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第1章

第10話 心の声

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 俺たちは夢中で山道を走っていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ?!どういうこと?!なんで、なんで場所がわかるのっ?!」

 レグラが心底驚いたよう声を荒げている。

「‥‥その、ごめん、あとで詳しく言うから‥」

 とても今この状況で伝えられないからとりあえず濁す。ぴょんと岩を飛び越えて、その先にあった地面の窪みに見事に足を取られた俺は派手に転んだ。
 泥や葉で、一気に体が汚れた。‥いや、まともな生活を送れていないから、もうここ数日ずっと汚いんだけど。よりあからさまに汚れた。

 スッと伸ばされた手は、ジークのものだった。

「‥‥リージュは元々普通じゃないところあっただろ。この前だって火の玉から俺らを守ったのもリージュだし。それに、首を掻っ切られて死にかけたドトルを救ったのもリージュ。だから俺らの規格で見ても無駄なんだよ」

 レグラにそんな持論を述べたジークの手を取る。俺よりも年下のはずなのにジークの手は俺よりも大きい。ジークは俺を立ち上がらせてから、珍しく無邪気に笑った。

「要はチート野郎だよな!よくわかんねーけど、身内がこんなすごい力持ってるって、頼もしいじゃん」

「‥‥‥‥た、確かに‥‥?」

 レグラもなんとか納得してくれたようだ。
俺はヘラッと笑って感謝を伝え、また足を進めた。

 ドトルとコーラルの元へは日が沈む前に辿り着いた。
茂みから俺たちが現れた途端に、聞き慣れないか細い声が悲鳴をあげた。それは紛れもなく、コーラルから発せられた声だった。

「だ、だ、だ、だれっ?!」

 コーラルの後ろに、頭からすっぽりと布を被った幼児がいる。恐らくあれがドトルなんだろう。まるでドトルを守るかのように、両手を広げてこちらを警戒するコーラルに腹が立ってくる。

「だれ?じゃないよ。ドトルを返せ」

 どうやら周りにはコーラルとドトル以外には人がいないようだった。そうなると、益々コーラルが何者なのかが気になるところだ。

「え!!!‥この子の知り合い?!」

 コーラルが声を上げる。突然警戒心が解けたように、コーラルの目はまん丸になった。なんなんだこいつ‥

 布を被っていたドトルがそっと布をめくった。たぶんこの布が“魔法を遮る何か”だったんだろう。

「ドトル!!」

 レグラがドトルの名を呼んだ途端、ドトルがじわりと涙目になった。両手を広げるレグラの胸に、ドトルが飛び込んでいく。

  ーーよかった。特に怪我もしていなそうだ。

「‥‥‥よかった‥。ひとりじゃなかったんだね‥」

 ドトルの様子を見て安堵しているコーラルに、俺は首を傾げた。この人は何がしたかったんだ‥‥?

「お前誰だよ。ドトルを誘拐しようとしたのか?」

 ジークがコーラルにそう問うと、コーラルはぶんぶんと首を横に振った。

「違う!違うの!!この子がひとりで泣いてたから!!でも何聞いても答えてくれなくて‥もしかしたらこの子はプーレナイトのせいでひとりぼっちになったのかも‥‥って思って‥その、この子を保護‥しようと‥‥」

 俺はコーラルのステータスを見ていた。当然だ。ただでさえプーレナイトの名を持っているんだから‥警戒しなくちゃいけない。

《よかった‥ひとりじゃなかったんだ。‥‥よかった、生き残っている人たちがいて‥‥よかった‥‥》

 コーラルの心を読んだけど、コーラルはただただドトルの身を案じていただけのようだった。

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