軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第3章 

48話

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 ーーその日の夕方。

「わ、すごい‥!こんなに‥!」

 エラが用意してくれた資料は何枚もあった。前までは文字を読めなかったけど、リュカに教えてもらったり絵本や子ども向けの本なんかをたくさん読んでいたおかげで、今ではなんて書いてあるのかわかる。

『東部ビオラ孤児院、0歳から13歳までの子どもが現在26人いる。当地域に他に孤児院がない為に、子供の数は増えていく一方であり、職員の数も足りないうえに、建物の老朽化も酷く改築の必要がある。そもそも運営資金が足りておらず、子どもも痩せこけている現状。可能な限り多額の援助が欲しい』

「‥‥ここ、酷いね‥」

「そうなんです‥でもここだけじゃなくて他にも‥」

「‥‥本当だ‥」

 ページを捲るたびに心が沈んでしまう内容ばかりが書いてあった。そのあとマリアから聞いたけど、この地は少し前まで戦争があったから、孤児も多いし貧しい人も多いんだって。バージル様は領民の人たちのために頑張っているけど、それ以上に不幸な人の数が多いみたい。

 今日屋敷に来たのは主にセレスト領付近の人々だったけど‥きっとこれからもっと遠くから支援を頼みに来る人とかもいそうだなぁ。
 呪いを解いてる日々はお金がすぐに貯まっていたけど‥今はまだバージル様から外に出ないように言われているし、支援を求める人たちみんなに応えられるかなぁ‥。

「‥‥あ、エラ‥。酷いこと言われたりしなかった?」

「あ、はい。ギョッとされたり、嫌な顔はされましたけど‥大丈夫でした」

 バージル様が演説してくれていたり、こうして私に協力してくれているということが、みんなの理解にも繋がってるのかもしれない。

「よかった‥」

「お気遣いありがとうございます」

 エラとメルヴィンが対応してくれたおかげで、今日もたくさんのセレー人形に力を込めることができた。本当2人がいてくれてよかった‥。

 エラが部屋から出て行くなり、マリアが小さく息を吐いた。

「ーーバージル様も、もう少し何人かドロシー様のお付きを増やしてくださればいいんですけどね。まぁ今回はエラさんとメルヴィンさんに助けられましたが‥」

 マリアの言葉に、ユリアがすかさず口を開く。本当この2人は、いつ見てもまるで双子のよう。

「バージル様が信頼を寄せる従者の中で、性別が女性なのは私たちしかいないもの。仕方ないわ」

「‥そうねぇ‥。意外と心配性というか‥独占欲が強いのかもしれないわね。護衛騎士たちにも距離を取るよう指示しているし」

「最近ではリュカ様まで遠ざけているじゃない」

 2人の口からぽんぽんと言葉が飛び合っているけど、私にはなんの話をしているのかさっぱり理解できなかった。

「‥一体なんのこと?」

 と私が尋ねると、2人は我に返ったようにハッとした。

「‥‥‥ドロシー様がとても愛されているというお話です」

「‥‥え?そんな話してた‥‥?」

 2人は笑顔を浮かべたままコクコクと頷いていた。
ーー愛してるとかいうフレーズなかったし‥どちらかといえばバージル様の悪口っぽい気がしたんだけど‥。でも2人は心底バージル様に忠誠を誓っているはずだし、気のせいかな‥。


 次の日、バージル様が数日ぶりに帰ってきた。
夕食の時間に不在中の出来事を話すと、バージル様は私の話を真剣に聞いてくれていた。

 バージル様は“冷酷伯爵”と呼ばれているらしいけど、全然冷酷なんかじゃない。確かに氷を彷彿させる時もあるけど、優しくて温かな人。

「そうか。‥じゃあ、その慈善団体たちが架空のものであったり、詐欺を働こうとしたりしていないかの調査は俺の騎士団に任せよう」

「えっ!いいの?!」

「当たり前だ。ドロシーの行動は、セレスト領民やリプリス全体の人々を救うもの。むしろもっと俺を頼ってほしい」

「ありがとう‥バージル様‥!!」

「‥‥‥‥」

 バージル様はワインをひと口飲んで、静かに息を吐いた。
何かを言いたそうな顔してる‥?

「‥バージル様、どうしたの?」

「‥‥‥この国では、16歳で成人となる。‥‥ドロシー、お前が16歳になったら、俺と結婚してくれないか」

「ーーーーーーーへ?」

 結婚???いま、バージル様‥結婚って言った??

「‥‥‥ドロシーの存在が公になってから、“祝福の子と結婚したい”という声が国中から寄せられている。ドロシーは俺の屋敷に住んでいるというのに、だ」

「‥‥?どういうこと?」

「普通、独身の男の元で面倒を見ているとなれば、俺との仲を疑うだろ?!ドロシーは俺と男女の仲なんじゃないかと。それなのにお前への求愛の手紙が毎日のように屋敷に届くんだ」

「‥そうなの?知らなかった」

「言ってなかったからな」

 バージル様が少しいじけたような口調でそんなことを言った。

「‥‥‥えーっと、それで?」

「俺は少年時代からずっと女性からの求愛を断り続けていた。正直それどころじゃなかったという言葉に尽きるが、世間から見ればどこかいいとこの令嬢と婚約して基盤を強くするのが一般的。冷酷だの氷だの言われるイメージと相まって、俺は“女性すら受け付けない非情な男”と思われている」

「ぷっ!!」

 あ、大変。思わず吹き出しちゃった。やばい、バージル様がムッとしてる。

「ご、ごめんなさい。笑いたいわけじゃなかったんだけど、ちょっと面白くて」

 あ、これフォローになってない!

「‥‥‥まぁいい。ドロシーが今笑えたのは、俺が“非情な男”だと思っていないからだろ?そこらの冷たい男は女を笑わせることなんてできないはずだ」

 ぷんぷんしながらも、自分で自分をフォローしたバージル様。
大変だ‥なんか、今日のバージル様‥あまり余裕がないせいか、いつもよりも可愛らしい‥。

「ーー私、バージル様のこと、優しくて温かい人って思ってるよ」

「む」

 バージル様は唇を窄めたまま、頬をぽっと赤らめた。
‥‥やっぱり今日のバージル様、可愛いよぅ‥。

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