12 / 26
第12話
しおりを挟む朝目が覚めると、ノアが明らかに怒っていた。
言葉を発さなくても分かる。お主、キレているな?
「‥‥おはよ、ノア」
どうして怒っているのかなんて簡単に分かってしまう。
ノアが私の指先を脱脂綿で消毒して絆創膏を貼っていたからだ。
そういえば回復魔法を使うための聖の精霊との契約呪文はまだ教えていなかったな。
むっすぅぅぅと頬を膨らますノアは、やっと私を視界に入れるとすぐに溜息を吐いた。
「どうりで魔族の数が多いわけだよねぇ?アデルさん?
(約:てめぇ精霊に血与えて魔族呼び寄せてやがったな)」
まるで悪魔だな、その顔。
精霊との正規の契約は契約呪文によるもの。精霊がいざ力を貸してくれたその時に術者の魔力が上乗せされることで、昨日の地獄の業火みたいなことが起こる。まぁ普通はあんな炎起きないけど。
私の今回のやり方は裏ルートだ。正規の使い方ではなく、「つかいっぱしりになって!」という時に大変便利な手段なのだ。
「血の数滴ぐらいどうだっていいだろ」
「‥‥よくない」
「‥はぁ。使えるものは使うべきだ。
お前は頭が固すぎるぞ。血の数滴で死ぬとでも?」
「血の一滴でもやりたくない」
「‥‥‥は?」
天使の赤い双眼が私を捉えた。不機嫌なままのその瞳はいつもより幾許か鋭い。
「アデルの何かを誰かに与えるとか無理!!与えられるの俺だけにしてよ。ねぇ。俺特別なんだよね?毎日ずっと言ってたもんね?」
言葉を失うとはこのこと。
毎日一緒にいすぎて気付かなかった。あの屋敷で毎日同じような日々を送っていたから‥。
こいつ、執着心すごすぎないか‥?
「‥‥お前、そんなんじゃ将来嫁が泣くぞ‥」
「は?!」
「自分の母親に寄り掛かりすぎると、嫁は嫌な思いしかしないんだ。私が昔そうだったんだ。大変だったんだぞ」
「‥‥ちょっと待て。それ何?どゆこと?詳しく説明して」
「って母上が言ってた」
「‥‥」
ふぅ。危なかった。
この日も次の日も。精霊に血を与えたのはノアだった。
精霊は異様に張り切って馬鹿みたいに強い魔族も何体も連れてきたけど、ノアはなんの苦労もなく魔族たちをやっつけていた。
もう何度も何度も関所に顔を出したせいで、すっかり顔も覚えられてしまった。私たちは今や信じられない程に莫大な資金を手にしているのだ。(全てノアの稼ぎだけど)
結局のところ、私は2週間キューブに籠ってノアの戦いを見ているだけだった。ノアは凄まじい勢いで実践を重ね、魔族との戦い方をすっかり身に付けてしまった。
ウルフ領内にいたものの精霊を使って魔族を呼び寄せまくっていた為、周辺地域の魔族をほぼほぼ一掃することとなった。関所から報告を貰っていた国王からは褒美まで頂くことになった。
ノアはその褒美を父と母に「いつもお世話になってます」と言って渡した。ノアの今までの食費や生活費を差し引いても余りに余りまくる褒美を受け取った父と母は泣いて喜んだ。
魔族を倒して換金した金は勿論全てノアのものだ。私はキューブの中で寝っ転がっていただけなのだから。
14歳が持ち歩くには大金すぎるものの、いかんせんノアは馬鹿みたいに強い。強盗の心配はないだろう。
今まで小遣いすらほとんど必要としない生活を送っていた私たちだったが、ノアが大金を手にして何を買いたがるのか観察してやろうと思っていた。
のだが。
「おい、またか」
部屋に運ばれてくるのは大量の花束。そして大量のドレスや装飾品。
「今日は‥このドレスにこのアクセサリーがいいんじゃない?靴はこれで!」
ノアは私を着せ替え人形にするという趣味を見つけたらしい。
「‥‥昨日言ったよな?自分の為に金を使えと言ったよな?」
「うん。だからほら、使ってるだろ」
「‥‥」
違うだろ。
結局そんなこんなで、ノアが自分の為に使った金は武器と防具にのみ。なんてつまらないやつなんだ。もっと欲を持て、欲を。
ノアが偉大な功績を残した為、父と母が更なる旅を許すのも当然だった。まぁ1ヶ月後に帰ってきなさいという条件付きだったのだが。
「帰ってきたら縁談があるからな」
私たちを見送る父が突然そんなことを口に出す。
縁談‥‥?あぁ、そうか。私は18歳。もうそういう歳なのか。
だが、まだノアを勇者にできてないうえ、魔王退治という最終目標もある。ノアに勇者の力を渡し、あとはよろしく!という無責任なことはできないだろう。つまり縁談や婚約なんぞにうつつを抜かしている場合ではない。
「父上、私はまだ‥」
と、やんわり伝えようとした私の言葉を遮ったのはノアだった。
「縁談は全てお断りください」
「「「え」」」
父と母と私の声が重なった。見事なハーモニーだ。
「では、行って参ります」
ノアがキラキラした表情で爽やかに言った。
「ま、待て!ノア‥!」
父が慌てて声を掛けるも、ノアは眩しい笑顔を見せたまま。
「次はもっともっと武勲をたててきますね」
「お、お前‥何を企んで‥!」
父の言葉の途中で扉は閉まってしまった。
私はといえば、ノアの私への執着にほとほと呆れているものの、父のフォローをするのもめんどくさい為そのまま足を進めた。
ノアはいつになったら母離れできるのやら。
0
お気に入りに追加
281
あなたにおすすめの小説
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
ヒュントヘン家の仔犬姫〜前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています〜
高遠すばる
恋愛
「ご主人さま、会いたかった…!」
公爵令嬢シャルロットの前世は王太子アルブレヒトの愛犬だ。
これは、前世の主人に尽くしたい仔犬な令嬢と、そんな令嬢への愛が重すぎる王太子の、紆余曲折ありながらハッピーエンドへたどり着くまでの長い長いお話。
2024/8/24
タイトルをわかりやすく改題しました。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる