軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第1章 

11話 エラ視点

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 屋敷内の自室で、ベッドの上に座りながらぼーっと窓の外の景色を眺める。こんなにも何もせずに過ごしているのは人生で初めてかもしれない。
 
 私の頬を削ったことで得た莫大な資産。そのお金で建てられた屋敷はどこもかしこも高そうなものばかり。こうして部屋の中をよく見てみても、至る所に宝石がある。こんなにまじまじと部屋の中を見たことはなかったかもしれない。私の部屋なのに、私の部屋じゃないみたい。

 ずっと礼拝堂にいて、疲れ切って屋敷に戻る。その毎日の繰り返し。助けてくれと泣かれ、時には『貴女はやはり他国の祝福の子よりも力がないのですね!』と罵られ。
 そんな毎日だったから、こうしてずっと屋敷にいるのは不思議な気分。

 窓から見える景色はもう見飽きてしまった。思えば私は屋敷の敷地外に出たことがなかった。たぶん街角で”祝福の子の力”を求められても応えることができないから。あの可哀想なドロシーと比べてはいけないことなど分かっているけど、私自身も飛べない鳥だったのだとやっと気付かされた。

 ここは鳥籠。私はパパとママの道具。
具合が悪いと公表してから数日経った。ドロシーは何処で何をしてるんだろう。もうそろそろエンベリー家は終わるのかな。私も、パパもママも‥世界中から叩かれて、処刑されるんだろうな。

 パパは私兵たちに命令してダンを追わせてるみたいだけど、ダンの故郷は国の外れの方にあるらしいからまだ追いついてないんだと思う。おかげでパパは毎日毎日、真っ青な顔をしながら狼狽えてる。

 屋敷の中には室内ガーデンがある。カーテンを閉めているから外から見られるわけでもないし、植物を見に行こうかな。エンベリー家が終われば、あの草花たちも共に滅びるんだろうし、今のうちに綺麗な姿を見ておこう。

 部屋を出てメイドに一声かけた。メルという名のポニーテールのメイド。私と同じくらいの年齢で、ずっと昔からこの屋敷に勤めている子。

「室内ガーデンに行くわ」

「はい。かしこまりました」

 室内ガーデンなら特に問題もないと思ったのか、メルは止めることもなく私の後ろをついてきた。

 階段を降りて屋敷の一番奥。室内ガーデンに入り、扉を閉めた時だった。

 メルの目つきが変わったのを確認し、私は思わず肩を縮こませた。柔らかな印象だった彼女の目は、まるで人が変わったように鋭い。

「‥‥どうしたの‥?」

「‥‥エラ様の部屋の周りには常に人がおり、お話をすることができませんでした。何がなんでもタイミングを作りたかったので、今ここに来られたことに感謝致します」

「‥え?どういう‥」

「ダンを見つけ出すのに時間がかかっている今、旦那様は次の手を考えております。私はたまたま、旦那様の発言を聞いてしまったのです」

「‥‥パパが、別の策を‥?」

 確かにこのままダンが見つからない可能性もあるし、パパが大人しく断罪されるのを待つとは思えないけど‥

「はい‥。祝福の子が亡くなった時、どうなるかご存知ですか?」

「‥‥‥亡くなった時間と偶然同じ時間に生まれた赤子が次の“祝福の子”になる」

「ええ。そうです。では、タイミングよく子どもが生まれなければ?」

「‥‥‥同世代の人がランダムに、選ばれる‥」


 そのあとメルが何か話していたけど、私は目眩がして、吐きそうになった。もう何も聞こえないし、聞きたくないと思った。

 パパは、私を殺そうとしてる。

 私が死んだからドロシーが次の祝福の子に選ばれたのだと‥そう公言するつもりなんだ。そうすれば罪なんかじゃなくなるから。ただただ娘を失った可哀想な父親になるだけだから。

 胸が苦しくて、破裂しそうなのか、穴が空いて萎んでしまったのかよくわからない。きっと肺は思いの外正常に機能しているんだろうけど。
 いっそのこと今この場でグジャグジャに殺してもらったほうが幸せなのかもしれないと思った。

ーーーーぱんっ!

 両頬を挟まれるように叩かれた。一気に視界がクリアになった。メルだ。メルが強い眼差しで私を見てる。

「ボーっとしてる暇はありませんよ!一刻も早く逃げましょう!!私もお供しますから!
あんなハゲ親父の思うままになってはなりません!!!」

「‥ハゲ‥」

 メルは、何故私を導いてくれるんだろう。このまま私が誰かに殺されるのを待っていれば、何不自由なくエンベリー家で働き続けることができる筈なのに。どうしてリスクのある選択をしてくれたんだろう‥。

「私の母はセシルという乳母でした」

「‥‥乳母?」

 そんな存在知らないけど‥

「ドロシー様の乳母役だったんです。ドロシー様の為に旦那様に楯突いた母は旦那様に殺されました。もちろん秘密裏にですが」

「う、そ‥‥」

 私はまた肺が壊れたような気になった。気を抜くとすぐ頭がぐるぐるしてしまう。
 ダンとダンの妹を殺すと言っていた時にもかなりのショックを受けたけど、パパはもうとっくの昔に人の命を奪っていたんだ。きっと他にも前科があるかもしれない。

「私は母からの手紙で何度も聞かされていました。ドロシー様とエラ様を救いたいのだと。でもどうすることもできないのだと。確かにお二人を救うには全てを覆すしかありません。だからこそ、今は好機‥!」

 メルがにこっと笑って手を差し伸べてきた。手袋越しの、私よりも少しだけ大きなメルの手。

 私はズタズタになった心になんとか蓋をして、メルのその手を取ったのだった。

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