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第1章
9話
しおりを挟む今日もマリアとユリアに髪を整えてもらったり、ひらひらのお洋服を着せてもらってからバージル様の部屋へ行く。
朝一番のバージル様はあまり元気がなさそうに見える。私が近くまでいき「バージル様、おはよう」と挨拶するとバージル様は目を瞑って深い呼吸をするの。そうすると、バージル様は少しだけ元気になっていつも通りお仕事を始める。これが毎日の流れ。
それから私はバージル様のお部屋の中で朝ごはんを食べたり、絵本を見たり、たまにリュカに字を教わったり。明るくて清潔で落ち着くこの部屋でのほほんと過ごしてる。本当に本当に幸せ。こんなに幸せでいいのかなぁ。
お昼と夜ご飯はバージル様と一緒に食堂で食べて、夜ご飯のあとは自分の部屋に戻る。こんな日々の繰り返し。あの暗闇の孤独な生活が当たり前だったのに、本当不思議だなぁ‥。
お昼ご飯を食べ終えてしばらくすると、私はソファの上でうとうとと眠りに落ちそうになった。キラキラとした外の光を浴びながらの微睡みの時間がすごく大好きなんだぁ。
「失礼致します!!」
ノックの後に聞こえてきた声はリュカのもの。だけどいつもより随分と大きくて、どこか焦っているようにも感じる。リュカの声に、重かった瞼は途端に軽くなった。
「どうしたんだ」
バージル様がそう尋ねると、リュカは酷く狼狽しながら口を開いた。
「大変です!!エラ・エンベリーが体調不良により寝込んでいるそうです」
「‥なんだって?」
エラ・エンベリー。リプリスの祝福の子。
体調不良かぁ‥大丈夫かな、きっと彼女が寝込んでしまうと、困る人が大勢いるんじゃないのかな。
ふと考え込んだ私は何やら視線を感じて顔を上げた。バージル様とリュカが私を見ていた。
「?‥‥え?なに‥?」
「‥‥‥ドロシー。お前がエンベリー家から消えたからかもしれない」
「え??」
バージル様の言葉に首を傾げた。
私がエンベリー家から消えた??エンベリー家って‥なんとなく聞いたことある気がしてたけど‥私がいたあの場所がエンベリー家‥?
「お前はエンベリー家からの荷物と共に運ばれてきたんだ。だからお前がエンベリー家にいたことには間違いない」
「‥‥エンベリーって、あの、エラ・エンベリーのエンベリー??」
「そうだ」
「‥‥‥私がいた場所は、真っ暗な地下だよ。祝福の子がいるような場所じゃなかったよ」
「恐らく、エラ・エンベリーの礼拝堂の地下に幽閉されてたんだろうな。今回エラが人々の前から姿を消したのは、お前がここに来たことで“祝福の子”の力を失ったからだろう」
「‥‥‥ちょっと話が難しいよ」
「考えたくないが、これが一番しっくりくる。本物の祝福の子は恐らくお前だ、ドロシー。エンベリー家はお前の存在を隠しながらも、お前の力を利用してたんだ」
私が祝福の子?‥いやいや、そんなわけないよ。だってずっと呪いの子として生きてきたのに‥。頬の十字は祝福の子の証拠だってマリアとユリアも言ってたけど、それならどうして私は地下にいたの??
「すぐに王宮に伝令を出せ。エンベリー家を拘束させなくては」
「ま、待って!!」
バージル様からの殺気が凄くて、私は思わず話を遮った。
私の言葉を聞こうとしてかバージル様の片眉が上がっている。空気はピリピリしているけど、どうしてこんなにもバージル様とリュカが怒っているのかわからない。
「あ、あの、なんで怒ってるの‥?」
「‥‥なんで、だと‥?」
ひっ、と声をあげそうになった。
私に怒っているわけではないんだろうけど、怖くて仕方ない。
「私は祝福の子じゃないよ!
エラもただ具合が悪いだけな筈だよ!」
私がそう言うと、バージル様は怒った顔をしたままベストを脱ぎ、シャツのボタンも外し始めた。
リュカは何か言いたげだったけど何も言わなかった。
バージル様がシャツを脱いだ。引き締まった綺麗な白い肌を、禍々しい黒い痣が覆っていた。私はその黒い痣を初めて目にしたけど、これが“呪い”だと直感で思った。
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