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第6話 ロン、学ぶ
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サラ達が帰った後、俺は腕を組んで唸った。何度考えても意味がわからない。
大木の下で「歪んでいる」と言って以降、サラに歩み寄るような言葉なんて一言たりとも掛けていない。声を掛けられても適当に流すだけで、まともに関係を築いていなかったのに。
いつの間にサラに好意を持たれていたんだ。それに何故俺がウィステリア公国の婿候補にされなきゃいけないんだ。
公爵家の息子だし、そりゃあもちろん若いうちに婚約者を決めたりしなきゃいけないんだろうけど‥もうずっと前から俺にはジェシーしかいないんだよ。ジェシーしか考えられない。
家柄的にも問題ないし、きっと母も叔母さんも大喜びだし、俺だって超大喜びだし、それでいいじゃないか。
‥‥‥‥ジェシーは、喜んでくれるかは分からないけど‥。でもいつか、その時までには何とか振り向かせるし。ジェシーの可愛さに慣れて、ツンツンしないで話せるようになってる筈だし。
だから、俺はサラを断固拒否しなきゃダメなの。
「俺、婿なんていかないからね」
「そんなの当たり前じゃない。貴方はドレイパー家の跡取りなのよ。‥‥‥まぁ、一国の次期君主として迎え入れられるのも悪くない話ではあるわね。ジュリアのところの三男坊あたりをうちの養子にすれば、まぁ何の支障もないわ。‥‥って、冗談に決まってるじゃないの。顔が真っ青よ」
母は扇子で口元を隠しながら俺を見て愉快そうに笑っている。恐らく本当に冗談なんだろうけど、正直全く笑えない。貴族に恋愛結婚なんて望めないけど、俺とジェシーは家柄的にも環境的にも認められるべきだと思うんだけど?!
ーーふぅ、仕方ない。ここは少しやんわりと、俺の婚約者はジェシーだ!!と伝えないと。
絶対に後悔だけはしたくないから‥‥!!
「ーーお、お、俺、もう、心に決めた人がいるから!」
あぁぁぁぁあ、手汗がすごい。動悸もすごい。火照りがやばい。突然吹き出した汗のせいで金色の前髪が額にくっ付く。こんな一言だけでここまで乱れてしまうなんて、一体全体どういうことだ。‥あ、でもこれじゃあ心に決めた相手がジェシーだとは伝わらないか‥!あぁ、でも、今これ以上は言えない!喉まで出かかってるけど、喉の奥で「ジェシーだ!」という台詞が両手両足を広げて意地でも飛び出すものかと引っかかっている。
「へぇ?‥フッ‥‥そうなの。‥まだ‥10歳なのに‥‥フフッ‥オマセさんね。‥相手はどこの‥ブフッ‥どんなご令嬢かしら?」
何故か途中で吹き出しそうになりながら母はそう言った。扇子で口元を隠していた筈なのに、言い終える頃には顔全体を隠していた。
母はスーザンと一緒になって「ジェシーのこと好きなんでしょ?」と弄ってきたことはあったけど、それももう数年前。まさかまだジェシーのことを好いているとは思っていないだろうし、俺も態度には微塵も出していないつもりだから、母は気づいていない筈だ。
だから伝えなきゃ伝わらないのに‥恥ずかしくて伝えられない!
「こ、こ、」
「‥こ?」
「こう、公爵家の」
「まぁ!ブフッ、公爵家の方なの?」
母の肩は細かく揺れているが、俺はそれどころではなかった。公爵家は数少ない。正直俺が交流してる公爵家なんてジェシーの家しかない。そんなのジェシーだと言っているようなもんじゃないか。って、違う。それが正解なんだよ。俺が好きなのはジェシーだって、伝えるんだから。
「こ、公爵家クラスな感じの」
「え?」
「だから、まぁ、同格くらい、うちと」
違う違う違う。公爵家。公爵家クラスとかじゃなくて、公爵家!
