今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

江田真芽

文字の大きさ
上 下
28 / 51

しあわせ*ジュリア視点

しおりを挟む

 お父様とお母様からお許しをもらって、自分で選んでお買い物ができるようになった時、すごくすごく嬉しかった。たぶん13歳くらいの時かな。

 ノーランド家は裕福なお家だけど、わがまますぎる令嬢にならないようにってことで、使っていいお金は月ごとに決められた。
 だからアリーも私も、決められたお金の中で何が欲しいのか一生懸命選んでた。金額は他のおうちのお小遣いよりも多いかもしれないけど、うちにくる商人達の品物はみんなすごく高い。だから月に何個も何個も買えるわけじゃなかった。

 初めてお買い物をした時、私はガラス製の大きな蛙の置物を買った。自分のお小遣いで、自分で選んだもの。それが部屋に飾られた時の高揚感はいまでも覚えてる。結局その蛙は、私がダンス中にぶつかって壊れちゃったんだけど‥。

 アリーははじめてのお買い物の時、何も買わなかった。使えるお金を貯めたかったんだって。だからアリーは次の月に2つ買ったの。「そういう使い方もできるんだ‥」ってすごくびっくりした。やっぱりアリーは天才。

 その時アリーが買ったのは、可愛らしい葉と共に白い花々や白い宝石が一面に施されたリース2つ。

「‥‥お姉様のお部屋、センスが悪すぎですわ!これでも飾って少しは運気を上げたらどうかしら?要らないならドブに捨てて貰って結構よ!!」

 そう言って渡されたリース。

「‥‥え?」

 思わず声が揺れた。だって思いもしなかったの。アリーからプレゼントを貰えるだなんて。

 アリーは顔を真っ赤にして部屋から出て行った。
だけどスーザンが去り際にコソッと教えてくれたの。

「‥このリース、幸せが永遠に続くようにって意味らしいんですよ」

 私は2人がいなくなったあと、だばーっと涙が溢れて、鼻水もびろんと伸びて大変だった。侍女たちが慌ててたけど、私は心が温かくなって声を上げて泣いた。

 アリーとお揃い。永遠の幸せのリース。アリーがくれたリース。見るたびににやけて、見るたびに幸せになる。

 お花は加工がされていて枯れないの。いまもお部屋に飾ってあるんだ。

 だから私はその時から、どうやったらこの気持ちがお返しできるかずっと考えてた。

 前に、アリーに幸せになる鼻毛抜きをプレゼントしたらその場で捨てられちゃったから、どんなプレゼントだったら喜んでくれるかすごく悩んでるの。

 クラリッサ嬢は「幸せな気持ちになれる枕」や「幸せになれる指圧棒」とか、「幸せに満ち溢れる発毛剤」を紹介してくれた。他にもたくさん幸せになれるものを、いっぱい。
 でもアリーがその場に駆け付けて、クラリッサ嬢に詳しく聞くと、アリーはガラクタだと言って毎回怒る。

 私はアリーに、あの時の幸せいっぱいになった気持ちをお返ししたい。
だけど私はアリーを幸せにできるものを探すのが下手くそなの。

 そうだ‥、あのヘアブラシもそう。あれはーーーーー



「ジュリア様!!お目覚めですか!!」

 視界がぼやけてよく見えないけど、侍女たちが泣いていた。
私も寝ながら泣いていたみたい。ぼろぼろと涙が頬を伝ってる。

「‥‥‥アリー」

 そう言って立ち上がると、みんな私を支えてくれた。
一緒にアリーの部屋へ向かう。

 アリーの部屋には沢山の人がいた。
レックス様やデリック男爵やクラリッサ嬢もいた。牧師さんや、全身黒装束の怪しげな人もいた。

「ジュリア嬢!!」

 元気な声が聞こえてびっくりした。マティアス殿下だ。どうしているんだろう‥。私は目覚めの“鍵”を思い出したから、少し冷静になれてた。

「‥マティアス殿下、どうしてここへ?」

「たくさん泣いたんだな、可哀想に‥。あの例のヘアブラシの原産国が隣国だったらしくてな。俺が留学していた国だったから何か知らないかって呼ばれたんだよ、レックスに」

「そ、そうだったんですね」

 レックス様はアリーを切ない顔で見てた。
よかった‥レックス様、アリーのこと好きになってくれたのかな。

「マティアス殿下が、わざわざお越しにならなくても‥クラリッサ嬢はぜんぶ知ってますよ」

 私がそう言うと、クラリッサ嬢は目を見開いた。
あれ?なんだろう、この空気‥

「クラリッサ嬢が何も知らないっていうから、マティアス殿下を呼んだんです」

 レックス様が静かに声を落とした。その声には、いつものような柔らかさは感じられなくて‥あぁ、怒ってるんだなぁってしみじみ思った。

「それは、どうしてでしょう‥?
クラリッサ嬢から私、説明を聞きました。‥幸せを、見つけられる素敵な商品なんですもんね。よかった、思い出して‥。クラリッサ嬢は、どうして知らないと言ったんですか?これ買ったの、つい最近なのに‥」

 何故かわからなくて首を傾げると、クラリッサ嬢の顔がみるみる青くなっていった。‥どうしたのかな?

「大方、取引を中断させようとするアリー様に良い感情を抱いてなかったのでしょう。だから知らないふりを貫いた。違いますか?」

 スーザンがクラリッサ嬢に詰め寄った。
ど、どうしたんだろう‥空気が怖いよ‥。

しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

処理中です...