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第1章
10話
しおりを挟むただただ肌が黒く染まっているだけじゃないと思った。黒い痣と白い肌の境目が赤黒くなっていて、見ているこっちが痛みを感じてしまいそう。
「‥すごく痛そう。これが呪い‥」
バージル様が呪われていたなんて初めて知った。そもそも呪いってなんなんだろう‥。そんなことすら分からない。祝福の子という存在が必要なくらい、世の中には呪われている人が溢れているのかな。
ここにきて私は初めてこのお屋敷の外のことを考えた。あの暗くて狭い地下からこのお屋敷にやってきたけど、移動中は箱の中だったから私は外の世界を何も知らない。もちろん、今の生活には感謝しかしてないけど。
「この呪いの痣は、恐らくかなり進行が早い方だろう。発症してからあっという間にこんなにも黒く染まった」
「エラのところに行った方がいいよ!!」
「行った。だけどエラが俺に触れても進行が止まっただけで消えやしなかった」
祝福の子が触れれば消えるものなのかな?エラが触れても消えないなんて、よっぽど強い呪いなのかもしれない。それとも‥‥
「‥‥時間が足りなかったんじゃない?」
「もちろんそれもあるかもしれないな。だが、いま‥
エラに直接会った時よりもかなり体は楽なんだ。お前が近くにいるだけで、呼吸が楽になる」
そう言って、バージル様は自身の痣に触れていた。
禍々しい黒い痣は、バージル様をよほど苦しめているんだ。
「‥‥だから私が祝福の子なの?」
「‥俺はそうだと思ってる。そう仮定すると全ての辻褄が合うからな」
バージル様がシャツを羽織った。表情を変えないままボタンを掛けていく。私はタタッと小走りでバージル様の近くに詰め寄った。いつも朝挨拶する時よりも近い距離。バージル様を下から覗き込めるくらいの、近い距離。
「私のことを祝福の子だって言うなら、触らせればいいじゃん」
全然信じられないけど、そう思うなら普通は呪いを解いてくれって言ってくるものじゃないの‥?触ってみて呪いが解けたら、祝福の子なのかどうかもはっきりするんだよね‥?
目と目が合って、暫くの沈黙があった。バージル様は、重そうに唇を開けた。
「‥‥祝福の子というのは、神が5つの国にそれぞれ与えた国の宝。エンベリー家の動きを探りながらお前を匿っていたが、お前のその力は国民全員に平等に与えられるべきもの。俺がここで私的に呪いを解いてもらうのは、筋が違うと思ってる。権力があるものこそ平等性を‥って、おいっ‥」
バージル様の話が難しかったから、私はバージル様に抱きついた。痣は体全体を覆っていたから、体がたくさん触れ合えば効率がいいと思ったの。
まだシャツのボタンが掛けられていないから、薄い肌着越しにバージル様の体に触れてる。氷のような印象だったけど、体は温かくて気持ち良かった。
「っ、一旦離れろ、おい」
体に何かが入ってきたみたいで目眩がする。
『死ね』『よくも‥』『お前さえいなければ』
そんな負の感情や言葉が、突然私の脳内に溢れかえった。怖い、と思った。これはなんだろう‥呪いから流れてきたのかな‥?
ベリッと体が離されてしまった。頬の十字の間を、ツーッと何かが流れていくのがわかった。‥なんだろう、これ。‥‥あ、絵本で見た『涙』かな?
「っ、あー、もう!くそっ。リュカ!見てないでさっさと来い!!」
「あ、はいっ!!」
バージル様がシャツの袖口で私の目元をごしごしと拭いた。涙を拭ってくれているのかな‥?ちょっぴり強引すぎて痛いけど、やっぱりバージル様は優しいなぁ‥
「大丈夫か?痛かったのか?今まで一切やったことがないことを‥突然無茶しすぎだ」
痛くはなかった。痛くはなかったけど、どす黒い何かが心に沢山入ってきたの。でもこれは、なんだかバージル様には教えたくない。
「痛くないよ、大丈夫!!あ‥‥消えてる!!」
「‥‥‥、だな」
黒い痣の一部が綺麗さっぱり消えていた。まだまだ全部がなくなるには時間がかかりそうだけど‥
私が再びバージル様に抱きつこうとすると、バージル様は片手で私の額を押さえた。
「やめろ」
「なんで?!」
「だから、お前の力は俺が独占していいものじゃない。世間に一刻も早く公表して、皆平等にその恩恵を受けるべきだ」
また難しいこと言ってる‥!
「‥‥王宮へ伝令を出します!」
リュカがそう言うと、バージル様は頷いた。
今度は止められない。だって実際にバージル様の呪いが消えてなくなったから。まだほんの一部だけど‥
ーー私‥本当に祝福の子なんだ‥
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