21 / 56
第2章
20話
しおりを挟むダンの妹に会いに行くためにエンベリー家に行くと言ったけど、ダニエルさんはダンの妹を私の新居に連れてくると言った。動けないかもしれないから私が行くと言ったけど、それでも「寝て移動できる馬車に乗せるから大丈夫です」と言われた。でも心配だから行くと言うと、笑顔で「大丈夫ですよ」と返された。
なんだか有無を言わさない感じだ。馬車を使わないとダンの妹にも会いに行けないけど、その馬車がダニエルさんのものらしいから、ダニエルさんが「行かなくて大丈夫です」と言えば馬車は動いてくれない。
新居に着いたけど、心が翳る。なんだか私が住むには大きすぎると思うなぁ。敷地の中には他にも大きな建物があった。ダニエルさんは、その建物のことを礼拝堂と言った。その礼拝堂っていうところで祝福の子のお仕事をするんだって。
「さぁさぁ、ひとまず今日は屋敷でお休みくださいませ。貴女の身の回りの世話をするのはこちらのネルです」
ネルという女の人は、大きな猫目の美人さんだった。ぷっくりとした唇が弧を描いて、花が咲いたような笑顔を見せてくれた。私はポーッと見惚れていたと思う。
「ネルです。よろしくお願いします」
うふ、と笑うネルに、私はコクコクと頷いた。
ダニエルさんはこの屋敷の近くにも別邸があるらしく、私に協力をしてくれる時はその別邸で寝泊まりするみたい。明日からよろしくお願いします、とダニエルさんは帰っていった。
この屋敷は先先代の祝福の子が使っていた屋敷なんだって。先先代の遺族たちは「是非お次の祝福の子様がお使いください」と別なお家に引っ越したみたいだったけど、エラ・エンベリーは元々ダニエルさんたちが過ごしていた家で過ごすことになったから、この屋敷は暫く誰も住んでいなかったみたい。誰も住んでいない間、この屋敷は国の所有物だったらしいけど、今回私がこの屋敷を使えることになった。
バージル様のお屋敷は白くて清潔感があって、爽やかだった。このお屋敷は、アンティークなものが多くて、暗めの茶色の壁や床に、高そうな赤いカーペットが敷かれているようなお家。
広いなぁ。‥私にはこのお屋敷の一部屋だけあれば十分なんだけどなぁ‥。それでも広すぎるくらいなのに‥。
窓から外を見てみる。鎧の兵士さんみたいな人たちが屋敷の周りに沢山立っていた。屋敷の中にも、ダニエルさんが手配した護衛の人たちが何人もいた。
人は沢山いるけど‥‥‥寂しいなぁ。
気付いたら、小さなため息が溢れていた。
「‥‥このように厳重な警備になっているのは仕方がないのですよ。国民たちも本日の朝刊でドロシー様が新たな祝福の子であると知りました。兵士の奥に人集りが見えるのがわかりますか?」
ネルが窓の外を指さしていた。確かに遠くに沢山の人が見える。
「あれは皆、ドロシー様に会いたがっている人たちなのです。護衛がいなければ、人々は怒涛の勢いで屋敷内に侵入してくるでしょう」
ネルが目を細め、鼻を鳴らして笑っていた。
「‥‥あんなに困っている人がいるんだ‥」
「‥‥‥明日から、大変な日々になりますね」
「‥うん」
でも私はバージル様と約束したから‥。
たくさんの人を笑顔にするねってバージル様に誓ったから‥。なんだダメだったのか、ってガッカリされないように頑張らないと。
暫くして出てきた夜ご飯は、バージル様のお屋敷のご飯と同じくらい美味しそうだった。
だけど大きなテーブルに私のご飯しか用意されていない。ひとりで食べるご飯は美味しさが半減しちゃうんだよなぁ。
「ネル、ご飯一緒に食べようよ」
「ありがたいお誘いですが、私はただのメイドにすぎませんので」
ネルは花が咲いたような笑顔でそう言った。
「‥そっかぁ」
私だって、つい最近まで地下で閉じ込められていた呪いの子だったのになぁ。“呪いの子”っていうのも、ジェームスさんが言っていたのかな。
あれ‥?
頬っぺたに十字架があったから“呪いの子”と呼ばれていたのに。その十字架は祝福の子の印だったんだよね‥?
エラが本物の祝福の子で、エラが亡くなったことで私が祝福の子になったのなら‥なんで昔から頬に十字架があったんだろう‥。
やっぱりなんかおかしい気がするよ。
もぐもぐとご飯を食べながら、一生懸命考える。私はずっと地下にいたから、たぶんこの世界の誰よりも知識も常識もないと思う。
ここのお屋敷にいる人たちも、みんなみんな、私より色々な経験をしてきてる。‥もしもやっぱり、ダニエルさんが悪い人なら‥ダニエルさんが手配したこのお屋敷にいる人たちはみんなダニエルさんの味方。
だから、ネルにも「ダニエルさんってやっぱり悪い人だよね?」なんて聞いたらダメな気がする。
そんなことを考えていたら、だんだんご飯の味を感じなくなっていった。ヒヤリと背中が冷えて、指先も冷たかった。
どうしよう‥。みんな敵かもしれない。
この屋敷に来て1日目で、私はそんな不安を抱くことになった。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました
サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。
葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。
それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。
本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。
※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。
番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。
(2021/02/07 02:00)
小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。
恋愛及び全体1位ありがとうございます!
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる