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第5話

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 夕食の時間となり食堂へ向かう。もちろん私の隣にはノアがいる。
あんなに抵抗していたのが嘘かのように、ノアはメイドや使用人たちの視線を拒むようにおとなしく下を向いて歩いていた。

 物珍しいものを見るかのような視線が私たちを襲う。そりゃあそうだろう。堂々と奴隷を連れて歩く令嬢がいるはずない。しかも私はまだ10歳なのだ。
 それに、ノアの容姿が天使すぎるのもこの視線の原因なのだろう。まぁその容姿を利用しないわけにはいかない。

「ア、アデル?!その少年は‥!なぜここに連れてきた!」

 食堂に着くなり、父が驚きの声をあげる。おっとりしている母ですら「まぁ!」と大きな声を上げた。

「素敵な誕生日プレゼントをありがとうございます、父上」

「貴方‥娘へのプレゼントが少年‥ですの?」

 笑顔の私とは裏腹に母の顔が思いっきり引き攣っている。

「な、南国の王族に人気らしいんだよー!」

 私が以前言ったハッタリを懸命に母に伝えているが、そんな台詞じゃ母が納得するわけないじゃないか。本当に商人なのか?父よ‥。

「母上。彼の名はノアといいます。
ノアは南国の王族が求めているという稀少な血を継ぐ子供。このような天使のような容姿を持ちながら、魔力や体力に優れて高い戦闘力を持ち、その上非常に従順‥主人となった者を死ぬまで守り通すとも言われている程なのです」

 嘘も方便ということだ。こうして事実を織り交えながら伝えれば、真実味も増すというもの。

「ま、まぁ‥」

 母の表情が変わった。まるで私も欲しい‥と言わんばかりの目の見開き‥。まぁ当然の如く容姿と戦闘力以外はハッタリなのだが。ノアを私と共に行動させる為にはここまで言わなければ許されないだろう。

「ノアの魅力、伝わりましたか?
私は父上と母上の血を継ぐウルフ家の長女です。ウルフ家を守っていく為にも優秀な側近が欲しい。‥裏切りという一番の恐怖を考えずに済む側近が。
ノアと兄弟のように幼少期を過ごしながら、時が来たら彼には護衛もできる側近になってもらえれば‥。そう思っています」

 悪徳商家などいつ潰れたって構わない。ウルフ家に誇りなんて持っていないのだからどうなってもいいのだ。ただ愛娘にこう言われれば落ちない親はいないだろう。
 爵位の高い家からまだしも、奴隷商を営む子爵家。ここまでのハイスペックな人材だと伝えれば奴隷を身近に置くことへのハードルも下がるだろう。
そのうち父や母の方から「娘の護衛」なのだと周囲に言うようになるかもしれないな。

「‥ノアです」

 ノアは父と母の表情を探るようにしながら小さく呟いた。その愛らしい姿に母は一瞬で心を奪われたようだったが、内心私は驚いていた。この幼さで、奴隷としてウルフ家に買われたという境遇で‥何故この場で挨拶ができるのだろう、と。勇者一族が故の流石の順応力‥とでも言うべきか。

「ど、どうやら必死に探しただけあってその苦労に見合う価値があるみたいだなぁ。ま、まぁ知ってたんだけどねー‥。もっと探そうかなー‥」

 ノアの将来性を印象付けたせいか、ノアの代わりに父がドヤ顔をしている。そしてそんな父に対して「素敵だわ」と褒め言葉を落としてあげている母は今日も煽て上手だ。

「本当に稀少な血ですから、他にいるかどうか」

 そう言う私の横で、ノアが口角を上げた気がした。
ーー笑った、のか?‥何故?自分が貴重なんだと知って嬉しくなったのだろうか。それにしては嬉しそうな表情には見えなかったのだが。嘲笑うような、それでいて蔑むような‥。

「そ、それもそうだなぁ!この世は魔族との共存の世界‥。
悪い商売を企てる人間たちも多いことだし、ノアには頑張って貰わなくてはいけないねぇ!」

 悪い商売をしているあんたが言うのか、父よ。
それに、私は魔族との共存の世界だなんて認めていない‥。まぁ、私ひとりが抵抗したところでこの世は1ミリも姿を変えないのだが。

「それにしても、父上はどこでノアを見つけたのですか?」

「そ、それがー‥、いつもやりとりしている取引先がいるんだけど、その人が急に寄越したんだよ」

「‥‥いつもやりとりしている取引先‥?」

 私の眉根に皺が寄った。
そんな身近なところに勇者の一族がポン、と現れるものか‥?

「貴方、アデルちゃん。ノアちゃんの前で話すには不躾なんじゃないかしら?ノアちゃん、一緒にお夕飯を食べましょう!」

 母の一言で私はハッと我に返った。
確かにノア本人の前で話す内容でもなかったな。ノア本人は特に気にもせずに食事に気を取られているけど‥。この話は今度父と2人の時に詳しく聞こう。

 ノアは先ほど菓子を散々食べたことを忘れているのかと思うほどに大量に食事を摂っていた。あまりの食べっぷりに見入ってしまうほどだった。
 父と母があまりにも娘を信頼してくれているお陰ですんなりとノアが受け入れられた気がするな。土台はうまく作れたようだ。
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