「‥‥‥まぁいいわ、公爵家クラスということにしておきましょう。それで、どんなご令嬢なの?」
「っ、か、かわっ」
「まぁ。可愛い子なの?」
「ち、違う!」
「え?」
「か、可愛くも見えなくもない感じ!!」
「‥‥‥そう‥それで?」
「や、優しい感じもしないでもないし、健気な感じもしないでもない!!ど、どんくさいけど、真っ直ぐな感じもしないでもない!!!」
真っ赤になりながら半ば叫び気味に言い切ったことで、何故か俺は「言ってやった‥!」と満足していた。伝わったと思い込んでいたのだ。
「本当誰に似たのかしら‥」
母はやれやれと部屋を去っていき、その去り際にスーザンが俺の前で立ち止まった。
「‥ロン様。公爵家クラスのお家柄で、可愛く見えなくもなくて、優しい感じも健気な感じも真っ直ぐな感じもしないでもない、と。その方がロン様の想い人なのですか?」
「え?うん」
「それは‥‥サラ様のことでしょうか?」
「はぁ?!」
「違いましたか?ロン様の仰った条件に合致すると思いますが」
俺はサーッと血の気が引いていくのが分かった。言った気になっただけで、もしかして何ひとつ伝わってない?!
「違う!俺は、」
「‥それ程までに想っている方ならば、ここぞという時には素直にならないといけませんよ。伝わるものも伝わりませんから」
スーザンはそう言って小さく笑った後、母の後を追うようにして部屋を出て行った。
ーーーアリーの自室にて。
「あ~お腹痛い!見た?!あの真剣な顔。ーー俺、もう、心に決めた人がいるから!!(キリッ)‥だって‥ブフッ、あぁぁなんて可愛いのかしら」
「10歳にしては少々愛が重いのでは」
「まぁ、ジェシーはジュリアに似てぽわぽわしてるところもあるから大丈夫よ、きっと。たぶんロンの重い部分に気付かないんじゃないかしら」
「‥確かにそれはあり得ますね。まぁある意味お似合いと言うべきでしょうか」
「そうね!はぁぁ。笑い堪えすぎてお腹が捩れるかと思ったわ」
ーーロンが真剣に言葉の重要性について考え込んでいた間、アリーとスーザンは愛息子の成長を喜んでいたのだった。
大木の下で「歪んでいる」と言って以降、サラに歩み寄るような言葉なんて一言たりとも掛けていない。声を掛けられても適当に流すだけで、まともに関係を築いていなかったのに。
いつの間にサラに好意を持たれていたんだ。それに何故俺がウィステリア公国の婿候補にされなきゃいけないんだ。
公爵家の息子だし、そりゃあもちろん若いうちに婚約者を決めたりしなきゃいけないんだろうけど‥もうずっと前から俺にはジェシーしかいないんだよ。ジェシーしか考えられない。
家柄的にも問題ないし、きっと母も叔母さんも大喜びだし、俺だって超大喜びだし、それでいいじゃないか。
‥‥‥‥ジェシーは、喜んでくれるかは分からないけど‥。でもいつか、その時までには何とか振り向かせるし。ジェシーの可愛さに慣れて、ツンツンしないで話せるようになってる筈だし。
だから、俺はサラを断固拒否しなきゃダメなの。
「俺、婿なんていかないからね」
「そんなの当たり前じゃない。貴方はドレイパー家の跡取りなのよ。‥‥‥まぁ、一国の次期君主として迎え入れられるのも悪くない話ではあるわね。ジュリアのところの三男坊あたりをうちの養子にすれば、まぁ何の支障もないわ。‥‥って、冗談に決まってるじゃないの。顔が真っ青よ」
母は扇子で口元を隠しながら俺を見て愉快そうに笑っている。恐らく本当に冗談なんだろうけど、正直全く笑えない。貴族に恋愛結婚なんて望めないけど、俺とジェシーは家柄的にも環境的にも認められるべきだと思うんだけど?!
ーーふぅ、仕方ない。ここは少しやんわりと、俺の婚約者はジェシーだ!!と伝えないと。
絶対に後悔だけはしたくないから‥‥!!
