に落ちた書類を集めていた側近は鼻を押さえて血走った目でレイを舐めまわすように見上げています。
 そのアングルも良いですね。
 乳首をこねていたけしからん指はそろそろと下にさがっていきます。
 調子に乗りすぎです。

 そしてレイの大事なところに触れそうになった時。

 「ユイト」

 レイが父さまの頬を撫でます。
 それだけで不埒な指は止まりました。
 父さまは甘えた顔でその手にすり寄りごろにゃんとしています。
 レイの勝ちです。

 その後はちょっかいをかけてくる父さまをみごと完食させました。
 毎食このように、父さまによる一方的なイチャイチャが繰り広げられるのです。



 ご飯のあとはお楽しみのおふろです。
 オオカミに戻ったレイを泡のついた手で撫でまわします。
 もこもこの泡がついたレイはこれまた尋常じゃない可愛さです。
 ぼくは本来なら使用人に洗われるところをレイに甘えて洗ってもらいます。
 手慣れているから、きっと父さまたちもねだってたんだろうと想像できます。
 考えることはみんな一緒ですね。血のつながりを感じます。
 いくつかあるなかでバラの浮いた湯船につかります。
 ぷかぷか移動するバラを犬かきで追いかけるレイにぼくは鼻血が出そうです。
 そのうち、人化して本格的に泳ぎ始めました。
 その姿はとても美しくて本に出てくる人魚のようです。
 あまりにも幻想的で急にぼくは不安になりました。
 このままレイがいなくなっちゃうんじゃないかって。
 だから逃がさないためにおもいっきりレイに抱きつきました。
 すべすべの肌に顔をすりすりします。

 「くすぐったい」

 レイが笑いながら身をよじります。

 だめ。離さないもん。

 赤く色づいてる乳首にかぶりつきます。
 父さまのマネ、と言ってちゅーちゅー吸います。
 そうするとなんだか腰がぞわぞわ落ち着かなくなって、たまらずぼくはレイの太ももに腰をグイグイ押しつけました。
 レイはしょうがないなという顔をしてぼくの好きにさせてくれています。
 だから思う存分甘えちゃいました。



 しばらく堪能してようやくおふろからあがりました。
 ほこほこのままベットにはいります。

 「レイ、昨日のつづききかせて!」

 ぼくはいつも寝る前にレイの昔話をききます。
 長く生きてるレイが今までどんなふうに過ごしてきたのかをききだします。
 レイのすべてが知りたいからです。

 「いい匂いのする花がいっぱい咲いてるところがあって……」

 レイに抱きつきながらその美声にうっとりします。
 ほっぺにもふもふの毛が気持ちいいです。

 「もうおねむの時間だ」
 「えーまだまだききたりないよ」
 「つづきはまた明日」
 「じゃあ眠るまでそばにいてね」
 「はいはい」

 ふかふかのしっぽでぽんぽんと寝かしつけてくれます。

 レイのあったかさとそのリズムにぼくは眠たくなっちゃいます。

 「おやすみ、レイ」

 「おやすみ、ミルト」

 はたして、ぼくは死ぬまでにレイのすべてを知ることができるだろうか。

 そんなことを想いながらぼくは眠りについたのでした。

 ぐう。




 ミルト編おわり
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