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第2章
25話
しおりを挟むベッドに腰をかけながら腕を組む。壁際に立ち並ぶ人たちを見てため息を吐いた。
ーーー人、増えてる‥‥‥。
溜まっていたモヤモヤをダニエルさんにぶつけたら、人が沢山増えてしまった。人を減らしてと言ったばかりなのに!嫌がらせかな。
「ねぇ、ネル!」
「‥なんですか?」
ネルは自分の形の良い爪を眺めながら、なんとなく気怠そうに言った。
「‥‥この屋敷にはダニエルさんもいないんだし、みんなのこと帰らせていい?ずっと見られてるの嫌なんだけど」
「仕方ないじゃありませんか。”ドロシー様が今の状況をとても不満に思っているから、逃げ出さないように見守るように”ってお達しなんですから」
自分のせいですよね、と言いたげだ。
「‥‥‥逃げたくもなるよ。こんな環境」
祝福の子という役目から逃げたいわけじゃないけど、ダニエルさんたちに管理されてるこの環境がいや。
‥‥本気で逃げちゃおうかな??
逃げながら、呪われている人がいたら呪いを解いてまわれば良くない?
‥‥でも、どうやったら逃げられるんだろ‥。私を逃さない為にこんなに人がたくさん溢れているのに‥。
「少しでも逃げようとしたら直ぐにダニエル様にご報告しますからね」
「‥‥‥逃げないってば」
む~。あ、このまま就寝時間になれば、護衛の人たちも外に出ていくよね?真夜中が一番逃げやすい??
って私、すっかり逃げる気満々になっちゃってる。
ーー逃げてから、どうすればいいんだろう。地下から出て、バージル様のお屋敷で過ごして、そして今ここにいる。土地勘も生きていく力もない私が、逃げて生き延びられるかな。‥‥もし外に出られたら、まずダンの妹を治してあげたいな。ダニエルさん全然ダンの妹を連れてきてくれないんだもん‥。
国王様のところにも行って、ダニエルさんはやっぱり悪い人だと思うよって教えてあげよう。そして沢山の、呪いで苦しむ人たちを助けてあげたいな。お金は生きていけるくらいの、ちょこっとのお金だけ貰えればそれでいい。
そして、バージル様たちに、また会いに行きたいな。‥よーし、逃げたあとのことを考えてみたら段々楽しくなってきたぞ。
こうして私の突発的かつ衝動的な逃走計画は決まった。逃走日時は日付が変わった深夜!逃走経路は寝室の窓!飛び降りて、とりあえず植え込みに潜り込む!そして、沢山の兵士さん達に見つからないようにがんばる!ダンの妹はエンベリー家にいるみたいだから、とりあえずそっち方面に行ってみる!!よぉし、完璧!!
就寝時間は部屋にひとり。でも両隣の部屋や廊下には護衛の人たちが待機していて、何か怪しい物音がしたらすぐに駆けつけられてしまう。
だから私は、呼吸をするのも忘れてしまうくらいゆっくり時間をかけて窓際へと移動した。ここは2階。飛び降りた時に物音を立てたり、声を出してしまうとゲームオーバーだ。結構高いな‥‥
「‥‥え」
下を覗き込んだら、そこには兵士さん達がいた。思いっきり目が合っている。
「‥‥お、おい。本当にドロシー様だぞ」
「まさかまじで逃げようってのか?!」
「そりゃあの部屋からなら窓から飛ぶしかないだろうけど‥こんなベタな‥」
ぽかんと口を開く兵士さん達に、私はにっこり微笑んだ。詰んだ。
「おやすみなさい」
「「「あっ‥‥おやすみなさい?」」」
なんだ、夜風に当たっただけか。という安堵の声が聞こえた気がした。でもこれも明日ダニエルさんに報告されそうだなぁ‥。もっと窮屈になりそう‥。
関わる人みんなダニエルさんの味方なんだもん‥‥‥。ん?みんな‥?あ‥‥いたじゃん。ダニエルさんの味方じゃない人たち。
私は次の日、礼拝堂の中に集まった沢山の人たちを見て心の中で「よし!」と気合を入れた。私に助けを求めて訪れる人。この人たちはたぶんダニエルさんの味方じゃないでしょ?お金を沢山払えるようにダニエルさんが選別した人たちかもしれないけど、味方ではないはず。
何を言ったら響く?
私はお金そんなに欲しくないのにって訴える?でもお金持ちたちは別にそんなこと重要じゃないかもしれない。
エラは元々祝福の子じゃない筈だよって言ってみる?
‥でも私が閉じ込められていたことも、エラが祝福の子として生きてたことも、きっとダニエルさんがうまく言いくるめちゃうよね。国王様が信じちゃうくらいだもん。
ここにいる人たちに一番響くこと。それは‥
私は口いっぱいに空気を詰め込んで、礼拝堂の中いっぱいに声を響かせた。こんなに大声を出したのは初めてで、クラクラしちゃう。
「みんなぁ!とっても嫌な気配がするよ!!何かとっても嫌なことが起こるよ!!早く国王様に教えてあげなきゃ!!!」
礼拝堂の中は一気にざわざわして、慌てて外に飛び出していく人たちも何人もいた。
祝福の子がそんなこと言ったら、きっと不安になるよね。不安にさせてごめんなさい。でも‥これで‥国王様に会えるよね?
「っな‥‥」
ダニエルさんが驚いた顔をして私を見ていた。礼拝堂の入り口にいたダニエルさんの耳にもばっちり届いたみたい。「やられた‥」と呟いたダニエルさんを見て、私は久々に気分が良くなった。
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