今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

江田真芽

文字の大きさ
上 下
17 / 51

番外編 庭師のジョン

しおりを挟む

 僕は昔ノーランド侯爵家の庭師をしていました。
庭にはよくジュリアお嬢様とアレクサンドラお嬢様が遊びに来ていて、僕たち庭師にも声を掛けてくださってました。

 当時まだ5歳くらいでしょうか。遠くに居てもこちらまで釣られて笑ってしまうような、楽しく愛らしい笑い声が響いていたのです。

 僕はその時、いつのまにか生えてしまっていた雑草を引っこ抜いていました。雑草といっても、可愛らしい黄色の花が咲いています。

 ちょうどアレクサンドラお嬢様が駆け寄ってきました。

「貴方、何してるの?」

「雑草を抜いていたんですよ」

「わ!可愛いお花!!」

 その姿があまりにも無邪気で、僕は笑ってしまいました。

「な、なによ!!」

 照れたように口を尖らせるアレクサンドラお嬢様。僕は手の中に花を隠し、アレクサンドラお嬢様に当ててもらうことにしました。

「どっちでしょうか」

「っ!!えっと、えっと‥‥こっち!!」

 アレクサンドラお嬢様は右手を指しましたが、僕の左手から花が現れると顔を真っ赤にしてムキになっていました。

「も、もう一回!もう一回やるの!」

 何回か繰り返しましたが、アレクサンドラお嬢様は何度も外しました。握りしめる拳を少し膨らませるだけで、こっちに入ってるんだわ!と釣られるからです。

 それからというものの、僕は随分とアレクサンドラお嬢様に追いかけられました。

「なんでここにいるのよ?!暇なの?!」

「ここ、庭なので‥僕庭師なので‥」

「あんたのせいで汗かいたじゃない!!」

「そ、それは‥走ってきたからでは‥」

 随分とツンケンしていましたが、構ってほしい!という気持ちが溢れていてとても可愛らしかったです。

「相変わらず細いわね!ちゃんと食べてるわけ?!」

「アレクサンドラお嬢様は今日も元気いっぱいですね」

「あ、当たり前じゃないの!!というか、アリーと呼びなさいよ!!アレクサンドラお嬢様って長ったらしくて耳が痒くなるわ!」

「アリーお嬢様」

「ボッ!!(顔面発火音)」


 5歳児のキラキラとした笑顔、そして全力ではしゃぎ、成長していく姿は見ていてとても気持ちの良いものでした。
 僕はそれから間も無く実家の花屋に戻らなくてはならなくてノーランド家を離れましたが、最後のお別れの際にアリーお嬢様から頂いた花束はドライフラワーにして大切に保管しています。 
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

処理中です...