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第16話 ロン、泣かれる

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 ジェシーは特製フルーツタルトの名前を聞いて驚いていた。

「え‥‥?ジェシカスペシャル‥?」

「っ!!」

 どういうこと?とジェシーが俺の目を見てくるけど、俺はふいっと視線を逸らした。だってさすがにこれは恥ずかしい!!ジェシーに喜んで欲しくて新しいタルトを開発してもらったけど、それを俺が頼んだって知られるのが恥ずかしすぎる!!

 ーーーそれなのに!!スーザン!!
店と俺との架け橋になってくれていたのはスーザンだった。“ジェシカスペシャル”だなんてネーミングを付けたのもスーザンだろっ!!!

「‥‥た、たまたまじゃない。たぶんオーナーの娘とかがジェシカって名前なんだよきっと」

 俺がブツブツとそう言うと、ジェシーは首を傾げながら店のスタッフを見た。
 小さすぎた俺の声はスタッフには届いていなかったらしい。スタッフは満面の笑みを浮かべて口を開いた。

 ちなみに後からわかったことだけど、このスタッフはジェシーの家とそこそこ付き合いがあるらしい。叔母さんが若い頃からしょっちゅうここのタルトを取り寄せていたそうで、ジェシーも何度も顔を合わせている間柄だった。

 だから、スタッフは心底嬉しそうに言い放ったのだ。

「公子様の命でございます。婚約者であらせられるジェシカ様に喜んで貰いたいとのことで‥」

 ぬあああああっ。

 両手で顔を覆い下を向く俺は、あまりにも長い間ジェシーが黙り込んでいることに気が付いた。

 あれ‥?もしかしてジェシー‥引いてる?
そりゃあそうだよな‥自分の名前が付いたタルトなんて‥

 指と指の隙間からチラッとジェシーを覗き見た。恐る恐るとはまさにこのことである。

「ーーーーーーえ?」

 ジェシーが‥!ジェシーが!!!

「なんで泣いてるの?!?!」

 眉を顰めてぽろぽろと涙を溢すジェシー。そんなに嫌だった?!え?!婚約解消される?!嫌われた?!

「ジェ、ジェシー!ごめ、ごめん!そんなに嫌だとはーーー」

 立ち上がって狼狽える俺を見て、ジェシーはふりふりと首を横に振った。

「ちがうの‥ちがうの。ロン、ありがとう‥。私、嬉しすぎて泣いちゃった。あはは」

「えぇ?!」

 ーーー嬉し泣き?!
まさか喜んでくれたなんて‥いや、それにしても泣くほど嬉しいことなのか?!もしかしてジェシー、本当は引く程嫌だったけど俺に気を使ってそんなことを言っているんじゃ‥。

 泣き止もうとしたはずのジェシーは、数秒黙った後にまた顔をくしゃっと歪ませた。そして再び大粒の涙がポロポロと溢れていく。

「ちょ、ジェシー、ごめんって!!」

「だっでぇ゛」

「もう、こういうことしないから、引かないで‥!」

「やだっ」

「えっ」

 ーーーガーン!!!
やばい、やばい、拒絶された、あぁ、死ぬ‥!!

「‥これからもこういうの、してほしい‥‥。ロン、本当に私のこと、好きなんだなって‥。い、いつから好きで、いてくれたのか分からないけど‥なんか、本当に想ってくれてるの、実感して嬉しくて‥」

 時折しゃくり上げながらそんな言葉を落としたジェシー。ぐしゃぐしゃになりながらも必死に心境を伝えようとしてくれている。

 心臓が締め付けられたような感覚になる。ーーーもう、なんなの。可愛すぎて辛いんだけど‥。

「‥‥好きだよ。本当に好きなんだよ」

 焦がれるようなこの想いがジェシーに少しでも届けばいいと思う。

「ありがとう‥ロン。すごく嬉しい」

 涙を拭って、まるで花が咲いたような笑顔を見せるジェシーにくらくらした。

「‥‥‥せいぜい覚悟しておいた方がいいんじゃない」

「‥え?」

「‥‥俺はジェシーが想像する以上にジェシーを想ってるから。そうやって泣いて喜んだりしてる姿見せてくれちゃってるけど、本当に引くぐらい好きだから。こんなもんで泣いて喜んでたら身がもたないと思うけど?」

 ーー恥ずかしいけど、正直嬉しい。
好きだという気持ちがジェシーに届くと、ジェシーはこんなに喜んでくれるんだ。

「へへ、覚悟、しておくね」

「っ」

 さらっと悶絶級の笑顔を見せられた俺は今日何度目か分からない目眩に襲われた。

 ーー好きな気持ちをジェシーにぶつけるとジェシーは喜んで、俺はそんなジェシーの姿を見て死にかける。
 俺は一体この先何回死にかけるんだろうか。でも死因がジェシーって、素晴らしすぎないか。‥‥やばい、思考がおかしくなってる。

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