19 / 26
第19話
しおりを挟む「一体どういうことなんだ?!?!」
国王への謁見も終え、暫しの平穏な時を過ごしていたのだが。
どうやら“呪い”の話は父の耳にも入ったらしい。
屋敷に帰ってくるなり、新聞片手に父が大荒れである。
ほら面倒なことになった‥とノアに冷ややかな視線を送るも、ノアは何事もなかったかのように平然としている。
「アデル!ノア!これは本当か?!」
殿下から不用意に触られない為の嘘だったと正直に言うべきか、嘘だったと広まってしまった時のことを考えて黙るべきか、はたまた呪いが解けたと言うべきか。
どう答えようかと一瞬躊躇うと、ノアがその間に口を開いた。
「そうです。本当です。一生解けません」
「‥おい、ノア」
いい加減にしなさいと伝えようとするも、私が余計なことを話すと思ったのかノアは私の唇に己の手を当てた。ザ・口封じである。
「ほ、ほ、本当か?本当なのか‥?!
ノ、ノアしか触れないのか‥‥?!」
父の言葉に、しれっと頷くノア。
「俺しか触れないです」
「な‥‥そ、そうか‥‥なんということだ‥」
父が膝から崩れ落ちた。それはそうか。ひとり娘が呪いを受けたともなれば親としてはさぞかしショックだろう。
「ち、父上‥」
思わず声を掛けるも、今更全部ノアの嘘だとも言いにくい。
「え、縁談が‥くそっ‥」
ーーーん?
「ち、父上‥?」
「良い条件の縁談だったのに‥クソォッ!!」
えええええ。
あ‥いや、でも私も18歳。結婚は、お家存続の為にも娘として必要な仕事の1つ。そうか、この嘘が続く限り私はその責務を果たせないのか。それは娘として両親に非常に親不孝な‥
「安心してください。俺がいるじゃないですか」
「「‥‥」」
ノアがにっこりと笑う。
ど、どういう意味で言っているんだ?ノアがうちの養子になって嫁を貰うとでも‥‥?ズキッ。‥‥また胸が痛いぞ。
「‥‥ノア、お前はその、」
「奴隷、ですか?」
ノアは笑顔のまま表情を変えない。
奴隷として我が家に来たけれど、ここまで健やかにのびのびと生活している奴隷がこの世に他にいるものか。
籍が入っていないだけの養子みたいなものだ。それか知人から引き取り幼い頃から面倒を見ているとか、そんなニュアンスだ。うちでは。
「そ、そうだ。公には‥その、奴隷ではなく、幼い頃からアデルに仕えている護衛という肩書きだが‥」
「ならそのままでいいじゃないですか。俺が奴隷だったことはウルフ家と俺を拾った取引先しか知らないけど、どちらもバレたらご法度だから口外できないんだし、俺は幼い頃からずっとアデルの護衛だったってことで」
「そ、それにしてもだ。子爵家の婿に、ただの護衛は‥」
ん?子爵家の婿‥‥?
いまいち話についていけないまま、2人の顔を交互に見る。‥どういうことだ?ノアが養子になるという話じゃなかったのか?
「ただの護衛じゃありません。四天王を倒しましたしこの調子で魔王もやっつけます」
「うっ‥‥!!」
「それに今回の旅でも、魔族を倒しまくって相当な大金を手に入れました。魔王を倒したって魔族が滅びるわけではないから、俺は一生食いっぱぐれません。そのうえ魔族の骨は良い武器になり、魔族は時に宝石も落とします。魔族の毛皮は一部相当高値で買い取られますし‥魔族のグッズショップ増えているんですよ?ウルフ家は商家ですから、かなり貢献できると思いますけど」
「ぐむむむっ」
「それに、魔王を倒した暁には王家からたんまり褒美をもらうつもりです。称号も貰えるだろうし、土地や屋敷も貰えるかもしれません。俺は、ただの護衛じゃないので」
‥‥本当にこいつ14歳か?ペラペラペラペラとよく口が回るもんだ。
ところで‥
「つまりどういうことだ?」
私はついに口を開いた。私ひとりだけ捉え方がズレているような気がするのだ。
「ア、アデル‥その、だな。お前の婿として‥」
「アデルは俺の奥さんになるってこと」
「ん‥‥‥んん?!」
な、なんだと?!私がノアの、お、お、奥さん?!
わ、わ、私は、お前のは、は、母、なのに?!(注:母ではない)
「‥‥はぁ。しかし、悪い話ではないなぁ。
それに、呪いのことを踏まえても‥」
「ま、待ってください。ノア‥‥正気か?」
状況が状況なだけに真っ向から否定もできないのがもどかしい。
今更呪いのことが嘘だったと伝えれば父はカンカンに怒ってノアを追い出してしまうかもしれない。
「は‥?正気も何も、愛してるって伝え合っただろ。
一生一緒にいたい、ずっと守る、絶対離れないって抱き締めあったばかりなのに」
まるで“ボケたのか?”とでも言いたそうに半目になるノア。
しれっと爆弾を落としやがったな。こいつ。
「な、なんだと?!?!2人は既に恋仲だったのか?!?!」
「まぁ、もちろん指一本触れてませんけどね?」
さっきも私の口を押さえていただろうが。
それに、抱き締めあったばかりって自分で言ってたぞ。
ほらみろこの父の姿を。大いに動揺している。
まぁここまでずっと2人で過ごしていたんだから、親としてはそういう可能性を考慮しているとも思っていたのだが、父はノアのことを純粋に護衛として見ていたようだ。
まぁそれにしても‥愛してるのは間違いないが、ほら、それは母としての愛情を伝えようとしたのであって‥その、異性として、ではなく‥
じわじわと顔が紅潮していくのが分かる。
ただ父の手前、母の愛なんですと訂正することもできない。
「‥‥‥あ、愛してるのか?ノアのこと‥‥」
父が私を真剣に見つめている。
「‥‥あ、愛してはいます‥が」
母としてです。何故か近頃、不整脈が続いたり‥
ノアを想うばかりに、前世を含めて人生初の大号泣をしたりと、体に異変ばかり起きているのが気がかりだ。
そしてこんな時にも、私を見つめて柔らかく笑うノアに、ズクリと胸に矢が刺さったような感覚を感じて、戸惑ってしまうのだが。
近々‥病院に行ってみるべきなのだろうか‥。
0
お気に入りに追加
281
あなたにおすすめの小説
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。お供は犬っぽいナルシストです。
吉瀬
恋愛
10歳で異世界を訪れたカリン。元の世界に帰されたが、異世界に残した兄を想い16歳で再び異世界に戻った。
しかし、戻った場所は聖女召喚の儀の真っ最中。誤解が誤解を呼んで、男性しかなれない勇者見習いに認定されてしまいました。
ところで私は女です。
致し方なく出た勇者の格付の大会で、訳あり名門貴族で若干ナルシストのナルさんが下僕になりました。
私は下僕を持つ趣味はありません。
「『この豚野郎』とお呼びください」ってなんだそれ。
ナルさんは豚じゃなくてむしろ犬だ!
√ナルニッサ
限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。―――
とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。
最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。
だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!?
訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる