軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

文字の大きさ
上 下
10 / 56
第1章 

9話

しおりを挟む

 今日もマリアとユリアに髪を整えてもらったり、ひらひらのお洋服を着せてもらってからバージル様の部屋へ行く。
 朝一番のバージル様はあまり元気がなさそうに見える。私が近くまでいき「バージル様、おはよう」と挨拶するとバージル様は目を瞑って深い呼吸をするの。そうすると、バージル様は少しだけ元気になっていつも通りお仕事を始める。これが毎日の流れ。
 それから私はバージル様のお部屋の中で朝ごはんを食べたり、絵本を見たり、たまにリュカに字を教わったり。明るくて清潔で落ち着くこの部屋でのほほんと過ごしてる。本当に本当に幸せ。こんなに幸せでいいのかなぁ。

 お昼と夜ご飯はバージル様と一緒に食堂で食べて、夜ご飯のあとは自分の部屋に戻る。こんな日々の繰り返し。あの暗闇の孤独な生活が当たり前だったのに、本当不思議だなぁ‥。

 お昼ご飯を食べ終えてしばらくすると、私はソファの上でうとうとと眠りに落ちそうになった。キラキラとした外の光を浴びながらの微睡まどろみの時間がすごく大好きなんだぁ。

「失礼致します!!」

 ノックの後に聞こえてきた声はリュカのもの。だけどいつもより随分と大きくて、どこか焦っているようにも感じる。リュカの声に、重かった瞼は途端に軽くなった。

「どうしたんだ」

 バージル様がそう尋ねると、リュカは酷く狼狽しながら口を開いた。

「大変です!!エラ・エンベリーが体調不良により寝込んでいるそうです」

「‥なんだって?」

 エラ・エンベリー。リプリスの祝福の子。
体調不良かぁ‥大丈夫かな、きっと彼女が寝込んでしまうと、困る人が大勢いるんじゃないのかな。

 ふと考え込んだ私は何やら視線を感じて顔を上げた。バージル様とリュカが私を見ていた。

「?‥‥え?なに‥?」

「‥‥‥ドロシー。お前がエンベリー家から消えたからかもしれない」

「え??」

 バージル様の言葉に首を傾げた。
私がエンベリー家から消えた??エンベリー家って‥なんとなく聞いたことある気がしてたけど‥私がいたあの場所がエンベリー家‥?

「お前はエンベリー家からの荷物と共に運ばれてきたんだ。だからお前がエンベリー家にいたことには間違いない」

「‥‥エンベリーって、あの、エラ・エンベリーのエンベリー??」

「そうだ」

「‥‥‥私がいた場所は、真っ暗な地下だよ。祝福の子がいるような場所じゃなかったよ」

「恐らく、エラ・エンベリーの礼拝堂の地下に幽閉されてたんだろうな。今回エラが人々の前から姿を消したのは、お前がここに来たことで“祝福の子”の力を失ったからだろう」

「‥‥‥ちょっと話が難しいよ」

「考えたくないが、これが一番しっくりくる。本物の祝福の子は恐らくお前だ、ドロシー。エンベリー家はお前の存在を隠しながらも、お前の力を利用してたんだ」

 私が祝福の子?‥いやいや、そんなわけないよ。だってずっと呪いの子として生きてきたのに‥。頬の十字は祝福の子の証拠だってマリアとユリアも言ってたけど、それならどうして私は地下にいたの??

「すぐに王宮に伝令を出せ。エンベリー家を拘束させなくては」

「ま、待って!!」

 バージル様からの殺気が凄くて、私は思わず話を遮った。
私の言葉を聞こうとしてかバージル様の片眉が上がっている。空気はピリピリしているけど、どうしてこんなにもバージル様とリュカが怒っているのかわからない。

「あ、あの、なんで怒ってるの‥?」

「‥‥なんで、だと‥?」

 ひっ、と声をあげそうになった。
私に怒っているわけではないんだろうけど、怖くて仕方ない。

「私は祝福の子じゃないよ!
エラもただ具合が悪いだけな筈だよ!」

 私がそう言うと、バージル様は怒った顔をしたままベストを脱ぎ、シャツのボタンも外し始めた。

 リュカは何か言いたげだったけど何も言わなかった。
バージル様がシャツを脱いだ。引き締まった綺麗な白い肌を、禍々しい黒い痣が覆っていた。私はその黒い痣を初めて目にしたけど、これが“呪い”だと直感で思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...