軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

36話

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 セレスト領で呪いを解いて3日が経った。毎日朝から晩まで呪われた人達と向き合い続けることは、やっぱり簡単なことじゃない。

 毎晩寝る前に顔を見に来てくれるバージル様と日課になったハグをして、私は今日も眠りについた。

 明日から3日間、メーベルという街で呪いを解くことになる。このお屋敷からは馬車で2時間くらいかかるらしいから、呪いを解く時間は普段よりは減ってしまうけど仕方ない。
 メーベルは少しは王都よりではあるけど、まだまだセレスト領に程近い街。けどメーベルは国内を縦にも横にも流れる運河がちょうど交わる箇所。
 それ故に物流の中心ともなって非常に栄えているんだって。物流の中心になっているからこそ、王都住みの人たちはもちろん、国内の色々な地域の人たちが集まりやすい。
 だから私は週の3回、メーベルで呪いを解くことになった。ちなみにメーベルにも多目的集会場みたいなのがあって、その場所を借りることが決まってる。

 朝になって身支度を済ませて馬車に乗ると、バージル様が乗り込んできた。

「あれ?バージル様??」

「‥‥俺も今日からの3日間はメーベルで仕事があるんだ。メーベルは物流の要だから、元々しょっちゅう行くんだけどな」

「そうなんだ!」

 馬車の中にいるのは私たちだけ。もう一台の馬車にリュカやマリア達が乗って、二台の馬車の周りには馬に乗った多くの兵士さん達がいた。

 すごい警備だけど、バージル様の言う話ではメーベルに着いたら現地の兵士さん達も更に守ってくれるんだって。

 バージル様の白銀の髪が目に映った。風にそよそよと揺れている。どうしてこんなに綺麗な色をしているんだろう‥不思議。
 
 マリアとユリアに昨日バージル様の年齢を聞いてみたら、バージル様は22歳らしい。
 前の領主様だったバージル様のお父さんが早くに亡くなられて、バージル様は若くして領主様になったそう。

 普段は氷のように冷たい空気を纏っているから、そんなに若いとは思っていなかった。最近は全然、氷なんかじゃないんだけど。

 外の景色に目をやると、バージル様がふと私の名前を呼んだ。

「ドロシー」

「ん?」

 バージル様は少しの間黙り込んだあと、徐に隣をぽんぽんと叩いてる。

「‥隣にこい」

「え?隣??」

 向き合って座っていたんだけど‥普通は隣に座るものなのかな?
バージル様は「早く」と私に促したあと、立ち上がった私の手を取って私を誘導した。

 バージル様の右側に座ると、体の左側が妙にこそばゆい。
隣と言ってももう少し離れて座るスペースはあるのに、バージル様に誘導されて座った場所は、腕が触れてしまう程に近い距離だった。

「‥‥これが普通なの?私、2人で馬車に乗るのが初めてだから‥隣に座るの知らなかった。‥でも、あれ‥?あとから乗り込んできたのバージル様だよね?」

 最初に乗り込んだのは私だったから‥隣に座るのが普通ならバージル様が最初から私の隣に座ればよかったのに。

「‥‥これは別に普通じゃない。‥こうして2人きりになることもなかなかないからな」

 バージル様は景色を見ていて、ここからだとバージル様の表情がよく見えない。正面に座っていた時は、バージル様のお顔がよく見えたんだけどなぁ。

「2人きりだから特別に隣に座るってこと?」

「‥‥ま、そんな感じだ」

 最近、寝る前にぎゅっとハグをしたり、こうしてすぐ隣に座ったり‥バージル様と触れ合う機会が多くてドキドキしちゃうな。嬉しくてほっこりするのに、心臓がなんだか騒がしくなるの。なんでだろう。

「‥‥に隣に座れるって、2人きりでラッキーだぁ」

 リュカとかマリアがいたら、2人きりじゃないから隣に座れないのかもしれないもん。

「‥‥わざと2人きりになるようにしたんだよ」

 バージル様はずっと外の景色を見たまま。だけどいつもよりも心の距離も近いように感じた。

 “わざと”という言葉に心がざわざわする。“特別”にするために“わざと”2人きりにしてくれたの‥?

「な、なんで‥?」

 声がちょっと上擦っちゃった。

「‥‥屋敷だと他の目があるだろ。俺は人目があるとなかなか素直になれない」

「素直‥?」

 どういうことだろう。確かに今のバージル様は、お屋敷でのバージル様よりもなんだか少し甘い感じがするけど‥。
 私はまだまだわからないことが多すぎて、脳がバージル様の言葉をスムーズに処理できないみたい。

「‥‥‥‥だから、俺はお前とこうしていたいんだよ」

 バージル様の言葉が、ずんっと胸に刺さった気がした。
よく分からないけど、とにかく私がバージル様とくっついて嬉しいって思うのと同じで、バージル様もこうして近くにいることを嬉しく思ってくれてるのかな。

 バージル様はやっと外の景色を見るのをやめて私を見た。言葉が出てこなくて何も言えなかった私を凝視してる。

「‥‥真っ赤だな」

「‥うん。顔が熱いの。なんでだろう‥」

「‥‥」

 どきどきと心臓はうるさいまま、私はどうすればこの火照りが消えてくれるのか考えていたけど、馬車に乗っている間ずっと熱を帯びたままだった。

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