軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第2章 

20話

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 ダンの妹に会いに行くためにエンベリー家に行くと言ったけど、ダニエルさんはダンの妹を私の新居に連れてくると言った。動けないかもしれないから私が行くと言ったけど、それでも「寝て移動できる馬車に乗せるから大丈夫です」と言われた。でも心配だから行くと言うと、笑顔で「大丈夫ですよ」と返された。

 なんだか有無を言わさない感じだ。馬車を使わないとダンの妹にも会いに行けないけど、その馬車がダニエルさんのものらしいから、ダニエルさんが「行かなくて大丈夫です」と言えば馬車は動いてくれない。

 新居に着いたけど、心が翳る。なんだか私が住むには大きすぎると思うなぁ。敷地の中には他にも大きな建物があった。ダニエルさんは、その建物のことを礼拝堂と言った。その礼拝堂っていうところで祝福の子のお仕事をするんだって。

「さぁさぁ、ひとまず今日は屋敷でお休みくださいませ。貴女の身の回りの世話をするのはこちらのネルです」

 ネルという女の人は、大きな猫目の美人さんだった。ぷっくりとした唇が弧を描いて、花が咲いたような笑顔を見せてくれた。私はポーッと見惚れていたと思う。

「ネルです。よろしくお願いします」

 うふ、と笑うネルに、私はコクコクと頷いた。
ダニエルさんはこの屋敷の近くにも別邸があるらしく、私に協力をしてくれる時はその別邸で寝泊まりするみたい。明日からよろしくお願いします、とダニエルさんは帰っていった。

 この屋敷は先先代の祝福の子が使っていた屋敷なんだって。先先代の遺族たちは「是非お次の祝福の子様がお使いください」と別なお家に引っ越したみたいだったけど、エラ・エンベリーは元々ダニエルさんたちが過ごしていた家で過ごすことになったから、この屋敷は暫く誰も住んでいなかったみたい。誰も住んでいない間、この屋敷は国の所有物だったらしいけど、今回私がこの屋敷を使えることになった。

 バージル様のお屋敷は白くて清潔感があって、爽やかだった。このお屋敷は、アンティークなものが多くて、暗めの茶色の壁や床に、高そうな赤いカーペットが敷かれているようなお家。

 広いなぁ。‥私にはこのお屋敷の一部屋だけあれば十分なんだけどなぁ‥。それでも広すぎるくらいなのに‥。

 窓から外を見てみる。鎧の兵士さんみたいな人たちが屋敷の周りに沢山立っていた。屋敷の中にも、ダニエルさんが手配した護衛の人たちが何人もいた。

 人は沢山いるけど‥‥‥寂しいなぁ。
気付いたら、小さなため息が溢れていた。

「‥‥このように厳重な警備になっているのは仕方がないのですよ。国民たちも本日の朝刊でドロシー様が新たな祝福の子であると知りました。兵士の奥に人集りが見えるのがわかりますか?」

 ネルが窓の外を指さしていた。確かに遠くに沢山の人が見える。

「あれは皆、ドロシー様に会いたがっている人たちなのです。護衛がいなければ、人々は怒涛の勢いで屋敷内に侵入してくるでしょう」

 ネルが目を細め、鼻を鳴らして笑っていた。

「‥‥あんなに困っている人がいるんだ‥」

「‥‥‥明日から、大変な日々になりますね」

「‥うん」

 でも私はバージル様と約束したから‥。
たくさんの人を笑顔にするねってバージル様に誓ったから‥。なんだダメだったのか、ってガッカリされないように頑張らないと。

 暫くして出てきた夜ご飯は、バージル様のお屋敷のご飯と同じくらい美味しそうだった。

 だけど大きなテーブルに私のご飯しか用意されていない。ひとりで食べるご飯は美味しさが半減しちゃうんだよなぁ。

「ネル、ご飯一緒に食べようよ」

「ありがたいお誘いですが、私はただのメイドにすぎませんので」

 ネルは花が咲いたような笑顔でそう言った。

「‥そっかぁ」

 私だって、つい最近まで地下で閉じ込められていた呪いの子だったのになぁ。“呪いの子”っていうのも、ジェームスさんが言っていたのかな。

 あれ‥?
頬っぺたに十字架があったから“呪いの子”と呼ばれていたのに。その十字架は祝福の子の印だったんだよね‥?

 エラが本物の祝福の子で、エラが亡くなったことで私が祝福の子になったのなら‥なんで昔から頬に十字架があったんだろう‥。

 やっぱりなんかおかしい気がするよ。

 もぐもぐとご飯を食べながら、一生懸命考える。私はずっと地下にいたから、たぶんこの世界の誰よりも知識も常識もないと思う。

 ここのお屋敷にいる人たちも、みんなみんな、私より色々な経験をしてきてる。‥もしもやっぱり、ダニエルさんが悪い人なら‥ダニエルさんが手配したこのお屋敷にいる人たちはみんなダニエルさんの味方。

 だから、ネルにも「ダニエルさんってやっぱり悪い人だよね?」なんて聞いたらダメな気がする。

 そんなことを考えていたら、だんだんご飯の味を感じなくなっていった。ヒヤリと背中が冷えて、指先も冷たかった。


 どうしよう‥。みんな敵かもしれない。


 この屋敷に来て1日目で、私はそんな不安を抱くことになった。

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