軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第3章 

46話 エラ視点

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 パパの処刑が終わって数日が過ぎた。
まだパパの仲間たちがいるかもしれないからと、私とメルヴィンは未だにバージル様のお屋敷で匿ってもらっていた。
 バージル様のお屋敷には敷地内に別邸があって、そこで生活をさせてもらっている。日中はドロシーが力を込めたセレー人形の首にひたすらリボンを巻いている。少しでも自分にできることがあるのなら、全力でやりたい。

 だけど、やっぱり今の生活は、バージル様とドロシーに甘えているとしか思えない。

「‥‥私、そろそろここを出ようと思う」

 すっかり男性にしか見えなくなったメルヴィンは、リボンを結びながら首を傾げた。

「別にこのままでもいいじゃん。住み込みで働いてるようなものなんだし」

「‥‥でも、こんな良いところに住ませてもらって‥リボンを結ぶだけじゃ恩を返せないよ‥」

「んー‥‥。あ、‥‥」

 メルヴィンは何かを思い出したように声をあげた。でも言い淀んでいるようで、続きを話そうとしない。

「なに?」

「‥‥ドロシー様、呪いを解くことで得た資金で各地に孤児院とか、学校とか建てるって言ってたよ」

 孤児院や学校‥?
私は物心つく前からずっと“祝福の子”をしていたから、学校に通ったことがなくて勉強を教えることはできないけど‥

 孤児院でなら‥例えばご飯の準備とか‥お洗濯とか‥色々お手伝いができるんじゃないかな‥。

「でもエラは誰かのお世話とか、難しいと思うんだよね。最近まで尽くしてもらう側だったんだし。‥だからやっぱり忘れていいよ」

 ーーメルヴィンは私をジェーンとは呼ばなくなった。もう呼ぶ必要がなくなったのだから、まぁ当然のことなんだけど。

 私が何故偽名を“ジェーン”にしたかというと、数年前にジェーンという幼女が礼拝堂内の長い列の間を潜り抜けて、私の目の前にやってきたからだ。

「おねえちゃん、きれいだね」

 まるで物語のお姫様を見たかのように、ジェーンは私を見ては目をキラキラさせていた。何度追い返されても、数日後にはまた現れるジェーンに、私もいつのまにかジェーンを見かけるのが楽しみになっていた。

 “助けてほしい”“どうにかして”“死にたくない”

 ーー偽の祝福の子ではどうしようもない、重く切実な願い。押し潰されそうな毎日の中で、ジェーンのキラキラ輝くあの瞳は私の救いだった。

 そのうち、警備が更に厳しくなってジェーンは来れなくなってしまったから、私とジェーンが会えたのはほんの数回だけ。

 でも私は“ジェーン”という名が心に残っていたから、偽名をジェーンにしていた。ジェーンのおかげで、私は幼い子を愛らしく思う。

 ーーだから‥

「私、孤児院で働きたい‥。償いの意味を込めて、この身を尽くしたいの」

 メルヴィンはぱちぱちと何度か瞬きを繰り返した。そんなに意外な答えだったかな?

 ちなみに“カップルのふり”が終わっても、私たちの関係性は砕けたまま。主人とメイドだった頃とは大きく違う。

 でも私は偽祝福の子で、悪いお金の元でお嬢様をやっていただけ。今更自分が“尽くされる側”でいたいとは思わない。

「‥‥ひとつ提案があるんだけど?」

 メルヴィンはリボンを結ぶ手を一旦止めて、私を見た。

「なに?」

「ーーー俺がバージル様の騎士になって、エラはそんな俺の奥さんになったらいいんじゃない?」

「‥‥ん?」

 メルヴィンはちょこちょこ冗談を言うし、気さくな方だけど‥こうして反応に困るような冗談は初めてかもしれない。

「‥‥冗談だと思う?」

「え?冗談じゃなかったら何‥?」

 メルヴィンはやれやれといった様子で私から目を逸らすと、またリボンを結ぶ作業を再開させた。

「‥‥‥冗談冗談。じゃ、あとでドロシー様に俺たちを孤児院で働かせて下さいってお伝えしないとね」

「え?メルヴィンも一緒に孤児院で働いてくれるの‥?」

「‥‥‥むしろここで俺たち解散って感じだと思ってたわけ?まだまだエラは狙われるかもしれないし、この屋敷の外では無慈悲な暴力の危険なんかもあるかもでしょ。ひとりでなんて行かせられないよ」

 パパから解放されたことで、メルヴィンの目的は果たされたと思っていたけど‥メルヴィンは今後も私の側にいてくれるみたい。無条件に誰かが側にいてくれるということは、こんなにも心が安心するんだなぁ‥。

「‥‥ありがとう」

「どういたしまして」

 ーーメルヴィンは息を吐きながら、「まだまだ先は長いなぁ」とボヤいていた。
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