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第2章
19話
しおりを挟む初めての景色をずっと眺めていた。
どこまでもずっと続く空、笑っちゃうくらい大きな木、初めて見る野生の動物たち、道を歩く親子連れ。私の口はずっと開いていたと思う。
護衛の人が言うには、ここから王宮まではすごく遠いみたい。バージル様のお屋敷とエンベリー家のお屋敷は馬車で半日以上かかるらしくて、王宮はそれよりももっと遠いんだって。
途中でどこかの町の宿屋さんに泊まって、また馬車に乗ってやっと今日、王宮に着いた。
「おぉ、待っておったぞ、祝福の子よ」
王宮の中はチカチカ眩しかった。初めて見るものが多くて道中は楽しかった筈なのに、王宮の中を歩いている頃にはバージル様たちを思って寂しくなっていた。気付いたらあっという間に王様のお部屋に来ていたみたい。
髭がもじゃもじゃの、太った王様。
王様の周りにはたくさんの護衛の人がいて、お金持ちそうな人も何人もいた。
「はじめまして」
私は、ちゃんとお話しすることができないけど、リュカやマリア達に教わった丁寧なお辞儀をしてみた。
「ほほ、地下で暮らしていたわりには素敵なレディじゃないか。なぁダニエル」
王様がそう呼び掛けると、王様の近くにいたお金持ちそうなおじさんが「セレスト辺境伯のおかげでしょう」と優しく微笑んだ。
ダニエル??なんかどこかで聞いたことがある気がするんだけど‥。
「先代の祝福の子が亡くなってすぐに、新しい祝福の子が見つかって本当に良かった。世間には呪いで困っている人々が大勢いるからのぉ」
王様が心からの安堵を浮かべると、ダニエルと呼ばれた人は首を何度も縦に振った。
先代の祝福の子が亡くなってすぐ‥?
あれ、なんか‥‥あれ??
「まさか私の弟が人を軟禁する趣味があるとは驚きましたが‥。安心してください、ドロシー様。もう弟は私の手で天罰を下しております。もう貴女を地下に閉じ込める人はおりません」
「‥‥??悪い人はもういないの?」
なんか話がずれてる気がすると思っていたけど、私を閉じ込めていた悪い人はもういないみたい。バージル様が王宮に伝えてくれていたからかな。
「安心せい、祝福の子よ。ここにおるダニエルは、娘が祝福の子だったのだが、先日娘は亡くなってなぁ‥。そのうえなんと肉親である弟のジェームスがお主を地下で軟禁していたと知り、ダニエルはジェームスをその手で殺めたのだ‥。娘を亡くして辛かったろうに、弟も失った‥。なんと辛いことか。‥‥先代の祝福の子の近くで軟禁されていたことで、恐らくお主が次の祝福の子として選ばれたのかもしれぬな。‥祝福の子よ、もうお主を苦しめるものはおらんのだ」
「‥‥?」
あれ?‥そうなの??
エラ・エンベリーのお父さんが悪者で、私を閉じ込めてたって聞いてたけど‥悪者はその弟だったの??エラには本当に祝福の子の力があったの??
ダンはなんだか違うことを言っていた気がするけど‥。でもすっごく偉い王様がそう言うってことは、これが正解なのかな‥?バージル様がお話してくれたうえで、こうなっているんだもんね‥。
「お主には王都に屋敷を授けよう。そこで人々に尽くしてやってほしい。身寄りがなく不安だろうが、ダニエルもお主を支援すると言ってくれている。王宮からも護衛を出すが、ダニエルは先代の祝福の子の父。色々と詳しく、お主の力になるだろう」
「‥‥ダニエルさんも来るの?」
「ええ、通わせて頂き、誠心誠意貴女様の支えとなりましょう。屋敷の周囲の護衛は国の兵士たちにお願いし、屋敷内部での護衛や、貴女様の身の回りのお世話などは私が手配致します」
「‥‥」
私が来る前から色々決まっていたみたい。
「長旅で疲れただろう。本日は新居でゆっくりと休み、明日から祝福の子として頑張ってくれ」
「あ、あの‥私、最初にダンの妹に会いたいの」
「ダンとは誰だ?」
王様が首を傾げると、ダニエルさんが口を開いた。
「私の従者でございます。ダンの妹も呪いに侵されていますから‥」
「おぉ、そうであったか。では最初にダンの妹を救ってやってくれ」
エンベリー家はみんな捕まってると思ってたけど、そうじゃないんだもんね。だからダンの妹はエンベリー家にいるみたい。
バージル様は、ダンの妹が人質になってるって言ってたけど‥悪い人がダニエルさんじゃなくて、弟のジェームスさんだったなら、ダンの妹は人質じゃなくて、ただ面倒見てあげているだけなのかもしれない。
あれぇ‥でも、やっぱりダンは別なことを言っていたような気がするんだけどなぁ‥。
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