軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

24話

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 何人かの呪いを解いた時、ダニエルさんが礼拝堂の中に入ってきた。
にっこりと微笑んでいるけど、目は笑ってないみたい。

「ドロシー様、少々よろしいですか?」

「‥なに?」

 まだ並んでる人たちが沢山いるんだけど‥

「ほんの少し、大切なお話をさせていただくだけです。こちらの小部屋にご移動をお願いします」

「‥‥わかった」

 大切なお話なら仕方ないか、と私は腰を上げた。
礼拝堂の奥には小さな部屋があって、そこでお話をするみたい。

 小部屋に入るなり、ダニエルさんは眉を下げて悲しそうな顔をした。

「‥‥私の愛娘、エラは‥‥祝福の子としての力が弱いと言われ続けておりました」

「‥‥」

「でも、エラは努力を惜しまず‥毎日早朝から水行を行って体を清めて精神を磨き、己の運命と向き合ってきたのです。しかしそれでも彼女の力は弱かった‥‥。呪いを解くのにも時間がかかっていました。‥それを、ドロシー様‥貴女が簡単に行ってしまえば‥亡くなったエラの立場がありません‥」

「‥エラがに祝福の子だったなら、呪いで苦しむ人が減ることを喜んでくれると思うけどな」

 あ、エラのことを疑う気持ちが溢れちゃった。

「‥‥‥とは‥ひどい事を仰る。エラが偽物だと思っているのですか?」

 ‥‥やっぱりダンは、ダニエルさんが悪者だって話をしてたと思う。それに、ダンの妹をいつまでも連れてきてくれないし、全然信用できないの。

「‥‥エラが偽物だったのか、私の勘違いなのか、それはまだはっきり分からないけど、でも私はダニエルさんを信じられないよ」

「‥‥」

 ダニエルさんは笑顔を浮かべたまま少しの間固まっていた。ピキッとこめかみに青筋が浮かんでいて、「あぁ、この人怒ってるんだ」と思った。

「もし私の勘違いだったら、すごいひどい事を言っちゃってるから‥その時は謝るね。でもいまは私、何が本当か分からないから」

 きっと屋敷の人たちもみんなダニエルさんの味方たち。だから変なこと言えないと思っていたけど‥‥でも、たぶん私が殺されることはないと思う。

「‥そうですか。では信用して頂けるよう努力致します」

 なんでダニエルさんはこうして協力してくれるんだろうって不思議だった。でも、ぐるぐる考えたの。

 エラを祝福の子にして私を閉じ込めていたのは、自分の子どもを祝福の子にすることで、何かお得なことがあったからじゃない?

 それなら、きっと‥いまこうして協力してくれている間にも、ダニエルさんは何かお得な気持ちになってるんだと思う。

 まぁ‥こんな私でも検討がつくんだけど。

「ねぇダニエルさん。私は、エラに遠慮しないでこれからも沢山の人を全力で助けるよ」

「‥そうですか」

「お金持ちの人だけじゃなく、貧しい人も助ける」

「‥‥‥しかし、貧しい方は、その‥」

「‥‥‥あのさ、もしかしてみんなからたくさんお金もらってるの?」

 ダニエルさんと目が合うと、ダニエルさんは居心地が悪そうに視線をずらした。

「‥ドロシー様のお屋敷にも沢山の従者がおり、屋敷や礼拝堂を維持していくためにも維持費がかかります。それに、貴女様の力は人々を救う尊い力。それなりの対価を頂戴するのは当然のことであります」

 そうなんだ。生きていくのって、それなりにお金がかかるんだね。

「‥じゃあ、お屋敷は売っちゃおう」

「う‥?」

「私ひとりの為にあんなに大きすぎるお屋敷いらないもん」

「なりません。屋敷は国王から授かったものですので手放すことなどできません」

 ‥そういうものなの?じゃあ‥

「それなら使用人と護衛を半分くらいに減らそう。なんかいつも壁の周りに立ってるだけの人が何十人もいるよ?まるで監視されてるみたい」

「‥‥‥、ドロシー様の身を守る為には当然必要な人数なのです」

「‥‥‥‥‥本当に必要最低限のお金だけでいいよ、貰うのは‥。でもお金がなくて払えない人の呪いだって解いてあげたい」

「‥‥ドロシー様、この世は酷なのですよ。払えるものがなければ得ることができないものが多いのです」

 たぶん、私の頬はぱんぱんに膨らんでいた。

「‥‥お金のこと、教えてよ」

「‥‥はい?金のこと‥とは?」

「生活をする為にどのくらいお金がいるのか、みんなからはどのくらいお金を貰ってるのか!!私は自分でお金を管理したいよ」

「はっ。‥いや、ドロシー様。最近まで地下におられた貴女には少々難しいかと」

 誰のせいで地下にいたんだか。

「‥‥じゃあはっきり言えばいい??」

「‥なんでしょう」

「ダニエルさんが信用できないから、お金のことダニエルさんに任せたくない!!絶対お金騙しとってるでしょ!ダニエルさんがお金を管理するなら、私はもうここから飛び出してひとりで呪いを解いて回る旅に出るから!!!」

 バージル様のお屋敷にいたときには、こんな風に嫌な気持ちになったりしなかったのに。ここにきてからモヤモヤすることが多すぎるよ!

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