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第2章
28話
しおりを挟む久々に会ったバージル様は、やっぱり相変わらず氷のような雰囲気だったけど、私が飛びつくと頭を撫でて受け入れてくれた。それが嬉しすぎて、堪らなくホッとして、もう離れたくないなぁと思った。
せっかく送り出してくれたのに、結局迎えにきてもらうことになっちゃった。
「迷惑だったよね、ごめんなさい」
恐る恐るそう言うと、バージル様は抱きついていた私を剥がした。
「いや。俺たちも、お前を取り戻す為にここまで来てたんだ」
バージル様は私と目を合わせないでそう言っていたけど、バージル様の後ろにいるリュカが嬉しそうにウンウンと首を縦に振っていた。
嬉しい‥わざわざ来てくれてたんだね。
「‥じゃあさ、私、またバージル様たちと暮らしてもいい‥?もうダニエルさんのところに帰りたくない」
「もちろんだ。またあの屋敷で過ごしながら、人々の呪いを解いてやればいい」
「‥‥ありがとう!バージル様っ!!」
どうしよう‥。嬉しすぎてにやけちゃうよ。マリアとユリアとも、また会えるんだね。
ちなみにここは王宮の一室だった。何の部屋かはわからないけど、煌びやかなお部屋。国王様はお仕事が忙しいからもうここにはいないけど、ダニエルさんやネルたちはいた。
「‥‥‥ドロシー様。王都で活動される時のため、王都の屋敷の所有者はドロシー様のままでいいと、国王様から仰せつかっております。‥‥無事にセレスト辺境伯と再会できてよかったですね。‥何かありましたら私奴もいつでもお力になりましょう‥。では、お元気で」
ダニエルさんが、仮面を貼り付けたような顔で笑いながらそう言った。
この人のこういう笑顔は、目が笑っていないから怖いの。本心が全然分からない。
「‥‥ありがとう、ダニエルさん。酷いこと沢山言ったけど、お世話してくれたことについては感謝してるよ。‥‥‥最後に、ひとついい?」
「‥なんでしょうか」
「‥‥ダンの妹、どうして連れてきてくれないの?」
仮面の笑顔だったダニエルさんが、急に悲しむ顔になった。この人みたいな人のことを百面相っていうのかな。
「‥‥実は‥‥ダンの妹を必死に介抱し、なんとか馬車でドロシー様の元へ迎おうとしていたのですが‥その途中、ダンの妹は顕著してしまったという報告を受けたのです‥」
「え‥?」
顕著って‥。国王様が言っていた、体が呪いに蝕まれて‥ヘドロ化しちゃうことだよね‥?そんな‥やっぱり間に合わなかったんだ。‥私がエンベリー家の屋敷に行っていれば間に合ったんじゃないの‥?
「‥祝福の子として活躍し始めたばかりのドロシー様には、あまりにもお辛いことでしょうから‥なかなかお伝えできずにすみません」
「‥‥私、エンベリー家の屋敷に行くって言ったよ」
「ですが、実はあの頃にはもう手遅れな状態だったのです」
‥手遅れかどうかなんて分からないじゃん。まだ顕著していなかったなら、救えたかもしれないじゃん。
「よくもまぁそこまでペラペラと口が回るもんだな。誰がおまえの言葉を素直に信じると思っているんだ?」
頭の中がぐるぐるしていた私の耳に届いたのはバージル様の声だった。
「‥‥本当ですよ。嘘なんかついておりません。証言者はいくらでもおりますよ」
「おまえサイドの証言者なんてあてになるわけないだろ。どうせ、敢えて顕著させたかったんじゃないのか」
「なにを‥」
「さぁな。貴様ら下衆の考えることは全く理解できない。‥その化けの皮、もうじき綺麗に剥いでやるから楽しみにしておけ」
「‥何のことを仰っているのでしょう」
ダニエルさんは笑っていて、バージル様は静かに怒っていた。
ちなみにネルはバージル様を見てずっと目をハートにしていた。ネル以外は空気がピリピリしていて、さっきまでのバージル様との感動の再会が嘘みたいだった。
「‥‥‥ダンの妹が顕著したのなら、ダンはどうした?殺したのか?」
「まさか殺すだなんてとんでもない」
「じゃあ生きているんだな?」
「‥えぇ、まぁ」
「ダンに会わせろ」
バージル様がそう言うと、ダニエルさんは引きつった笑顔のまま暫く黙った。
「‥‥ダンに何か御用でしょうか?」
「あぁ。‥‥おまえ今どうやってダンに会わせないようにするか考えているだろ?今夜にでもダンを殺すつもりか?」
バージル様の目の奥が光ったような気がした。バージル様の低く、冷たい声はこの空間をさらに凍りつかせていく。
さすがにここまであからさまに疑われると、ダニエルさんも折れるしかないみたい。重そうに口を開いたダニエルさんは、いつ来ていただいても大丈夫です、と力なく話した。
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