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人事交流ですわ!
しおりを挟む私はジュリアの部屋でお茶をしていました。別に普段しょっちゅうこうしてお茶をしているわけじゃありませんけど、たまにこうしてジュリアの情報を得るんですの。じゃないと知らないうちにぽわぽわが暴走しますので。そう、見張ってるわけです。ええ。
カップに口をつける私の正面でパチパチと瞬きし続けるのはライラ。
「可愛い子には旅させろってことでお姉様に暫く預けるわ」とライラを送って数日。長身でクールな侍女がスーザンならば、ライラはおさげに眼鏡の物静かな侍女。あ、黄金の眼鏡置き‥ライラにあげてもいいわね。
ライラは私の侍女になって日が浅いし、私は基本スーザンと一心同体だからライラが表立って目立つことはあまりない。だけどボソッと嫌味を言ってくるくらいには関係は築けていると思うわ。
ライラはあまり社交的ではないけど、常にアンテナが張り巡らされていて、時折眼鏡の奥がギラリと光る。低身長で可愛げがあるのだけど、フットワークが軽いから物凄く動きが俊敏なのよね。超高速移動が可能なモモンガって感じかしら。まぁ優秀と言っても全く過言じゃないわ。
ライラの瞬きをじっと見る。えーっと‥『あ、ん、な、や、ば、い』‥アンナヤバイ?どういうことかしら。
ふっと視線を後ろに逸らすと、スーザンが流れるように瞬きをしていた。凄いわ‥さすがスーザン。ライラの瞬きは大袈裟なのよね。ウインクが苦手な人の瞬きだわ。頬と唇まで動いてますもの‥。
スーザンが流れるように瞬きをした内容は『なにが、どのように』だった。
そう、私たちは瞬きでモールス信号を送り合っている。もっとも、ジュリアとお茶をしている私がパチパチしてたら不自然な為、ライラとスーザンのやり取りを私もちゃっかり読み取っている、といった形なのだけど。
「‥アリー、1週間後にまた‥」
ジュリアが何かを話しているけどそれどころではないわ。
え?なんだって?『も、の、ご、い』‥‥物乞い?!
「‥アリー?」
「あ、えーっと、1週間後ですわね?」
「ええ‥社交パーティー‥不安です」
しゅん、とジュリアが眉を下げた。あぁ、社交パーティー‥。発毛剤を売りつけるチャンスですわね。
次の社交パーティー‥グレン・ペリング伯爵は来るかしら?もし来るならお近付きになりたいわ‥。キリッとした眉だけど、甘いマスクで‥なんというか正義感が強そうですし、男気もありそうなんですの。
ーーーーそう!レックス様と正反対なのよ!!
「はっ。‥‥レックス様も来るわよね」
仮にもジュリアの婚約者ですし、公爵家の嫡男ですし。
波風立てずにうまくやり返さなくては。ふふふ。
「ア、アリー‥もしかして、レックス様のこと‥?」
目を丸めたジュリアを見て、私も目が丸まりました。
「はぁ?!」
思わず声を荒げてしまいました。普段ジュリアにこうして声を荒らげることは滅多にないのですが。
「あっ、えっと‥ち、違うのですか?」
「違いますわ!!」
扇子をバチンと閉めてはっきりと申してやりました。
誰があんな腹黒男!!!仕返ししてやりたいだけですわ!!!
憎しみとは不思議なもので時間が経つ毎に心に深く刻まれていくのです。この間まで「胡散臭い」だったレックス様の印象は今ではすっかり「腹黒い」になっております。ええ、当然ですよね。
「そ、そう‥」
ジュリアが引き気味に微笑みました。
心配しなくてもあんたの婚約者なんて1ミリも興味ありませんわ。それよりも自分の心配をしなさいよ。レックス様の本性知ってますの?!
結局ジュリアとのお茶はまぁいつも通り普通に終わりました。
部屋に戻っての第一声はもちろんこれです。
「アンナが何だって?」
途中からモールス信号を読み取れなかった為、スーザンに詳細を尋ねます。スーザンは少したじろいでから小さく声を落としました。
「‥‥物乞いのように振る舞われているそうです」
「‥え?」
アンナといえばジュリアが信頼している侍女。私が以前赤い顔料を塗ったくってやった彼女ですわ。
「‥何かとジュリア様に付け込み、自身の苦労話を延々と話すそうで‥ジュリア様が胸を痛めて様々なものを恵んでいるそうです」
「ほぉーん」
ジュリアは昔からぽわぽわしていて、自身がカモられていることに気付かないタイプですけど‥そこに付け込むなんて、侍女としてどうなのかしら。
私は勢いよく立ち上がり、再びジュリアの部屋に行きました。
「ア、アリー?」
出戻ってきた私を見て、ジュリアが首を傾げています。
「‥お姉様。人事交流ってご存知ですの?」
「じ、じんじ‥?」
「ええ!私の侍女は私のところだけにいては身につくことが限られますし、お姉様の侍女もそれは同じことですわ。つまり!私がお姉様にライラを送りましたように、お姉様の侍女も暫くの間私が預かりますわ!!きっと侍女としての能力をグーンと引き上げてお返しできるかと!!」
倍にして返すから金貸してくれってのと同じような台詞ですわね。ええ。
「す、すごいわ‥アリー!」
相変わらずちょろいジュリアは感動しております。だからカモられるのよ。
「では早速‥‥アンナ!」
ビシッと扇子の先を向けてやると、アンナが小さく「ひぃ」っと声を出しました。驚いたのかしら?それとも悲鳴かしら?
「アンナは更に素晴らしい侍女になるのね」
ジュリアが胸の前で指を組んでうっとりしています。
「ジュ、ジュリア様‥」
アンナが助けを求めるようにしてジュリアを見つめますがジュリアは柔らかく微笑んだまま‥
「私まで嬉しい気持ち‥!」
と心からアンナを祝福していました。
私は扇子の下でニタニタが収まりません。
どうやって鍛え直そうかしら‥ふふふふ。
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