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44話

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 今回確かめたことで『猫の正体はレオン』であり、私が負わせた傷はリセットをしても『持ち越される』ことがわかった。

 いつもと変わらず爽やかに笑うレオンを見ていると苦しくなってしまうけど、彼は敵なのだ。

 レオンの正体が分かったけど、テッドとノエルにはまだ言わないでおこうと思う。
 仮にレオンが『正体がバレた』と気付いたときに2人に危害が及ぶかもしれない。

 魔女が猫を止めているうちは猫は私に危害を加えないだろうから、いまはバートン卿が帰ってくるのを大人しく待つべきだと思う。




 1週間後ーーー。

 今日は公爵から依頼されたピアノ演奏の日。
思いの外細々と出番を貰っていると思う。ルイーズ嬢のパーティーと同じ規模の催し事なんて滅多にないから、今回も演奏会場は地元の小さなお祭りなのだけど。

 レオンは記憶を持ったままリセットしている。だから私はこの間の情事に違和感を持たせないよう、時折レオンのことを熱っぽく見つめることにした。
 レオンはその度に少し頬を赤くして、困ったように眉を下げている。

 私がレオンの正体に気付いていると悟られない為には、レオンに気があるふりを続けていかなくてはならない。

 そのうえ、出来る限りリセットをしたくないけれど、ある日を境に突然全くリセットをしなくなることにも違和感を与えてしまうはず。

 だから私は2日に一回だけ、レオンの目を誤魔化す為にリセットを行っている。


 そんな中迎えた今日のピアノ演奏では、早速事件が起こった。
ドラージュ公爵が派遣してくださった沢山の騎士たちがパタパタと倒れだしたのだ。

 倒れている波はまだ私たちからは距離がある。騎士に四方を囲まれたピアノと私は、思わず演奏をやめてそちらを見やった。

 たちまち事態に気付いた市民たちからも悲鳴があがり始め、会場は一気にパニックになったのだ。

 なにかしら‥?毒‥?

「こちらへ!」

 テッドに腕を引かれながらピアノから離れた。ノエルとレオンもすぐ近くで私を守ってくれている。
 ノエルから渡された布で口元を覆いながらその場を離れようとすると、レオンがその場から突然駆け出していった。

「レオン!どこへ行く!」

 テッドがレオンに声を掛けるも、レオンは大勢が倒れている方へと自ら近づいていく。

 そしてーーーザシュッ、と血飛沫をあげながら見知らぬ男の背中を斬りつけたのだった。


「え?暗殺者?見つけるの早っ」

 ノエルの言葉にテッドは頷く。

「あいつは昔から、人より秀でたものを持ってる奴だった」

「へぇ~!すごいんだね!正直尻尾振ってるだけのワンちゃんだと思ってた」

 ノエルったら‥可愛い顔して平気で毒を吐くんだから‥。その“ワンちゃん”は実は“猫”で、貴方はレオンに負けたのよ‥。

 結局この日の暗殺者はレオンが斬り付けた1人のみが捕らえられた。背中を斬られたことでふらふらになっていたけど命には別状がなく、公爵邸に移送されていった。

 ちなみにバタバタ倒れていった人たちは皆無事だった。どうやら撒かれていたのは毒ではなく噴霧化された睡眠薬のようなものだったらしい。
 暗殺者の仲間は他にもいたのかもしれないけど、レオンが1人を斬りつけたのを見て分が悪いと思い撤退したのかもしれない。

 結果、死人はゼロ。リセット魔法を使わなくて済んだのだった。

 ただ私は今日の騒ぎを見て心が痛んだ。私の命を狙っている暗殺者たちは、私以外の人々にも平気で危害を加えようとする。
 ピアノ演奏を通して人々に音色や癒しを届けたり、ピアノの良さを知ってもらいたかった。

 リセット魔法もあるのだし、私だけが狙われるのならそれでいいと思っていた。

 だけど一般の人にも危害が及んでしまうなら‥大手を振ってできることではない。今回誰も死ななかったとしても、人々の心に植え付けられた恐怖心は消えるものではないし、倒れた人々はその拍子に怪我をして流血している人もいる。

 リセットをしたとしても、今回に至っては暗殺者の全貌がよくわかってない。レオンが斬り付けた男を事前に確保できても、他の暗殺者たちがどう動くか分からない。今回よりも被害が大きくなってしまう可能性もあるから、迂闊にやり直すこともできない。

 今後もピアノの演奏を続けていいものか考えものだけど‥幸いにも暗殺者を捕らえることに成功したし、これで首謀者にまでつながればいいな‥。

 ここから先の尋問は公爵にお願いするしかないわね。




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