軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

文字の大きさ
上 下
13 / 56
第1章 

12話

しおりを挟む


 伝令の人たちが王宮へと旅立ってすぐのこと。
私は応接間という部屋に呼び出された。もちろんバージル様もリュカもいる。

 私が応接間に入った時には、既に黒いマントで全身を覆ったガタイの良い人が床に蹲っていた。黒々しいこのマント‥どこかで見たことあるような‥?

「‥‥この男に見覚えはあるか」

 バージル様が冷たい声で私にそう問い掛けた。

「‥‥‥あるような気はする‥」

 私の言葉を聞いてバージル様は小さく頷いた。
黒いマントの人が私を見上げた。そして目を見開いた。まるで何かに驚いたような、そんな表情だった。

「この男の名前は、ダン・ペリー。お前を運び出した男らしい」

 バージル様はそう言った。
私はもちろんダンという言葉に反応した。バージル様にも『ダン』という人物によって地下から連れ出されたのだと伝えている。だからこそバージル様はこの人を応接間に連れてきたんだと思う。この人物はお前が言ってたダンと同一人物か?って。

 私はあの時ダンの顔を見ていない。だけど声は聞いてる。

「貴方があの時連れ出してくれたダン?」

 私がそう問うと、ダンは小さく頷いて口を開いた。なんだかげっそりしていて、元気がなさそうに見える。

「‥‥はい、俺が連れ出しました」

 小便漏らすなよ!とか言っていた人と同一人物には思えないくらい丁寧な言葉使い。だけど声は間違いなく、あの日聞いたダンの声だった。
 私はあの日まで『耳』で得る情報以外に楽しめるものがなかった。だからこそ覚えているの。ダンの低い声を、鮮明に。

「バージル様、この人だよ。声が同じ」

 私がそう言うと、バージル様は改めてダンを見据えた。
その瞳がやけに冷たくて鋭いことに、何故かハラハラしてしまう。

「‥‥‥ダン・ペリー。エンベリー家について知っていることを全て話せ」

 ダンは終始ムッとした顔をしてる。素直じゃなさそう感じ。だけどダンは簡単に口を開いた。だから多分生まれつきこういう顔なんだと思う。

「‥エンベリー家は成り金一家で‥エラを祝福の子に仕立て上げたことで大金を得ました。当主のダニエル・エンベリーはそれまで裏稼業で日銭を稼いでたゴロツキです。俺の父親はずっとダニエルの下っ端だったから、俺も自然とダニエルの下で働いていたんです」

「何故ドロシーを連れ出した?」

 バージル様がそう問いかけると、ダンは小さく頷いてからまた口を開いた。

「俺の妹が呪いのせいで今にも死にそうなんです。体を起こすことも難しいのだと実家から手紙が届きました。エラの元に行けるわけもないし、仮にエラの元に行けたとしても根本的には治らない。だからどんなリスクを冒してでも、本物の祝福の子であるドロシーを連れ出そうと思ったんです」

 ダンは真剣な顔をしてた。やっぱり表情はムッとしたままだけど。
私を連れ出してくれた理由は分かったけど‥それならどうして私はバージル様のお屋敷にいるんだろう??

「でもドロシーを連れ出そうとした時に先輩から呼び出されて‥。とりあえずドロシーを入れた箱を置いてその場を離れたら、箱がなくなってて‥慌てて周りに聞いたら、ここら辺の荷物は全部セレスト辺境伯邸に運ばれたって言われて‥」

「セレスト辺境伯?」

 初めて聞く言葉に首を傾げると、リュカがすかさず耳打ちしてくれた。

「バージル様はセレストという領地を統べる領主様ですので、セレスト辺境伯とも呼ばれるのです」

「‥名前がたくさんあるんだね」

「まぁそのようなものです」

 バージル様はバージル・ロペスという名前だって聞いたことがあるのに‥他にもセレスト辺境伯っていう名前があるって、なんだか不思議‥。リュカが私の顔を見て少し困ったように笑ったから、思わず私も釣られて笑った。でもすぐに空気がピリピリしていることに気が付いて、私は口元を緩ませるのをやめた。

 バージル様から漂う冷気がすごい。たぶん、なんかとっても怒ってる。

「お前はドロシーを呪いの子として非道な扱いをしていたんだろ?だが自分の妹は助けて欲しいと?笑わせるな」

「っ、ダニエル・エンベリーの元で‥裏の世界で生活するしかなかったんです。親父が死んだあとも、実家の家族を養うにはそうして働くしかなかったから‥‥仕方なかったんです」

「そうか。ではお前の妹が死ぬのも仕方ないことだから諦めろ」

「なっ」

「あと数日で王宮からの使いがこちらへやってくる。直にドロシーの存在は公的に認められ、王都にでも居を構えることになるだろう。お前の妹のところに行く時間などない。残念だったな」

「そんなっ‥!そこをなんとかお願いします!!妹を、助けてくださいっ‥‥!!」

「とっとと消えろ。目障りだ」

 ダンは泣きそうになってた。泣きそうになりながら、兵士たちに抑えられていた。
 私は「妹を助けてあげるね」と言葉をかけたかったけど、バージル様の瞳は「余計なことを言うな」と言っているみたいで、口を開くことができなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...