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番外編
純白
しおりを挟む金の髪は今日のこの良き日にもアンナに整えてもらいました。純白のドレスはマーメイドラインのもの。裾は大量のレースとシルクオーガンジーでふわふわになっています。
ボリュームのあるドレスもいいと思いましたが、ジュリアのウェディングドレスが非常にボリュームのあるプリンセスラインのドレスでした。その為、ボリューミーなドレスは少しお腹いっぱいというわけです。
先日のジュリアの結婚式‥ジュリアは前髪と後ろ髪を全て綺麗にまとめ上げ、上品なデザインのティアラは頭をぐるっと囲っていました。
ジュリアの小顔が際立ち、それはもう本当に本当に綺麗で息を飲んでしまうほど‥
「アレクサンドラ様?!ど、どうして泣いているのですか?!」
アンナの声に我に返りました。
「‥‥欠伸をしただけよ」
私の体にパウダーを塗っていたスーザンが、白けた目で私を見ております。
「‥‥‥アリー様。ジュリア様の花嫁姿を思い出して泣くのはもうそろそろ終わりにしてください」
「な!‥何を言っているのかわからないわ。そんなくっだらないことで泣くわけないじゃない!」
鏡に映る私はなんだかばつが悪そうな表情を浮かべていました。
‥認めるわけにはいかないもの。ジュリアの花嫁姿に心を打たれただなんて、絶対に周囲に知られたくないわ!!そんなの恥ずかしいもの!
スーザンは何も言わずに私の目にハンカチを当てました。なんだかんだ言いながらも、私の頬を流れた涙をそっと拭ってくれたようです。
「さぁ、アリー様。そろそろ行かなくてはなりません」
「‥‥わかってるわ」
「扉の向こうにレックス様がおりますので」
「‥‥もういるの?早すぎじゃないかしら」
レックス様というフレーズを聞いただけで心がそわそわしてしまう。
人生一度きりの花嫁姿、変じゃないかしら。‥レックス様はどんなお姿をしているのかしら。
そんなことを思うと一瞬で全身の血が沸騰してしまいそうになります。
ジュリアの結婚式の時、ジュリアの花嫁姿を見たマティアス様は感動して涙を流していました。そんなマティアス様を見て、改めてジュリアのお相手がマティアス様で良かったと心から思ったのです。
レックス様は私を見て、どんな反応をしてくれるのでしょうか。
「至って時間通りですよ」
「‥‥そ、そう」
扉が開かれるのをまじまじと見つめながら、なんとか心を鎮めようとしましたがもちろん静まるわけもありません。
どこかスローモーションのように、レックス様の姿がゆっくりと露わになりました。
ぱぁっと顔を上げることもできず、レックス様の白い靴の輝く爪先をジッと見つめました。
ど、どんな姿なのかしら。普段から無駄に端正だから‥きっと今日も素敵なんでしょうね。わ、私の姿を見てどんな顔をするのかしら‥?!
バクバクと鳴り響く心臓が痛くて、私はぎゅっと目を瞑りました。
「‥‥アリー‥」
レックス様の声が聞こえたので恐る恐る目を開けましたが、レックス様の足元を見ていた筈の私の視界には薄水色のドレスが映っていました。
ーーーえ、薄水色‥‥?
「アリィィィイイイイイイ!!!!!!」
「‥‥お、お、お姉様‥‥‥?!」
ジュリアが肩で息をしながら顔を真っ赤にして、滝のように涙を流しています。
なんというか、色々と混沌としています。あれ?いま私、レックス様との感動のご対面の瞬間だったのでは‥‥?
「アリー、アリーッ‥‥‥!綺麗だよぅ‥綺麗だよぅ‥!!」
ジュリアは今‥きっと人生で一番興奮していることでしょう。彼女の鼻からは鼻血がツーっと流れ出ています。側に控えていたライラがジュリアの鼻血を素早く拭き取ると、ジュリアは細長く息を吐いていました。
「‥‥‥お姉様、なぜここに‥」
レックス様はにっこりと微笑んだまま固まっています。
まるで一生に一度の感動の場面を打ち消されたような、そんな笑顔です。ええ、そのままの意味ですが。
「あのね、私ね、どうしても‥どうしてもいち早くアリーのウェディングドレス姿を見たかったの‥」
庇護欲をそそられるような泣き顔を見せられましても。
「‥‥‥どうしましょう。言葉が出ませんわ」
「私も!!アリーの花嫁姿がね、素敵すぎてね、全然言葉が出ないの!」
「出てますわ。お姉様。この場にいる誰よりも、間違いなく」
「あぁぁ、純白のアリー‥あぁぁぁ、」
おっと‥
呆気に取られてしまいましたが、私がいま対峙すべきはお姉様じゃありません。
「レ、レックス様。すみません、こんなことになってしまって」
レックス様はジュリアを視界に入れた後に小さく笑っていました。セットされた黒髪に、吸い込まれそうな瞳。何度見たって慣れないけど、今日はまた一段とキラキラしています。
「‥‥いや、許可したのは俺だから‥」
「‥‥え、許可?」
「うん。ジュリアさんに頼まれたんだよ。お願いだから一刻も早くアリーの花嫁姿を見せてくれと」
な、なんですって‥‥?
まぁ無許可だったらいまこの場にジュリアはいないのでしょうけど‥‥わざわざ事前に許可取りをしていたなんて‥
「‥‥何故、お許しになられたんですの?」
私がそう尋ねると、レックス様はくしゃっと可愛らしい笑顔を見せました。不覚にも胸がキュンと高鳴ります。
「許可しなかったらジュリアさんに一生恨まれるだろうからね」
そう言って笑うレックス様を見て、私はこの人と結婚できて良かったと心から思いました。
私たちの姉妹の理解者でいてくれるレックス様に、一生添い遂げたいと改めて思ったのです。
「‥アリー‥‥本当素敵だよぅ‥」
「ふふっ‥‥もう‥仕方ありませんわね。一生に一度しか見せませんから、その目にしっかりと焼き付けてくださいませ」
「うんっ!!」
ーーーこの日から数年経っても、顔を合わせるたびにジュリアはこの日のことを興奮しながら話すのです。目に焼き付けてと言ったことを後悔したのは言うまでもありません。
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