軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

27話 バージル視点

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 セレスト領を出て王都に着き、ドロシーがいるという屋敷の前で門前払いをされて2日。

 「呪われていないならこの先通れません」「ドロシー様は大変多忙な為、面会をお断りしております」「加護が欲しい?そうですか。順番待ちになりますので、こちらの整理券をどうぞ。ええ、早くて1ヶ月後ですね」

 俺は何度発狂しそうになったか分からない。
案の定、ドロシーはダニエルの手中に収まってしまっていた。

 ダニエルという男を見誤っていた。ここまで貪欲だとは思っていなかった。‥でもそれはただの言い訳だ。俺が甘かったんだ。
 ドロシーの屈託のない笑顔が脳裏をよぎる。こんなことになるなら、王宮の使いを俺の屋敷に呼び付ければよかった。俺の元でドロシーを守りながら祝福の子として活躍してもらえばよかった。ああすればよかったという多岐にわたる選択肢は、後悔してからの方がよく浮かぶものだ。

 一度だけではなく、二度も。ドロシーをあの男の手に渡してしまった。自分が情けなくて、許せない。

 王宮へ行き、国王に直に何度も伝えた。
ドロシーが屋敷に来た経緯も、自身の呪いが全て消え去ったことも、ダンから聞いた話も。国王があまりにもダニエルを信じているから、俺は腹が立って仕方がなかった。

「‥‥‥エラがいた礼拝堂の真下にドロシーが幽閉されていたことに、ダニエルが気付かないわけがありませんよね」

 国王にそう言うと、国王は「うぅん」と唸り声を上げた。

「‥‥あそこの地下はジェームスに鍵を預けていたらしく、誰も寄り付かなかったそうだ」

 何故すんなり信じるんだ。普通は違和感を感じるだろ?

「‥‥しっかりとお調べになったのですか?」

 口から出た声は随分と低かった。

「‥‥調べるも何も‥、お主が疑っているのはあのダニエルだろ?ダニエルは慈悲深い男だぞ」

 ‥‥‥慈悲深いだと?冗談を言ってるのかコイツは。

「‥‥‥ダニエルは裏でゴロツキ達を牛耳る成金野郎だと聞いたことがありますが」

「はっはっは。面白い。お主でも冗談を抜かすのだな!」

 どうやら本気で笑っているようだった。俺はさぞ冷め切った顔をしていたことだろう。
 話にならない。この、脳みそに花が咲き誇った王はここまで事なかれ主義だったのか。

 ダニエルではなく俺がドロシーを預かると言っても、祝福の子の親を経験していたダニエルの方が相応しいと言われた。あいつは祝福の子の親なんて、はなっから経験していないのに。

 どうにも抗えない確固たる証拠をその目に焼き付けてやりたい。
ダニエルさえ予想だにしなかったであろう、証拠を。

 どうする?エラの墓を掘り起こして解剖でもするか?
まぁ解剖したところで、普通の人間なのか祝福の子なのかなんて分からないんだが。

 ダンももう殺されているかもしれない。もし生きていても妹の為にダニエル側につくだろう。‥‥一体どうすればいいのか。

 王都の別邸に戻るも、活路がどうにも見出せず頭を抱えていた。セレスト領を長く抜けるわけにもいかない。

 どうすればあいつを助けてあげられるんだろうか‥。



「バ、バージル様。王宮から使いの者が‥」

「‥‥はっ。あんな花畑集団とっとと追い返せ」

 どうせ、いつまでもダニエルを疑ってここに居座ってないでセレスト領に帰れとか、そんなことを言いにきたんだろ。

「そ‥それが‥‥」

「‥‥なんだ」

「ドロシー様を迎えにきてくれないか?と‥」

「‥‥‥は?」


 そこから俺は、よく分からないまま王宮へと向かった。


 自分で無理矢理活路を見出したドロシーは、見慣れた屈託のない笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


「バージル様!!!」

「っ‥」

 何の抵抗もなく俺に抱きついてきたドロシー。
ふわりと香る甘い花の匂いは、嗅いだことのない匂いがした。それだけでドロシーを遠く感じてしまいそうになるが、ドロシーの表情も仕草も、俺の屋敷にいた頃と何も変わってはいなかった。

 暫く宙に浮かせてたままの手のひらをドロシーの後頭部に当ててみると、ドロシーは安心しきったような顔を浮かべていた。

 まだ幼いこいつが、どんな思いをして生きてきて、どんな思いで逃げ出してきたんだろうか。

 ドロシーの精神は、俺より遥かに逞しいのではないかと思う。祝福の子だから逞しいのだろうか?‥多少なりとも“祝福の子であるが故”の一面もあるかもしれない。だけど俺は‥

「会いたかった!バージル様‥!」

 涙を流しながら俺にしがみつくドロシーに、言いようもない愛しさを感じていた。

「‥‥あぁ、俺もだ」

 甘かった俺を許して欲しい。もうあの男の好きにはさせない。
経験が乏しかった故に簡単に「幸せ」だと口にするドロシーに、当たり前の「幸せ」をもっと味わって欲しい。

 俺はこの時初めて、自分がドロシーを幸せにしてやりたいと思っているのだと気付いた。それがどんな感情からくるものなのかは、まだよく分かっていないのだが。

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