軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

31話

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 祝福の子としての1日は、圧倒的に呪いを解く仕事が多かった。
たぶん加護を授けるという行為を、ダニエルさんは金銭かなんかで制限していたんだと思う。だからなのか、加護を欲しいという人の割合は割と少なかった。

 手の甲にキスをしても10人に1人くらいしか加護を授けることができなかった。

 ーー前にバージル様が教えてくれた。
確か、“精霊”が選んだ人間に“人智を超えた力”が与えられて‥‥祝福の子が選ばれた人間にキスをすると、その力が目覚める。

 だから‥いま体が光ったダンは、“選ばれた人間”だったということ。


 その場にいた誰もが、ダンに何の加護が授けられたのかを知りたがっていた。どうやら加護を授かった本人は授かった瞬間に、何の加護を授かったのか本能的に分かるらしいけど、ダンは俯いて体を震わせるだけで何も発しようとしない。

 ダニエルさんはわなわなと体を震わせて、なんだか怖い顔をしていた。一体なにに対して怒っているんだろう‥。

「‥‥どこに選ばれた人間がいるか分からないもんだな」

 バージル様が片眉を上げてそう言った。
そういえば、バージル様の周りには加護を持った人はいないのかな?

「バージル様は加護を持っていないの?」

「‥‥‥俺はいいんだ、加護は」

 どういうことだろう?口振りからして‥祝福の子にキスしてもらったけど加護がなかった、というわけじゃなく、そもそも加護を必要としていないから試したこともないって感じかな‥?

 みんな加護を授けてもらいたくてウキウキしている人たちばっかりだったから、バージル様の反応はすごく新鮮だった。

「‥‥‥‥さて、ダンもこの通りですし‥本日のところはお帰りくださいませ。‥ダンの心がいずれ癒されれば、ダンの加護が何なのかも分かることでしょう」

 ダニエルさんがそう言うと、バージル様も「わかった」と声を上げた。バージル様はダンが生きていることを確認しようとしたり、バージル様のお屋敷にダンを招こうとしたり‥ダンを気にかけているように思う。
 ダンが助けを求めてきたあの日、ダンを追い返したことに後ろめたさもあるのかもしれない。

 でも、あの時のバージル様の言葉、間違ってないよ。‥ダンもダニエルさんに逆らえなかったんだから、私を軟禁していた責任がダンにあるわけじゃない。
 ーーーそもそも悪いのは‥‥きっと目の前のこの人だ。

「ダニエルさん。私またダンに会いにくるね」

「‥‥‥ドロシー様はお忙しいのですから、無理をなさらないでください」

「大丈夫だよ。だから、ダンのこと‥よろしくね?」

 殺したりしたらだめだよ?きっと‥私の言葉の意味、理解してくれたよね。

 ダニエルさんは笑顔を引き攣らせながら「分かりました」と頷いてくれた。


 私たちが馬車に乗るまで、空気はピリついていた。
でも不思議と怖くはなかった。たぶん、バージル様という心強い人が側にいてくれてるから。

「ーーーおまえ、少し見ないうちに逞しくなったな?」

「え?逞しい??」

「あぁ。あの男に対する言動を見れば分かる」

 あの男‥あ、ダニエルさんのことか。

「だってダニエルさん嫌いなんだもん」

「ははっ」

 バージル様が笑った!!笑った顔は、意外と少年っぽい‥。

 それからバージル様の屋敷に戻るまで、沢山いろいろな話をした。私を送り出してからダニエルさんの屋敷にいると知って、激しく後悔したこと。国王様に話をつけようとしたけど全く信じてくれなくて毎日イラついていたこと。礼拝堂にも入れてもらえずにいたら、私が自ら行動したことに驚いたこと。

 私はバージル様の話を聞いて、バージル様がこんなにも口数が多いことに驚いていた。

「‥‥何だその顔は」

「え‥‥バージル様、よく喋るんだなって」

「なっ‥!」

 バージル様の頬がカッと赤くなった。バージル様の肌は白いから、赤くなるとよく分かっちゃうみたい。

「‥怒った?」

「‥‥怒ってない。ちなみに俺は別にお喋りじゃない」

「‥‥そうなの?」

「‥あぁ。‥‥お前がいなかった間のことを説明してやろうと思っただけだ」

「説明?」

「あぁ。お喋りがしたくてペラペラ話したんじゃなく、説明の為に致し方なく話しただけだ!」

 ムスッとしたバージル様。
あれ、なんか、かわいい‥?いや‥たぶんそんなことを思ったって知られたら怒るに決まってるから言えないんだけど‥

 なんだろう。バージル様のお屋敷でただただお世話になっていた頃は、バージル様がとっても大人に見えたの。たぶん年齢は20代半ばくらいだと思うけど、見た目年齢じゃなくて精神年齢がすごく大人な気がしてた。‥‥だけどいまは‥まるで歳の近い男の子みたい。例えば、ダンくらいの。

 バージル様に見つからないようにクスッと笑ったあと、バージル様をまた眺めてみた。

 冷静さを取り戻したバージル様は、またいつものバージル様に戻っていた。

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