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62話

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 命を狙われるような出来事ばかりだったから戦闘シーンを見る機会はあったけど‥それでもこんなにも激しい乱闘を目の前で見るのは初めてのこと。

 ノエルに腕を引かれて部屋の奥へと連れて行かれ、「危ないから動かないで!」と言われた私は、せめて邪魔にならないようにとその言いつけを守っていた。

 リセット魔法を使うべきか迷ったけど、朝からやり直したってレッドメイン家の騎士たちが大勢で離宮に来ることには変わりない。
 今までは相手が少人数だったから、リセットをして策を練れば対策ができていたけど、戦闘不可避の状況であればリセットしようがない。

 部屋のあちこちで血が飛び散っている。バートン卿もテッドもノエルも強いけど、倒しても倒しても現れる重装備の騎士に徐々に疲れを見せ始めていた。
 鎧の騎士たちが被るヘルメットには鼻や口元付近、そして顎から首にかけて僅かに肌が見えている隙間があった。鎧の騎士たちを蹴り倒したりしながら、その隙間を狙って剣を突き刺す。数でも圧倒的に負けているのに、そんな戦い方を強いられている時点でこちら側の不利でしかない。


 ーーレッドメイン家の騎士たちが来た理由、それはきっとお義母様の罪を軽くさせる為。いや‥もしかしたら、無罪を主張する可能性だってある。

 いかに私が悪い皇女だったのかを世間に改めて訴えたり、“離宮に籠って悪さをしていた私”がどのような人物なのかを裁判を通して判断して、情状酌量を求めるつもりなのかもしれない。

 皇后陛下であるお義母様はレッドメイン家の誇り。そんなお義母様が塔に幽閉されるだなんて受け止めたくないのでしょう。

 皇女暗殺を企てることは重罪だから、きっとその皇女がじゃなければレッドメイン家は大人しくお義母様の罪を認めていたかもしれない。

 でも、皇女が酒と男に溺れて著しく皇室の評価を落とし続けていた私ならば、レッドメイン家は勝ち筋を見出すことができる。

 というより実際に皇室の評価を著しく下げ続けていたのだし、母の立場である皇后が私を哀れんで暗殺を企てても何ら不思議じゃない。
 ーーレッドメイン家の人々は真っ当な理由を掲げて今ここにいるんだ。だからきっと、3人が死ぬまで攻撃をやめてくれない。

「‥‥同行しますから、攻撃をやめてください」

 立ち上がって静かにそう呟いた。
私をここで殺してしまえば、レッドメイン家は更に罪を重ねることになり皇后を救済することもできない。だから私のことは殺せない。

「皇女様!!いいから下がってて!!」

 ノエルが鎧の騎士の胴体を強く蹴り飛ばしながらそう言った。バートン卿もテッドもノエルも息が上がっているし、ところどころ怪我をしてる。廊下の奥から聞こえるガシャガシャという音が鳴り止まないから、きっと鎧の騎士たちはまだまだ沢山いる。3人にはもうこれ以上傷ついて欲しくない。

 私の元へと近づいて来た鎧の騎士が、突如後方に倒れた。どうやらバートン卿が後ろから鎧の騎士のヘルメットに付いている羽を引っ張ったようだ。

「バ、バートン卿‥このままでは皆命を失いかねません。リセットも意味を成さないでしょうから降伏します」

「‥‥リセットを掛けて、屯所の騎士たちを離宮に待機させましょう。それならば太刀打ちできる筈です」

「あぁ‥!屯所の‥」

 普段ぜんぜん関わりがないからすっかり忘れていたけど‥確かに離宮の近くには騎士団の屯所があるのよね。
 リセットを掛けて朝からやり直せば、この時間帯までに騎士団たちに来てもらうことは確かに十分可能だわ!

 きっと朝に戻ってから3人に説明する時間の余裕はあるでしょうけど、バートン卿とテッドとノエルもこの記憶を持ったまま朝を迎えてくれればいいのに‥!ーーパチン。



 リセットを掛けて朝になった途端、廊下から騒がしく「「「皇女様ぁぁあ!」」」という声が響いた。

「‥‥え?‥」

 どうして3人が大きな声を出しているの‥?リセット前の朝には、こんなことなかったのに‥‥。あ、もしかして‥。

 どうやら廊下にいたサリーに何かを言われたのか、しんっと静まった後に部屋にサリーが入ってきた。

「おはようございます、皇女様。‥護衛の方々、一体どうなされたのでしょう?何やら大慌てなご様子でしたが、皇女様のご支度が終わるのを待っているというので廊下で待機して頂いてます」

「わ、分かったわ」


 ーー心がざわついていく。期待からくる高揚感。

 恐らく、3人とも記憶を持ったまま朝を迎えたのね‥?私がリセットを掛ける直前にそう願ったから‥‥?

 魔法の上達方法なんてまだよくわかっていないけど‥、ひとつ仕組みが分かったわ。リセットをかける手法は変わらなくても、魔法の可能性を広げることができるのね。

 支度が終わるなり3人を部屋に招くと、3人は案の定リセット前の記憶を持っていた。

「じゃあ屯所の騎士たちに来てもらいましょう」

 私がそう言うと、バートン卿は悩ましい顔をして小さく頷いた。

「‥どうかしました?バートン卿」

「‥‥いえ、その。騎士たちには離宮周辺の巡察を常にさせているのです。あんなにも大量の鎧の騎士たちに気付かないわけがない‥」

「‥それは‥」

 騎士団の中に、内通者がいるということ?

「‥‥‥まぁ、私が直接騎士たちに呼び掛ければ済むことですね。行って参ります」

 バートン卿はそう言って部屋から出て行った。
騎士団も一枚岩というわけじゃないということかしら。‥まぁ悪名高き皇女の為の騎士団だなんて士気も下がるに決まっているものね‥。レッドメイン家側に付こうと思う人がいても何らおかしくないわ。

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