24 / 26
第23話 ロン、噴火する
しおりを挟むーーーこの広い庭園はジェシーと小さい頃によく遊んだ場所。
もう小さな子どもはいないのに、ジェシーが好きだった白いブランコはいつ見ても綺麗に整備されていて、いつでもジェシーを見守ってる。
そんなブランコを見つめる俺‥‥と叔父さん。あのあと、叔父さんは俺と2人で話がしたいと言った。すぐさまジェシーが何やら声をあげようとしていたけど、叔父さんは「分かってる、大丈夫」とだけ答えていた。
そうして連れて来られた庭園で、今まさに会話が始まろうとしているところだ。
「小さい頃からロン君がジェシーを好いているのは分かっていたよ」
「‥!」
まじまじとそう言われてしまうと恥ずかしい。ずっとジェシーにツンツンし続けていたにも関わらず、周りの大人たちには俺の気持ちは筒抜けだったんだろうな‥。
「‥‥‥‥‥家柄的にもね、将来はロン君と結婚するんだろうな‥とはね、ずっと思っていたよ」
「‥‥あの時の約束を守れなくてすみませんでした」
ひどく哀愁が漂っている叔父さんにそう言って謝罪をすると、叔父さんはゆっくりと瞼を閉じてから小さく首を横に振った。
「‥‥‥いいんだ。あれはいつまでも娘を嫁に出す決意ができていなかった俺のワガママだよ。ロン君もジェシーも、しっかり立派に育っているし、2人をちゃんと信頼してる。手を繋いだり、キスをしたり‥そのくらいなら好きにしていいんだよ、本当は。どうしても認めたくなくてね‥。いつまでも娘離れができずに申し訳ない」
叔父さんのまさかの発言に驚きを隠せない。一体何が叔父さんを変えたんだろう。
さっきジェシーの本心を聞いてしまったからかな‥。眉毛は下がりっぱなしだし、背中から漂う哀愁もすごい。
本当は、可能ならばいつまでもジェシーをどこにも嫁がせずに可愛がっていたいんだろう。だけど、そんな気持ちを押し殺して俺たちに理解を示してくれたんだ。
「‥‥ありがとうございます‥」
「ーーーロン君、君は馬鹿正直に僕に報告しようとしていたんだろう?‥‥そんな君になら安心してジェシーを任せられると思ったんだ。だから、ようやく認める気になったんだよ。‥‥それに、ジェシーも君の気持ちを受け入れているようだし‥」
叔父さんは雲ひとつない空を見上げて大きく息を吐いた後に、「戻ろうか」と言った。
さっき母に叱られた時にもにわかに感じた違和感をここでも感じつつ、叔父さんの少し後ろを歩いていく。
ーーなんか、何かが引っかかってる。‥なんだろう?
叔父さんが認めてくれた嬉しさと、親類一同公認でキスしてしまったという恥ずかしさが混同している。
屋敷内に戻るとジェシーが駆け寄ってきた。その後ろには母と叔母さんもいる。
みんなからの視線を集めた叔父さんは、ふぅ、と小さく息を吐いた後にジェシーに向かって微笑んだ。
「準備があるから結婚を早めることはできないけど‥2人にとっての壁になるつもりはないよ‥」
「お父様‥!ありがとう」
母は叔母さんとアイコンタクトを取ったあとに「ではそろそろ帰りますわ。スーザン!行くわよ」と言ってパッと扇子を広げた。
侍女のスーザンは小さく頷くと直ぐにテキパキと動き出す。生まれた時からずっと母の側にいるスーザンを見続けてきたけど、スーザンはやはり母にとって右腕のような存在なんだと思う。
同じ屋敷に帰る予定の俺に母は何も声を掛けてこない。もう少しジェシーと過ごしてから帰ってこいとでも思っているんだろう。
叔父さんがその場を去った後、ジェシーと共に2階のテラスへと足を運んだ。花に囲まれたテラスからは遠くの街まで見下ろすことができる。
ここからの景色、俺は結構好き。
「私、ここからの眺めが好きなんだよね‥」
「!‥‥俺も」
「ほんと?嬉しい‥!」
ジェシーの綺麗な髪が太陽の光を浴びて輝いている。振り返りながら目尻を下げるジェシー。‥ほんと、なんて可愛いんだろう。
「‥‥叔父さん、許してくれたけど‥キスのこと、ごめん」
どこから聞かれていたのかはわからないけど、結局ジェシーが危惧していたように叔父さんをシュンとさせてしまった。
「ううん。‥‥お父様、なんだか吹っ切れていたから‥むしろいい機会だったのかもしれない」
もう結婚も心から認めてくれてる感じだった。
‥婚約後も結婚までの間にジェシーが嫌がるようだったら婚約を取りやめると言っていたり‥、以前はジェシーの恋人になれていないじゃないか!と叱咤してきたりしていたのに。
叔父さんから見て、俺とジェシーがちゃんと恋人のように見えるようになってことなのかな。
母もさっき「気持ちが互いを向いているからキスに至った」って言ってた。
そうだ。引っかかっていた部分って、これだ‥‥。
ジェシーはエドの神具で俺たちのキスを見たから強くキスを意識するようになったのかと思ってたんだけど‥
ま、周りから見ると、俺たちがちゃんと両思いに見えてる‥‥‥ってこと?
「いやいやいや‥」
「ロン?」
‥‥ジェシーもね、もう随分俺のこと意識してくれてる感じはするし、俺のことカッコいいとも言ってくれたし、俺の好意を受け入れてくれているけど‥
ジェシーが俺のこと好きだとは一度も言ってきたことはない。
いつかは俺のことも異性として好きになって欲しいと思ってたし、恋人のような関係で結婚できたら幸せだなと思っていたけど‥‥。
‥‥どうしよう、聞いてみたい。でも聞いたら困らせるかな‥?気を使って「好き」だと言わせちゃうのは嫌だし‥
「わ、」
ジェシーの手が伸びてきて、ごちゃごちゃ考えている俺の髪に触れた。
「えへへ、風で葉っぱが飛んできたみたいだよ」
そう言って葉っぱを取ってくれたあと、にこにこ微笑んだまま俺を見てる。
‥‥‥ジェシーっていつからこんな笑顔を向けてくれるようになったんだっけ。うん、この笑顔はなんていうか、好きな人に向けられている笑みのように感じる‥。いや、自惚れかな?
くそ、とりあえずめちゃくちゃ可愛い。
「‥なんかさぁ、いよいよ結婚が現実味を帯びてきちゃったね」
「‥‥そうだね。‥後悔してない?」
「え?なにが?」
「俺との結婚‥」
俺はずーーーーっと願ってきたけどね。ジェシーのことが来る日も来る日も大好きだったから。
心の中で今日もひたすらに告白を繰り返しているけれど、少しでもカッコつけたくてクールぶっている俺ってなんて滑稽なんだろうか。
「してないよ。婚約した時は戸惑ったけどね。でも今は毎日幸せに思ってるよ」
「‥‥‥俺も」
「ふふ。好きな人と結ばれるって‥すごいことだよね」
ーーーーん?
どうやら今の心の声はそのまま「ん?」と声に出ていたらしい。きょとんとした俺に対し、ジェシーが首を傾げる。
俺の立場から話してるってことか?
「両思いで結婚できるってすごいことじゃない?私の周りのお友達は両思いでも結婚を許されない人たちが結構いてさぁ‥他に好きな人がいても政略結婚しなきゃいけないなんて、まぁ当たり前のことなんだけど‥やっぱりそんなの苦しいから‥」
なんかすっごい当たり前に話してるけど、あれ?え?聞き間違い?
「‥‥両思い?」
「え???????ロン‥‥私のこと好きじゃなくなっちゃったの‥‥?」
ん?え?いや‥‥
「めちゃくちゃ好きですけど‥」
俺がそう言うと、ジェシーはパァッと表情を明るくした。
「よかったぁ」
いやいや、そうじゃなく‥‥
「ジェシーって、俺のこと好きなの‥‥?」
「え?すっっごく好きだよ?」
ドッカーン、と心の奥底から何かが噴火したような気がした。なんなの?両思いになってたの?え?!WHAT?!
0
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
失敗作の愛し方 〜上司の尻拭いでモテない皇太子の婚約者になりました〜
荒瀬ヤヒロ
恋愛
神だって時には失敗する。
とある世界の皇太子に間違って「絶対に女子にモテない魂」を入れてしまったと言い出した神は弟子の少女に命じた。
「このままでは皇太子がモテないせいで世界が滅びる!皇太子に近づいて「モテない魂」を回収してこい!」
「くたばれクソ上司」
ちょっと口の悪い少女リートは、ろくでなし上司のせいで苦しむ皇太子を救うため、その世界の伯爵令嬢となって近づくが……
「俺は皇太子だぞ?何故、地位や金目当ての女性すら寄ってこないんだ……?」
(うちのろくでなしが本当にごめん)
果たしてリートは有り得ないほどモテない皇太子を救うことができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる