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第23話 ロン、噴火する

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 ーーーこの広い庭園はジェシーと小さい頃によく遊んだ場所。

 もう小さな子どもはいないのに、ジェシーが好きだった白いブランコはいつ見ても綺麗に整備されていて、いつでもジェシーを見守ってる。

 そんなブランコを見つめる俺‥‥と叔父さん。あのあと、叔父さんは俺と2人で話がしたいと言った。すぐさまジェシーが何やら声をあげようとしていたけど、叔父さんは「分かってる、大丈夫」とだけ答えていた。

 そうして連れて来られた庭園で、今まさに会話が始まろうとしているところだ。

「小さい頃からロン君がジェシーを好いているのは分かっていたよ」

「‥!」

 まじまじとそう言われてしまうと恥ずかしい。ずっとジェシーにツンツンし続けていたにも関わらず、周りの大人たちには俺の気持ちは筒抜けだったんだろうな‥。

「‥‥‥‥‥家柄的にもね、将来はロン君と結婚するんだろうな‥とはね、ずっと思っていたよ」

「‥‥あの時の約束を守れなくてすみませんでした」

 ひどく哀愁が漂っている叔父さんにそう言って謝罪をすると、叔父さんはゆっくりと瞼を閉じてから小さく首を横に振った。

「‥‥‥いいんだ。あれはいつまでも娘を嫁に出す決意ができていなかった俺のワガママだよ。ロン君もジェシーも、しっかり立派に育っているし、2人をちゃんと信頼してる。手を繋いだり、キスをしたり‥そのくらいなら好きにしていいんだよ、本当は。どうしても認めたくなくてね‥。いつまでも娘離れができずに申し訳ない」

 叔父さんのまさかの発言に驚きを隠せない。一体何が叔父さんを変えたんだろう。
 さっきジェシーの本心を聞いてしまったからかな‥。眉毛は下がりっぱなしだし、背中から漂う哀愁もすごい。

 本当は、可能ならばいつまでもジェシーをどこにも嫁がせずに可愛がっていたいんだろう。だけど、そんな気持ちを押し殺して俺たちに理解を示してくれたんだ。

「‥‥ありがとうございます‥」

「ーーーロン君、君は馬鹿正直に僕に報告しようとしていたんだろう?‥‥そんな君になら安心してジェシーを任せられると思ったんだ。だから、ようやく認める気になったんだよ。‥‥それに、ジェシーも君の気持ちを受け入れているようだし‥」

 叔父さんは雲ひとつない空を見上げて大きく息を吐いた後に、「戻ろうか」と言った。

 さっき母に叱られた時にもにわかに感じた違和感をここでも感じつつ、叔父さんの少し後ろを歩いていく。

 ーーなんか、何かが引っかかってる。‥なんだろう?

 叔父さんが認めてくれた嬉しさと、親類一同公認でキスしてしまったという恥ずかしさが混同している。

 屋敷内に戻るとジェシーが駆け寄ってきた。その後ろには母と叔母さんもいる。

 みんなからの視線を集めた叔父さんは、ふぅ、と小さく息を吐いた後にジェシーに向かって微笑んだ。

「準備があるから結婚を早めることはできないけど‥2人にとっての壁になるつもりはないよ‥」

「お父様‥!ありがとう」

 母は叔母さんとアイコンタクトを取ったあとに「ではそろそろ帰りますわ。スーザン!行くわよ」と言ってパッと扇子を広げた。
 侍女のスーザンは小さく頷くと直ぐにテキパキと動き出す。生まれた時からずっと母の側にいるスーザンを見続けてきたけど、スーザンはやはり母にとって右腕のような存在なんだと思う。

 同じ屋敷に帰る予定の俺に母は何も声を掛けてこない。もう少しジェシーと過ごしてから帰ってこいとでも思っているんだろう。



 叔父さんがその場を去った後、ジェシーと共に2階のテラスへと足を運んだ。花に囲まれたテラスからは遠くの街まで見下ろすことができる。

 ここからの景色、俺は結構好き。

「私、ここからの眺めが好きなんだよね‥」

「!‥‥俺も」

「ほんと?嬉しい‥!」

 ジェシーの綺麗な髪が太陽の光を浴びて輝いている。振り返りながら目尻を下げるジェシー。‥ほんと、なんて可愛いんだろう。

「‥‥叔父さん、許してくれたけど‥キスのこと、ごめん」

 どこから聞かれていたのかはわからないけど、結局ジェシーが危惧していたように叔父さんをシュンとさせてしまった。

「ううん。‥‥お父様、なんだか吹っ切れていたから‥むしろいい機会だったのかもしれない」

 もう結婚も心から認めてくれてる感じだった。
‥婚約後も結婚までの間にジェシーが嫌がるようだったら婚約を取りやめると言っていたり‥、以前はジェシーの恋人になれていないじゃないか!と叱咤してきたりしていたのに。

 叔父さんから見て、俺とジェシーがちゃんと恋人のように見えるようになってことなのかな。

 母もさっき「気持ちが互いを向いているからキスに至った」って言ってた。

 そうだ。引っかかっていた部分って、これだ‥‥。



 ジェシーはエドの神具で俺たちのキスを見たから強くキスを意識するようになったのかと思ってたんだけど‥

 ま、周りから見ると、俺たちがちゃんと両思いに見えてる‥‥‥ってこと?

「いやいやいや‥」

「ロン?」

 ‥‥ジェシーもね、もう随分俺のこと意識してくれてる感じはするし、俺のことカッコいいとも言ってくれたし、俺の好意を受け入れてくれているけど‥

ジェシーが俺のことだとは一度も言ってきたことはない。

 いつかは俺のことも異性として好きになって欲しいと思ってたし、恋人のような関係で結婚できたら幸せだなと思っていたけど‥‥。
 ‥‥どうしよう、聞いてみたい。でも聞いたら困らせるかな‥?気を使って「好き」だと言わせちゃうのは嫌だし‥


「わ、」

 ジェシーの手が伸びてきて、ごちゃごちゃ考えている俺の髪に触れた。

「えへへ、風で葉っぱが飛んできたみたいだよ」

 そう言って葉っぱを取ってくれたあと、にこにこ微笑んだまま俺を見てる。

 ‥‥‥ジェシーっていつからこんな笑顔を向けてくれるようになったんだっけ。うん、この笑顔はなんていうか、好きな人に向けられている笑みのように感じる‥。いや、自惚れかな?

 くそ、とりあえずめちゃくちゃ可愛い。

「‥なんかさぁ、いよいよ結婚が現実味を帯びてきちゃったね」

「‥‥そうだね。‥後悔してない?」

「え?なにが?」

「俺との結婚‥」

 俺はずーーーーっと願ってきたけどね。ジェシーのことが来る日も来る日も大好きだったから。

 心の中で今日もひたすらに告白を繰り返しているけれど、少しでもカッコつけたくてクールぶっている俺ってなんて滑稽なんだろうか。

「してないよ。婚約した時は戸惑ったけどね。でも今は毎日幸せに思ってるよ」

「‥‥‥俺も」

「ふふ。好きな人と結ばれるって‥すごいことだよね」


 ーーーーん?


 どうやら今の心の声はそのまま「ん?」と声に出ていたらしい。きょとんとした俺に対し、ジェシーが首を傾げる。

 俺の立場から話してるってことか?

「両思いで結婚できるってすごいことじゃない?私の周りのお友達は両思いでも結婚を許されない人たちが結構いてさぁ‥他に好きな人がいても政略結婚しなきゃいけないなんて、まぁ当たり前のことなんだけど‥やっぱりそんなの苦しいから‥」


 なんかすっごい当たり前に話してるけど、あれ?え?聞き間違い?


「‥‥両思い?」

「え???????ロン‥‥私のこと好きじゃなくなっちゃったの‥‥?」


 ん?え?いや‥‥

「めちゃくちゃ好きですけど‥」

 俺がそう言うと、ジェシーはパァッと表情を明るくした。

「よかったぁ」

 いやいや、そうじゃなく‥‥

「ジェシーって、俺のこと好きなの‥‥?」

「え?すっっごく好きだよ?」





 ドッカーン、と心の奥底から何かが噴火したような気がした。なんなの?両思いになってたの?え?!WHAT?!

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