軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

26話

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 私が礼拝堂内で叫んでから、状況が一変するまではあっという間だった。
ダニエルさんを筆頭に屋敷の人々が場を鎮めようとするも、逃げ惑う人たちが正気を取り戻すことはなかった。

「ど、どういうことですか?」

 人前では常に完璧な表情を見せていた筈のネルが、思いっきり眉を顰めている。理解不能、という顔だ。

 私はネルにニコッと笑みを見せたあとに、また大きく息を吸った。

「早く国王様に伝えないと、取り返しのつかないことになっちゃうよー!でもここにいたら、国王様に会えないよー!!王宮に行かないとっ!!」

 礼拝堂内に残っていた人たちは、絶望感漂う顔で私を見ていたけど、私が動き出さないせいか焦って声を出し始めた。

「ド、ドロシー様、早くお城へ!!」
「一刻も早く国王様にお伝えください!!」
「な、何故すぐに出発しないのですか?!」

 そんな声が聞こえてきたから、私はゆっくりと腰を上げた。ダニエルさんの前まで歩くと、ダニエルさんはやけに苦しそうな顔をしていた。

「早くお城に行かないと」

「‥‥‥お告げが聞こえる祝福の子など、聞いたことがありません」

「私、一回でみんなの呪い解いちゃうでしょ?たぶん祝福の子の力が強いんじゃないかなぁ?だからお告げが聞こえたのかもね!」

 ダニエルさんみたいに嘘で塗り固められた人に、真っ向からぶつかってもはぐらかされて終わっちゃう。だから私も、嘘で攻めるよ。

「っ‥。‥‥‥では、私が代わりに国王様の元へ行き、お告げを伝えて参りましょう。‥‥ドロシー様が直接王宮へ向かってしまいますと、その間呪いを解くこともできませんので」

 何がなんでも私を行かせたくないみたい。

「‥‥お告げの内容は、大切なことだから私が直接国王様に伝えるよ」

 私は礼拝堂に残った人たちを見た。

「みんなの呪い、私が絶対に解くよ。でもいまは王宮に行きたいの。行く前に呪いを解いて欲しいって人いる??」

 静かに手を挙げようとして、周囲からの圧に負けて手をおろす人たちが何人かいた。
 ここにいる人たちの中には、いまのところ見るからに具合の悪い人もいない。

「ダニエルさん。ここにいるみんな、行ってきていいって。だから行ってくるね」

「‥‥っ。はぁ、分かりました。では私がご一緒しましょう」

 こうして私は王都の屋敷を出て、王宮へ向かった。次は同じ手を使えないかもしれないから、今回のチャンスを有効に使わないと。

 王宮にもお告げの話は届いていたみたいだった。王宮に着くなり直ぐに王の間に通されて、何日かぶりに国王様と対面した。

「おぉ、ドロシーよ‥。どんな恐ろしいお告げを授かったのじゃ‥?」

 ‥どうしようかな。お告げの内容までは考えてなかったんだよね。あ‥そうだ。

「‥‥今ね、この国では起き上がるのも辛いほど呪いに侵されてる人が沢山いるんだって‥。その呪いが、爆発しちゃうかもしれないんだって」

「ば‥爆発?」

「そうなの‥。遠かったり貧しかったりして、礼拝堂に来れない人たちも沢山いるでしょ?そういう人たちが、大爆発するの」

「そ‥それはまさか、“顕著”のことか‥?」

「顕著?」

「あぁ。呪いが進みすぎると、人は骨格を失い顕著けんちょという呪いが凝縮されたヘドロのような状態になるという。一説によればそのヘドロ状のものに触れた人はたちまち呪われてしまうのだとか‥」

 それっぽい現象があったんだ!

「‥‥ひとりふたりじゃなくて、沢山の人が顕著しちゃうんだよ」

「‥‥なるほどな。エラの時代は呪いを解く力も格段に弱かったという。それ故、体に呪いが蓄積されておる人々も多いのかもしれんな‥。顕著が各所で起これば、隣国ジレのように“人を呪う兵器”として敢えて人々を救わずに顕著させているのだと誤解されかねない‥。一刻も早く手を打たねば」

「‥私が同行し、ドロシーと共に各地をまわりましょう」

「そうか‥!それは心強いぞダニエル!!」

 急に口を挟んできたダニエルさんにギョッとした。この人、まだへこたれてないんだ‥。礼拝堂がダメでも、どこまでも着いてきて、甘い蜜を吸う気でいるのかな?

「‥‥いやだ。ダニエルさんとはここでお別れする」

「な、どうしたのだドロシー」

 お前の恩人じゃないか、と国王様は続けた。恩人なんかじゃないよ。

「‥‥国王様。私ね、ダニエルさんを見ていると、私を閉じ込めていたというジェームスさんの顔を思い出して怖くて震えちゃうの‥」

「なっ!そんなはずは‥!!」

「なんと、そうなのかドロシー‥」

「”そんなはずは‥”って、どうしてそんな言葉が出てくるの?ダニエルさん。私がジェームスさんの顔を見たことがないとでも思ってるの?」

 本当は見たことなんかないけどね。

「‥‥そうか、辛かったのだな、ドロシー。気が付けずにすまなかった。ただ、お主には家族もおらん。ダニエルのような後ろ盾が必要だな‥‥‥あ!」

 後ろ盾‥。支えてくれる人たち。名前をあげてもいいかな?迷惑じゃないかな‥?

「‥‥バージル様のところに行きたい」

 私がそう言ったのと、国王様が表情を明るくしたのは同じタイミングだった。

「王都に来ておるぞ!セレスト辺境伯!!」

「‥‥え?!来てるの?!」

 私は嬉しくて頬を緩ませた。
一方でダニエルさんは、拳をこれでもかというほど握り締め、ものすごく怖い顔をしていた。

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