軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第1章 

18話

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 朝、バージル様が部屋に来た。
思っていた通り、すごく怒ってる。

 でもいつもよりも顔色が良くて、それだけですごく嬉しかった。

「どういうつもりだ」

「‥‥恩返ししたかったの」

 ずかずかと部屋に入ってきたバージル様は、私が体の後ろに隠していた腕を躊躇なく取った。

 指先から手首まで黒く染まった手。その手を見た途端、バージル様の眉間に皺が寄った。怒っているようだけど、どことなく悲しそうにも見える。

「大丈夫だよ。これね、時間が経つと消えるの。さっきまでもっとあったけど、だんだん消えてきたから」

 バージル様の呪いの量が多かったんだと思う。
でも祝福の子として仕事をして、毎日何人もの呪いに触れたら、きっと毎日こうなるんだと思う。朝になったら治ってて、またみんなの呪いを吸収するのかな。

「‥‥俺は恩を返されるほど、お前に特別なことなんてしてやれてない」

「してもらったよ、いっぱい」

「‥」

「私すごく幸せだったもん。本当にありがとう、バージル様」

「‥‥俺は、お前の力を‥私的に‥」

 なんだかこの期に及んでまた難しいことを言ってるみたい。

「私は今日お迎えがきて、これから正式にリプリスの祝福の子になるんでしょ?だから、バージル様が1人目の患者さんってことでいいじゃん」

「‥‥」

 私がそう言うと、バージル様はやっと折り合いがつけられたみたいだった。

 我慢していたつもりだったけど、ふぁ、と欠伸がでてしまった。寝ないで朝まで起きていたのは今日が初めて。

 このタイミングで欠伸が出てしまうと、まるで「朝まで頑張ったから眠いんだよ」とアピールしているみたい。全くそんなつもりないのに。

 咄嗟に口元に手を当てて隠したけど、やっぱり見られていたみたいで、バージル様は少し眉を下げた。

「‥‥悪かったな、無理させて。‥‥でも助かった。感謝する」

「‥ふふ」

 嬉しい。今日でお別れなのはすごく寂しいけど、心残りがひとつ消えた感じかな。
 バージル様は手を伸ばせば触れられる距離にいる。昨日一晩握り続けたバージル様の手。‥もう二度と触らないんだと思うと、やっぱり寂しいな。

「‥‥ドロシー」

 名前を呼ばれた。顔を上げたいけど、涙が出そうで上げれなかった。
お別れの挨拶をするのかな。それなら私も伝えたいことがある。

「‥‥‥バージル様。また会えるよね?」

「‥‥あぁ」

 バージル様の顔が見たくて顔を上げたけど、視界は涙でぼやけてた。
バージル様は何か言おうとして口を開いたけど、言葉にするのを渋っているみたい。

「ーーバージル様、迎えの馬車が到着致しました」

 そんな声が届いたからもっと涙が出そうになったけど、私はゴシゴシと涙を拭った。バージル様に言いたいことはまだ沢山ある。

「バージル様、私ね、バージル様とお屋敷のみんなに優しくしてもらえてすごく嬉しかった!だから私もみんなに優しくしたいの。私はたくさんの人の笑顔が見れるように頑張るね」

「‥‥‥あぁ‥応援してる」

「‥‥まずダンの妹を治してあげたいんだ」

「‥‥」

「だって、ダンの妹はなにも悪くないから‥」

 まずはダンの妹を助けてから、王宮に向かいたい。
確かにそうだが、とバージル様は小さく声をあげた。

「‥‥ここにダンが来た数日後、またすぐにダンが屋敷に来たんだ」

「え?そうなの?!」

「‥‥‥妹がエンベリー家にいるって言ってたな」

「‥‥あれ?ダンはエンベリー家の敵になったんじゃないの??」

「大方、人質になってるんだろ、妹が」

「人質‥?私と妹を交換こってこと?」

「恐らくそういうつもりだったんだろうな。けど、もう王宮の奴らもお前が祝福の子だと知っているから‥もう今頃は王宮の兵士たちがエンベリー家を捕らえている筈だ」

「‥‥じゃあ、ダンの妹は王宮にいるの?」

「どうだかな。王宮‥というよりは、王都の病院にでもいるんじゃないかと思うが‥。ここはリプリスの端っこで、辺境の地だから‥。情報が入ってくるまでに少々時間がかかるんだ」

「そっか‥。じゃあとりあえず王宮に行かないと、ダンの妹の行方は分からないね」

「そういうことになるな」

 バージル様の手がぽん、と頭に乗せられた。
バージル様からこうして触れてくれるの初めてじゃないかな‥?嬉しいな。

「‥‥王都とここは距離があるから、すぐには駆けつけられないが‥何かあったら頼れよ」

 あぁ、本当にもうお別れなんだ。

「‥‥うん。ありがとう。バージル様、大好きだよ」

「っ」

「リュカも、マリアもユリアも、みんなみんな大好き!」

「‥‥‥‥。‥そうか」


 私は馬車に乗った。出発してからも、角を曲がるまでお屋敷のみんながずっと見送ってくれて、私はやっぱり“離れたくないよ”と思ってしまった。




「バージル様」

「なんだ」

 リュカが少し躊躇いながらも口を開く。

「本当はさっき、ここに残れと言いたかったんじゃないですか?ここを拠点に活動したらいい話ですもんね、まぁ国の端っこですけど」

「‥は?」

「‥‥ひ、冗談です、すみません!」

 バージルは冷たい一瞥でリュカをあしらったが、見透かされていたことに内心ヒヤリとしたのはここだけの秘密である。
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