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第1章
16話
しおりを挟むバージル様のお屋敷で、バージル様に呼ばれないまま1日が終わる。
好きに過ごしていいと言われて、マリアとユリアも娯楽品と呼ばれるものをいろいろ用意してくれたけど、私は地下にいた時よりも寂しかった。
ずっと浮かれて幸せだったのに、心が落ち込んで仕方ない。
「‥‥バージル様に会いたい」
私がそう言うと、マリアとユリアは困ったような顔をする。
「どうして会わせてくれないの」
バージル様が自分で言ってた。「俺はお前を縛ってた。もう自由に過ごせ」って。だから会ってくれないんだと思う。
「‥‥ドロシー様、すみません‥」
こんな顔をしたくないけど、今の私は多分ムッとしちゃってる。
いやだなぁ、こんな自分。幸せを知ってしまったから、心が簡単に飢える。地下から出てきたばかりの頃は、感じるもの全てが新鮮で幸せだったのに。
窓の外に目をやると、バージル様の姿が見えた。
どこかにお仕事に行ってたのかな。
「!!」
なんかバージル様‥具合悪そうだよ‥。呪いで苦しんでるんじゃないの‥?
マリアとユリアが、明日には私のお迎えが来るって言ってた。
私、このままバージル様とお別れするのは嫌だよ‥。
「マリア、ユリア‥ちょっと目を瞑って?」
「「え、なぜですか?」」
「マジックを見せてあげる。5秒数えてほしいな」
落ち込んでいる私を元気づけられるなら、と2人は頷いてくれた。
「では数えますよー!1・2・3‥」
騙してごめんなさい。あとでちゃんと謝るから‥
私は、窓を開けてそこから飛び出した。ここは2階、足から着けば死なないんじゃないかな。
窓が開く音でマリアとユリアが気付いたみたい。2人の悲鳴が響いたから、下にいた人たちが驚いた顔で私を見た。
「っ、嘘だろ」
地面に着く前に、何故か空中で何回か跳ねたような感覚があった。ぴょんぴょんと、宙に浮いたあと私はやっと地面に着いた。
ーーードサッ。
地面に着地するつもりだったのに、バージル様が私をキャッチしてくれていた。ぴょんぴょん跳ねたおかげでキャッチする時間が作れたみたいだけど‥‥。
バージル様の顔は案の定かなり怒っていた。
お互いしっかり服を着た状態で触れ合っているからか、この間みたいに呪いの黒い感情のようなものが私に入ってこない。素肌だったり、せめて薄着くらいじゃないと呪いは解けないのかな?
「お前‥どういうつもりだ?窓から飛び降りるほど、ここから逃げ出したかったのか?‥リュカの加護がなければそのまま地面に落ちてたんだぞ!」
リュカの加護‥?あ、人智を超えた力‥ってやつかぁ。リュカは面白い力を持ってるんだなぁ。
「‥‥逃げたかったんじゃないよ」
「じゃあなんでこんな馬鹿な真似をしたんだ」
「‥こうでもしないと、バージル様に会えないんだもん」
「‥‥お前わざわざ俺に会う為に飛び降りたのか‥?」
地面に降ろされて、私はバージル様に負けじと怒った顔をしてみた。頬を膨らまして、どれだけ怒っているのか伝えてみる。絵本の中の怒った顔はだいたいこういう顔なんだよね。絵本みたいに顔を瞬時に赤くすることは難しくてできないんだけど‥‥
「そうだよ!だって会いたいって言っても会わせてくれないんだもん!」
「‥俺はもうお前を縛らないって言っただろ!」
「それ、変だよ!!」
バージル様に負けないぞ。すかさずまた怒った顔をする。
「‥なにがだ。というかなんなんださっきからその顔は。馬鹿にしてんのか」
「怒ってるの!!怒ってる顔してるの!!」
「‥‥‥なんで俺がお前に怒られなきゃいけないんだ。怒ってるのはこっちだ。危ない真似して怪我でもしたらどうするんだ」
「‥‥うるさい!怒ってるのは私なんだから、私の話聞いて!!」
バージル様が怒ると私はいつも静かにしていたから、ここまで自分の気持ちをぶつけようとしたのは初めてだと思う。バージル様は片眉を上げて少し驚いたみたいだったけど、口を閉じて私の話を聞こうとしてくれた。
「‥‥バージル様は私を縛らないっていうけど‥‥。私が本当に好きなことをして過ごしていいなら、私はバージル様に会いたいんだから、会わせてよ」
「‥‥それは、お前の今までの環境が劣悪すぎたせいで錯覚してるだけだ。俺の部屋にいたって、お前は自由じゃないだろ」
「‥‥バージル様の部屋にいればバージル様に会えるけど、バージル様の部屋にいなかったらバージル様に会えないもん」
「お前はまだ世界を知らないから俺に執着してるだけだ。それにもう明日にでも迎えがくる。明日以降の生活を楽しみにしていた方がよっぽど建設的だろ」
他の場所に行けば、また他に会いたいと思える人に出会えるよ、と言いたいのかな。
じゃあバージル様とは本当に、このままバイバイなんだ。
私は最初に優しくしてくれたバージル様たちが本当に大好きだけど、バージル様は簡単にバイバイできるんだね。
「‥‥‥おい、泣くことじゃないだろ」
「‥‥‥‥地下でひとりだった時より寂しいよ」
「‥‥」
「‥‥明日だって行きたくないよ。ずっとここにいちゃだめなの?ここにいたら邪魔になっちゃうの?せっかくセシル以外の人と、お話できて、仲良くなれたのに」
「‥‥‥‥‥‥あぁ、もう。わかったよ。折れてやる。
‥今日は俺の部屋で過ごしたらいい」
え、いいの?!と顔を上げると、バージル様はやれやれと言った顔をしていた。
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