上 下
41 / 123

40話

しおりを挟む

 敢えてリセット魔法を使いたのも、レオンの正体がなのかもしれないというのも、すべて私の憶測。

 憶測だけど‥‥全てがしっくりきてしまうの。

 何のためにリセット魔法を使わされていたのか分からないから、これからは出来る限り魔法を使いたくないけど‥身近にいるレオンにそれを察せられるのは良くないのかもしれない。

 仮にレオンを猫だと考えると、この間猫として登場した時は繰り返された1日とはちがう行動ができていた。つまり、レオンは私と同じ視点を持っているのかもしれない。私がリセットをかけて記憶を持ったまま朝を迎えている時に、レオンもまた同様に朝を迎えている可能性がある‥ということ。

 それならば私がリセット魔法を使うかどうかがレオンに筒抜けということになる。
 私にリセット魔法を使って欲しいのならば、なかなかリセット魔法を使わなくなった私にやきもきして、敢えて魔法を使わなくてはならない状況を作ってくるかもしれない。

 ‥‥レオンが猫かは断定できないけど、もしそうならば‥なんて恐ろしくて厄介な存在なんだろう。

 ーーーそもそも‥もしかしたらレオンはリセット魔法を授かったばかりの頃の私が、リセット魔法を積極的に使うように計算して行動していたのかもしれない。‥‥はぁ、もう‥私ったら、完全に手のひらの上で転がされていたのかもしれないわね。


 屋敷に戻ってから私はテッドとノエルを呼び出した。本当はバートン卿がいる時にすべてを打ち明けたかったけど、バートン卿は暫く帰って来れないから仕方がない。

 リセット魔法のことを打ち明けよう。そして、猫の存在も打ち明けないと。

 魔女が体から出ていく時にリセット魔法を授けられたこと、今まで命の危険があるたびにリセット魔法を使ってきたこと、はじめてのピアノの公演の際の“予知夢”も実はリセット魔法のおかげで知ることができたこと‥。順を追ってゆっくりと説明していった。

 2人は驚いていたけれど、ノエルは少ししてから「納得‥」と呟いた。

「‥俺、牢にいた時‥すっごくぐちゃぐちゃだったの。内面が。もう自分でも制御できないくらいに感情が絡まり合ってて、何をしてもずっと空腹、って感じだった。‥‥皇女様とお話できた時、不思議とすーっと心が軽くなって救われたんだよね。‥‥沢山ある言動の選択肢の中で、どうして俺の心が助かる選択をしてくれたのか不思議だった。俺、本当、平気で何人も殺せるんじゃないかってくらい心が荒んでたから‥」

 ノエルの宝石のような水色の瞳が揺れている。私を真っ直ぐ見つめていたその視線は、戸惑うように自身の足元に向けられた。

「ノエル‥」

「‥‥俺のせいでリセット魔法、使ったんだよね‥?だからきっと、俺の心を救えた。‥ちがう??」

 自分のことは自分が一番分かっているんだと思う。ここは誤魔化さないで向き合いたいと思った。

「‥‥うん。ノエルがどういう心境なのか、どうすればノエルに届くか‥、リセット魔法を使って考えたよ」

 私がそう言うと、ノエルは眉を下げてポツリと「そっか」と呟いた。

「皇女様、ごめんね‥。俺のせいで危険な目に合わせて‥。でも俺、もう心が救われてるから。もう暴れたりしないからね」

「大丈夫よ、ノエル。私、貴方にすごく救われてるもの。信頼してるわ」

 リセット後のノエルのことを、私は心から信頼してる。いつでも全力で守ろうとしてくれてるのが伝わってくる。

 ノエルは安堵したのかホッと息を吐いて口元を緩ませた。その表情はどこか柔らかくて、見ているこっちもホッとする。

「‥‥‥どうして今そのリセット魔法について、我々に話そうと思ったのですか?」

 テッドが首を傾げながら口を開いた。テッドはやっぱり頭の回転が早くて賢い人だと思う。

「‥‥‥実は」

 私は壊れたように泣いたあの日に、魔女と猫が現れたことを話した。みんなは恐らく猫に殺されてしまったこと、猫に首を絞められて必死に抵抗したこと、魔女が猫を止めたことで助かったこと。‥‥そのことがあったから、魔女が私を解放していないのだと悟って苦しくなったんだと伝えた。

「‥猫‥‥‥?え、俺たちみんなやられたの‥?嘘でしょ」

 ノエルは自身の剣の腕に自信を持ってる。でもそれと同時にバートン卿やテッドの力も認めていたらしく、全滅したかもしれないというこの話はよっぽど衝撃的だったみたい。

「‥分からないの。私は部屋にひとりでいて‥、ノエルが扉の向こうから逃げてって叫んだの。だから他の人が本当にやられてしまったのかはわからない‥」

「‥‥まぁ、少なくとも俺がやられたのは確定ってわけね」

「そうなるわね‥」

 ノエルは口を尖らせて不機嫌な顔をしている。悔しさや不甲斐なさを感じているんだろうけど、その記憶がないというところがもどかしくて仕方がないのでしょうね‥。

「ーーーー猫とは一体何者ですか?猫も魔女と同様、魔法使いなのですか?」

 テッドの切長の瞳は鋭かった。未知の敵の存在というのは、2人の神経を酷く尖らせるようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【R18】微笑みを消してから

大城いぬこ
恋愛
共同事業のため、格上の侯爵家に嫁ぐことになったエルマリア。しかし、夫となったレイモンド・フローレンは同じ邸で暮らす男爵令嬢を愛していた。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...