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目覚めの鍵*ジュリア視点
しおりを挟むデリック男爵は額に大量の汗をかいていた。デリック男爵は数多くの貴族から信頼されている有名な商人。いつも冷静で、いつもロボットのような定型文を話してた。それなのに‥
「ま、まさかそんなわけありません!!
クラリッサは私に付いて歩いてましたが、クラリッサは私とは別口で、自身のコネクションで個人輸入を行っていたんです。まだ若いのに、自分の商売に誇りを持っていたんです!!呪いの品など、そんな‥‥。分かっていて黙っているなんて‥‥うちの子に限ってそんなこと‥!!」
デリック男爵はこれでもかというほどに動揺してた。
目があちこちに泳いで、何度も瞬きをしてた。そんなデリック男爵を見て、クラリッサ嬢は眉を顰めてる。お父さんが必死に自分を庇ってる姿を目の当たりにして、苦しくなってるのかもしれない。
「‥‥では、ヘアブラシは呪いの品ではなかったと‥‥、アリーが意識を失ったのはこのヘアブラシのせいではなかったと言いたいのか?」
とっても低いこの声はお兄様のもの。お兄様がこうしてお話をするのはすっごく珍しい‥。
「そ、それは‥私は医師ではないので何とも言えませんが‥」
「そもそも何故アリーの侍女が“呪われたヘアブラシ”だと口にしていたと思う?“呪われ”の効果を、アリー達が把握していたからだろう。発動しなきゃそれが分からないというのに、呪われと言っていたということはその説明があったから。つまりお前の娘は分かってて売ったんだ。違うか?」
お兄様の顔は相変わらず無表情だけど、怒っているのは分かった。
クラリッサ嬢‥私にヘアブラシを紹介してくれた時“呪いの品”だなんて一言も言ってなかったのに。
口を開いたまま言葉を出せないデリック男爵に、お兄様は更にズイッと身を乗り出した。お兄様はすごくガタイがいい。熊をシュッとさせた感じ。だからたぶん、凄い迫力‥
「し、しかし」
「言い訳は要らない。お前も娘もそれ相応の責任を取ってもらう。侯爵家の娘を呪いで昏睡させたのだから当然だろう。今後一切商いで生きてはいかせないし、アリーが目覚めなければ死をもって償ってもらわねばならない。その覚悟をしとくんだな」
お父様が口に手を置いてウヌヌって言ってる。言いたいこと全部言われたっていう顔かな‥。
続いて口を開いたのはレックス様だった。
「‥‥それだけでは済ませませんよ。生憎俺は、もう時期王家に大きな貸しができる。消費者に関する制度を見直して貰って、遡って1年間の商品に関してクーリングオフ制度を設けてもらいます。とても高価な商品をうまく口車に乗せたんでしょうけど、後悔してる人は多いでしょうね。さて、返金しきれますかねぇ。一体返金額はいくらになることやら」
レックス様は背筋が凍るような笑顔を浮かべてた。
クラリッサ嬢はばっと顔を上げてレックス様を見た。睨んでると言っても過言じゃない怖い顔。
「なにか文句でもありますか?職も失い、下手すりゃ死ぬ。生きてても借金まみれ。ははっ、お先真っ暗ですね」
レックス様、怖いことを言いながら笑ってる‥!怖い‥!
「っ、」
「文句があるなら自分に言いなよ。ぜーんぶ自分のせいだから」
私は目をパチパチしてた。こんなレックス様、知らない‥。ア、アリー大丈夫かな‥?アリーとくっついてほしいと思ってたけど、大丈夫かな‥?そんなレックス様と目が合って、私は肩をピクッとさせた。
「‥それで、ジュリアさん。ヘアブラシに関して知ってることを話してもらっていいですか?」
「え?あ、はい‥。えっと‥‥東洋のとある国の言い伝えで‥愛する人に櫛を送るのは、苦しいことも幸せなことも共に分かち合って、死ぬまで一緒に歩もうねっていうのがあるそうで‥。このブラシを作った人が、この東洋の言い伝えを元に作ったそうです。
このブラシを使うと眠ってしまうけど、アリーが今までで感じた一番の“幸せ”をアリーに渡せば、目が覚めるんです。見つけられなければ目覚めないから、それは“苦”‥なので苦しみと幸せが合わさったプレゼントです。クラリッサ嬢からは、自分でも無意識だった幸せを見つけることができるって、そう教えられました」
私がこのブラシを買った時、後からクラリッサ嬢に詰め寄ったアリーは説明を聞いて「呪い」だと思ったのかもしれない。実際、一番幸せに思ったことが見つからなければ、アリーはずっと目を覚さない。
そんなのやだ‥。絶対見つけないと。
私の説明を聞いた途端、お父様もお母様もお兄様も、自分の手をアリーの体の上に置いた。でもアリーは目覚めなくて、みんなして泣きそうになってた。
「あ、ごめんなさい。その‥“人”じゃなくて、“物”だそうです。アリーが一番幸せを感じた”物”。そうですよね?クラリッサ嬢‥」
「‥‥ふんっ。その”物”が見つからなければ一生目覚めないわ」
ーーーーバチン!!!
クラリッサ嬢の顔が激しく叩かれました。‥お母様の手によって。
「貴女のこともこの場で一生眠らせてあげてもいいのだけれど」
お母様はにっこり微笑みました。怖い。怖いです。
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