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50話

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 ロジェは私の後ろにいる3人に目を配ってから私を見た。

「彼らは事情を知っているんですよね?母がここに送ったメイドから情報は流れてきていたんです。姉上と常に行動を共にしている護衛が3人いると」

「そうよ。騎士団長のバートン卿と、テッドとノエル。私は3人を心から信頼しているわ」

「そうですか。いつも姉上を守ってくださりありがとうございます」

 ロジェがそう言って微笑むと、3人とも頭を下げて応えていた。

「‥お義母様が送ったメイドって‥ベルタのことかしら」

 色々手続きをしてくれていたのはサリーだったけど、サリーはいつも通り淡々と日々の業務を行ってくれているだけ。
 だけど一方のベルタは私のことを逐一観察しているようにも感じていた。

「そうです。彼女は母上が姉上の情報を掴む為に用意したメイド‥。まぁ僕は彼女の情報のおかげで現在の姉上の様子を知り、ここに来る決断ができたのですが‥」

「‥‥‥そう‥」

 王宮が、ましてやお義母様が私の行動を把握しておくのは当然のこと。
 だから何も不審なことではないし、お義母様だけではなく他の人たちだって何らかの方法で私を監視している可能性だってある。
 素行が悪すぎてこの離宮に送られたのだから当たり前だわ。‥だけど‥‥。

「‥‥何かありましたか?」

 私の様子を見て、ロジェの表情が曇った。

「‥‥‥いえ、なんでもないの」

 王宮の誰かに命を狙われているかもなんて話、ロジェには余計な心配を掛けてしまうだけかもしれないわ。
 そう思って会話を終わらせようとしたけど、ロジェはそれを許さなかった。

「話してください、姉上」

 まるで私が話すことの内容に検討がついているみたい。ロジェの瞳の奥には静かな炎が揺らめいているように見えた。

「‥‥‥あー‥‥えーっとね‥」

 もしここで話したことが失敗だったら、最悪リセットしてしまえばいい。
 ロジェはたぶんきっと、私を裏切ったり‥しない気がするし。話しても大丈夫だと思うのよね。

 私はキャットマスクでピアノの公演を行っていることや、そこで暗殺されかけたことをロジェに話した。もちろんリセット魔法のことまでは話していないけど、王宮からの手紙がきっかけでキャットマスクの活動を始めたことも伝えた。

 みるみるうちにロジェの表情が青く暗くなっていく。

「‥‥ちっ、あのババァ‥‥」

 ぼそっと聞こえた低い声。
あれ‥?なにかしら?幻聴‥‥?ロジェの口からはこんなにドスの効いた低い声なんて出るわけないわよね‥?

「ロ、ロジェ‥?」

「‥‥‥姉上。恐らくその首謀者は母上です」

「「「「‥え?」」」」

 私だけではなく、護衛3人組も思わず声を出していた。
お義母様が‥首謀者‥???

 あ、でも‥。お父様だって魔女が体から出ていかない私を処刑するつもりでいた筈だし、近くにバートン卿を置いて私をいつでも殺せるようにもしてた。

 だから、きっとお義母様もそういう理由ね‥。私が悟ったように頷くと、ロジェは「違いますよ」と言った。

 私の考えが読めるなんて、ロジェってばどうしてこんなに聡いのかしら‥。

「単なる女性としての嫉妬による暗殺ですよ。大義名分の為ではありません」

「え?‥‥嫉妬‥??」

 お義母様は官能的で情熱的な美女。南の国の華やかな踊り子のような人。そんな人が私に嫉妬‥?最近までの私なんて魔女に好き勝手されていたのだから嫉妬されるような人間でもなかったのに。

「美しくて聡明で人望がある姉上にずっと妬いていたのです。それこそ姉上が魔女に取り憑かれる前から‥」

「えっ‥。そんな‥私その当時たった10歳よ‥?」

 確かにマリアナ皇后は後妻ということもあって年は若い方だとは思うけど‥お義母様にとって私は仮にも娘なわけだし、嫉妬相手になんて‥‥

「父上からの愛を独り占めしたかったのでしょう。恐らく姉上の現在の様子を知って焦ったのだと思います‥。はぁ‥すみません、姉上。あの人は嫉妬に狂って醜い姿を晒しても、自身の立場を守る為に危険は犯さないタイプだったので‥‥まさか本当に暗殺を実行しようとするなんて思いもよりませんでした」

 ロジェは額に手を当てながら悔しげに唇を噛んだ。

「‥‥でも、まだお義母様が首謀者である証拠は‥‥」

「掴んでみせましょう。‥‥ちょっと失礼」

 ロジェは突然静かにソロッと歩き出して扉を盛大に開けた。

「ヒィッ?!」

 驚いた声を出したのはメイドのベルタだった。
もしかして盗み聞きをしようとしていたのかしら‥?でもここの扉は分厚いし、恐らく聞こえていないはず。
 ロジェが離宮に来たという緊急事態に居ても立っても居られなくなっていたのかしら。

「‥‥やぁ、君がベルタだよね?」

 ロジェの表情はこちらからは見えないけど、何故だろう‥ベルタが凄く青ざめているように見えるわ。

「は、は、はは、はいっ!!!」

「金で買えるものなら何でもいい。君にひとつプレゼントをしてあげよう」

「‥‥え?」

「城でも馬車でも箱いっぱいの宝石でもいい」

「‥‥ええ?!?!」

「その代わり僕が今日ここにきたことを、母上に内緒にしてくれるかな?」

「‥‥も、も、ももも、もし、断ったら?」

「君がここで死ぬだけだよ。正直そっちの方がお金も掛からないし楽なんだけどね」

「ヒィッ!!!わ、わ、わかりました、秘密にしますから‥!!」

「わかった。じゃあ取引成立ね。次来る時までに何が欲しいか考えておいてくれるかな」

 ベルタは涙を流しながらコクコクと高速で首を振っていた。‥なんだかロジェが凄まじいことを話していた気がするんだけど‥‥。

「それでは姉上、僕はちょっとクソババァをぶち殺しに母上を探りに行ってきます」

「‥‥う、うん?」

 何か別の言葉を話しているように感じたのは気のせい‥?
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