軟禁されてた呪いの子は冷酷伯爵に笑う(完)

江田真芽

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第1章 

2話

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 私はずっと手で顔を覆ってた。眩しすぎて怖かったの。みんなどうして普通にしていられるの‥?みんなすごく大きな声だし、何人もの声が一気に聞こえてくる。
 帰りたいな‥帰りたい、あの部屋に。あそこは目を開けていられるし、耳も痛くならないのに‥

「‥‥何事だ?」

「バージル様!!し、少女が木箱に入って送られてきたのです!!」

「‥‥‥なんだと?」

 バージル様という人は、すっごく低い声だった。冷たくて震えてしまうような声。

「それが、この少女とても小汚く‥」

「汚いな」

「そうなんです。しかし、エンベリー家からの荷物でして‥」

「なんだって?」

 バージル様は心底驚いた声をあげていた。エンベリー家?何だか聞いたことがあるような‥?

「祈りの花束や祈りの女神像と共に送られてきたので、この少女も呪いを解く効力があるのかもしれません」

「‥‥っ。なら何故こんなにも臭くて汚いんだ?」

「そ、それは分かりませんが‥」

「‥‥エンベリー家からの荷物なら捨てるわけにもいかない。とりあえずそいつを洗え」

「はい、かしこまりました!」

 私はまだ顔を覆ったまま、なんとか会話を理解しようとしていた。だけどバージル様達の会話は私には少し難しい。

 箱のまま運ばれると、なんだか白い部屋に連れてこられた。指と指の隙間からチラッと見えるの。

「っ、」

「ぐっ」

 今度聞こえてきたのは女の人達の声。
なんだか息を止めてるみたい。自分ではわからないけど、私すっごく臭いのかもしれない。なんでだろう?体は拭いてたりしてたんだけどな。

「この服も捨てるべきね」

「ええ、髪の毛は‥絡まってて駄目だわ、切り落とすしかない」

「それにしてもこの子、どうして顔を隠してるのかしら」

「‥‥まぶしいの」

「わっ!!‥‥って、ごめんなさい。当然喋るわよね‥」

「‥今から貴女を綺麗に洗いますね」

「‥‥え?」

「?貴女の体の汚れを、洗い落とさせて頂きます」

「‥‥‥どうして?」

「え‥それは、汚れているから‥」

 私はびっくりして言葉を出せなかった。汚れていたら洗ってくれるの?あ、バージル様がさっき言ってたのはこれのこと?私を洗ってくれるなんて‥‥すごい。すっごく優しい人たち‥。

「あ、ありがとう、でもタオルを貰えれば自分で拭くよ」

「‥‥タ、タオルでは汚れは落ちきらないので」

「‥‥そうなの?じゃあバケツに水をくれるの?」

「「っ」」

 女の人たちは黙ってしまった。まるで何かを察したみたいに。

「‥‥とりあえずまず、髪を切らせていただきますね。このままでは洗えないので」

「髪?切る?切るってなに?」

「み、短くすることですよ」

「髪って短くできるの?すごい!!ずっと邪魔だったの」

 女の人たちはもう何も口にしなかった。髪を取られて、バチン、バチン、という音がした。ずっしりと重かった筈なのに、突然頭が軽くなった。

「お湯をかけますね」

「‥お湯?」

 言葉で理解するよりも、体で感じる方が早かった。温かい水‥、すごい、すごい。気持ちいい‥

 そのあと初めて見る泡で全身を洗われて、髪の毛も泡で綺麗さっぱり洗われた。地面に落ちていく泡は最初は茶色かったけど、次第に白色になっていった。

「あの‥‥そろそろ手を外して頂けますか?」

「あ‥」

 確かに目が慣れてきたのか、もう手を外しても大丈夫な気がする。目をぎゅっと抑えていたわけじゃなくて、目の周りを覆うように手を当てていたから‥。でも‥

「どうしましたか?」

「わ、わたし、呪いの子なの」

「え‥?」

「顔に呪いの印があるんだって。だから見せられない」

 暫くの沈黙の後、女の人たちは口を開いた。

「呪いとは全身を蝕む痣となって表れるのです。それに、呪いを見ても人に移るものではありません」

「‥‥え?そうなの?」

「ええ。ですので、怖がらなくて大丈夫ですよ」

 そうだったの?私、ずっと“呪いの子”だからって閉じ込められてきたのに。大丈夫だったならお外に出てよかったってこと‥?

 私はそっと手を外した。まだやっぱり眩しい気がして目を細めたけど、女の人たちの顔がしっかり見えた。

 わ、セシル以外の人の顔見るのはじめて‥

「「ぎゃああああああああ!!!!!!!!!」」

「?!」

 あれ、すごく慌ててる‥。やっぱりこれ、見せちゃダメなやつだったのかな?

「落ち着いてマリア!」
「貴女もよユリア!」

 マリアとユリアって言うんだ。

「どうしたの?やっぱりダメだった?」

「い、いえ、その‥そのお顔の印は、祝福の子の証なのです!」

「早く入浴を済ませてバージル様の元へ行きましょう!」

「へ?」

 そう言われてお湯が溜まっているところに体を入れられた。びっくりして声が出たけど、そのまま蕩けてしまうくらい気持ちよかった。
 すぐにザバーッと引き上げられて、白くてふわふわの気持ちいい布で体の水滴を拭かれて、あれよあれよと肌を隠すように綺麗な布を巻かれたけど。

「と、とても綺麗なお顔でしたのね‥」

「さすが祝福の子ですね‥」

 マリアとユリアは私を抱えるようにして、バージル様の元に連れて行った。目を開いた状態で周りを見てびっくり。

 全然薄暗くないし、いろんな色といろんなものがあるの。
そしてたくさん人もいて、みんな違う顔をしてた。今日はわくわくして眠れないかもしれない。

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