「ーーお、お、俺、もう、心に決めた人がいるから!」
あぁぁぁぁあ、手汗がすごい。動悸もすごい。火照りがやばい。突然吹き出した汗のせいで金色の前髪が額にくっ付く。こんな一言だけでここまで乱れてしまうなんて、一体全体どういうことだ。‥あ、でもこれじゃあ心に決めた相手がジェシーだとは伝わらないか‥!あぁ、でも、今これ以上は言えない!喉まで出かかってるけど、喉の奥で「ジェシーだ!」という台詞が両手両足を広げて意地でも飛び出すものかと引っかかっている。
「へぇ?‥フッ‥‥そうなの。‥まだ‥10歳なのに‥‥フフッ‥オマセさんね。‥相手はどこの‥ブフッ‥どんなご令嬢かしら?」
何故か途中で吹き出しそうになりながら母はそう言った。扇子で口元を隠していた筈なのに、言い終える頃には顔全体を隠していた。
母はスーザンと一緒になって「ジェシーのこと好きなんでしょ?」と弄ってきたことはあったけど、それももう数年前。まさかまだジェシーのことを好いているとは思っていないだろうし、俺も態度には微塵も出していないつもりだから、母は気づいていない筈だ。
だから伝えなきゃ伝わらないのに‥恥ずかしくて伝えられない!
「こ、こ、」
「‥こ?」
「こう、公爵家の」
「まぁ!ブフッ、公爵家の方なの?」
母の肩は細かく揺れているが、俺はそれどころではなかった。公爵家は数少ない。正直俺が交流してる公爵家なんてジェシーの家しかない。そんなのジェシーだと言っているようなもんじゃないか。って、違う。それが正解なんだよ。俺が好きなのはジェシーだって、伝えるんだから。
「こ、公爵家クラスな感じの」
「え?」
「だから、まぁ、同格くらい、うちと」
違う違う違う。公爵家。公爵家クラスとかじゃなくて、公爵家!
「‥‥‥まぁいいわ、公爵家クラスということにしておきましょう。それで、どんなご令嬢なの?」
「っ、か、かわっ」
「まぁ。可愛い子なの?」
「ち、違う!」
「え?」
「か、可愛くも見えなくもない感じ!!」
「‥‥‥そう‥それで?」
「や、優しい感じもしないでもないし、健気な感じもしないでもない!!ど、どんくさいけど、真っ直ぐな感じもしないでもない!!!」
真っ赤になりながら半ば叫び気味に言い切ったことで、何故か俺は「言ってやった‥!」と満足していた。伝わったと思い込んでいたのだ。
「本当誰に似たのかしら‥」
母はやれやれと部屋を去っていき、その去り際にスーザンが俺の前で立ち止まった。
「‥ロン様。公爵家クラスのお家柄で、可愛く見えなくもなくて、優しい感じも健気な感じも真っ直ぐな感じもしないでもない、と。その方がロン様の想い人なのですか?」
「え?うん」
「それは‥‥サラ様のことでしょうか?」
「はぁ?!」
「違いましたか?ロン様の仰った条件に合致すると思いますが」
俺はサーッと血の気が引いていくのが分かった。言った気になっただけで、もしかして何ひとつ伝わってない?!
「違う!俺は、」
「‥それ程までに想っている方ならば、ここぞという時には素直にならないといけませんよ。伝わるものも伝わりませんから」
スーザンはそう言って小さく笑った後、母の後を追うようにして部屋を出て行った。
ーーーアリーの自室にて。
「あ~お腹痛い!見た?!あの真剣な顔。ーー俺、もう、心に決めた人がいるから!!(キリッ)‥だって‥ブフッ、あぁぁなんて可愛いのかしら」
「10歳にしては少々愛が重いのでは」
「まぁ、ジェシーはジュリアに似てぽわぽわしてるところもあるから大丈夫よ、きっと。たぶんロンの重い部分に気付かないんじゃないかしら」
「‥確かにそれはあり得ますね。まぁある意味お似合いと言うべきでしょうか」
「そうね!はぁぁ。笑い堪えすぎてお腹が捩れるかと思ったわ」
ーーロンが真剣に言葉の重要性について考え込んでいた間、アリーとスーザンは愛息子の成長を喜んでいたのだった。
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