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第2章
34話
しおりを挟むバージル様との朝食中、加護について聞いてみた。
「‥‥“加護”の力を犯罪に使う者もいるし、加護の力の全容が把握できていない以上、希望にも脅威にもなる。“呪い”に関しては特に何も制限しないが、加護については制限をしてほしい」
バージル様はこの広いセレスト領を守る領主様。
人間の力を凌駕する力を、不用意に増やしたくないんだと思う。
「わかった‥!」
「例えば‥その人物の名前や住所、授かった加護の内容をデータ化すれば、力を把握して管理しやすいんだが」
「‥む、難しくなってきた」
「“加護”については一旦待ってくれないか?近いうちに体制を整えるようにするから」
「わ、わかった‥!」
ふっ、とバージル様が笑った。初めてバージル様を見たときよりも、随分と柔らかい表情に見える。氷のように冷たい雰囲気のバージル様も好きだけど、今は氷が溶けて陽の光でキラキラしているみたいに、眩しい。
「今日からまた忙しくなるだろうが、無理は禁物だからな。倒れたら元も子もない」
「う、うん。がんばるね!」
バージル様は今日色々と出かけて回らないといけないみたいで、私より先に屋敷を出た。バージル様も頑張っているから、私も頑張らないと!
馬車を使わなくてもいいくらいの距離に“集会場”はあった。もう既に多くの人集りができていたけど、バージル様の兵士さん達が制御して馬車を通してくれた。馬車から降りて集会場に入るときにも多くの人が群がって、兵士さん達が抑えるのに必死だった。
「ドロシー様!!どうか娘を!!」
「うちの息子もお願いします!!」
沢山の切実な声が、懸命に私に投げかけられている。
「大丈夫、絶対助けるよ」
私は集会場の奥に座って、人々が入ってくるのを待った。人の群れでよくわからなかったけど、ちゃんと列になって並んでいたみたい。兵士の人たちの誘導で、人々が集会場に入ってきた。
呪いを解く流れは今までと変わらない。唯一変わるのは、入り口じゃなくてここでお金を払ってもらうということ。
「15万マネをご用意しました!!よろしくお願いします!」
初老の男性に札束を突き付けられて、私は思わず首を横に振った。
「い、いらないよ、そんな‥」
「‥?王都ではこのお値段だったと聞いてましたが‥」
「‥‥。じゃあ今から呪いを解くから、終わった後に“どのくらい払いたいか”自分で決めてくれる?」
「えっ」
初老の男性は理解できないようで眉を顰めていたけど、私は早速呪いを解くことにした。
呪いの解き方のコツはもう掴んでる。
沢山並んでいる人がいるから、ひとりひとりに掛ける時間は短かくしないといけない。ネルに時間を制限されていたときよりは長く向き合いから‥ひとり10分くらい。
もし15分以内に呪いを全て解けそうな人は、一回で最後まで解こう。
初老の男性に掛かった時間は12分。最初から全ての呪いを解くことができて良かった。
「おぉ、体が軽いっ‥!!ありがとうございます!ドロシー様!!」
「へへっ」
「では、こちらを‥」
初老の男性はマリアに札束を渡していた。たぶん最初の金額通りだと思う。そんなにいらないって言ったのに‥。
私のそんな気持ちが伝わったのか、初老の男性は優しく笑った。
「ドロシー様のように心が澄んだ方ならば、きっと有効的な使い方をしてくださるでしょうから‥どうか受け取ってください」
ーー有効的な使い方‥‥。
初めて触れた考えだった。初老の男性が姿を消すと、すぐに小太りの中年女性が目の前に座った。
彼女は一回では呪いを解ききれない。ユリアに制限時間を測ってもらい、時間になってから「一回で終わらなくてごめんね」と声をかけた。
「いいんですよ。ドロシー様。私は体がこんなに軽くなったのは数年ぶりで‥とても嬉しいです」
女性はそう言って、「本当に‥任意の金額でよろしいんですか?」と確認を取ったあとにお札を何枚かマリアに渡していた。
きっと今回呪いを解く為に用意していたお金が浮いて、何か美味しいものが食べられるかもしれない。そしてそんな繰り返しが、バージル様のセレスト領を潤わせるきっかけになるかもしれない。
そう考えると嬉しくて仕方がなかった。
流石に陽が沈む頃には、やっぱりもうクタクタだった。一日中呪いに触れて、暗い言葉が体に入り込んでくる感覚はいつまで経っても慣れない。
たぶん50人くらいは相手にできたかな‥。
マリアが抱える大きな鞄には膨大な札束があって、私は複雑な気持ちになった。
一般の人の平均の稼ぎが一か月に15万マネと聞いていたのに、パッと見ただけでも遥かにそれを凌ぐことは分かる。
今日1日でこれだから‥市民からお金を巻き上げてしまっているような気持ちになる。
‥‥‥有効的な使い方。
あの初老の男性が言っていた言葉。
任意の額でいいと言っても、1日でここまでお金が集まる。
ならこのお金で‥なにかみんなにしてあげられることはないかな。
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