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第19話
しおりを挟む結局あの後蒼くんからは小さな寝息が聞こえてきて、朝までぐっすりと眠っていた。
体力があるからか、それとも薬が効いたのか、もうすっかり熱はないみたい。
「‥ベタベタだから風呂入ってくる」
「あ、うん‥!」
無事に回復してよかった‥。私のせいでこの世界に来てしまった手前、蒼くんを危険な目に合わせてはいけない。だから本当に、よかった‥。
澄んだ水色の空を見上げて、深呼吸を繰り返す。思っていたよりも、私は臆病だったらしい。
ーーそれにしても蒼くん、昨日の夜のこと全く覚えてないみたい。目覚めた蒼くんの熱を測っている時に昨日のことをそれとなく聞いてみたけど、「は?」と言われて終わった。
私には結婚寸前の彼氏がいるらしいし、その人と私を引き合わせたのは蒼くんだったらしい。
だから昨日の話はきっと気の迷いからの発言。それか、私の聞き間違い。
そうじゃないと‥元の世界に戻ったり記憶が戻ったりした時に、取り返しがつかないことになるかもしれない。
冷静に考えれば分かることなのに、水色の空を眺めたまま蒼くんの切ない声を繰り返し思い返していた。
『ずっと‥好きだったのに』
その声が、耳に焼き付いて離れてくれない。
それが“過去形”だったことは分かるけど、何故か私まで切なくなる。きゅうっと心臓を握られているみたい。
私は一体‥どんな嘘をついてしまったんだろう。
しばらくして蒼くんが戻ってきた。
さっぱりしている姿を見ると、一晩ですっかり良くなったのだと分かる。
「‥昨日俺のせいで寝れなかったでしょ。悪かったな」
どうして私が寝ていないことがわかったんだろう。‥あ。
「もしかして目の下にクマできてる?!」
「いや、できてないけど」
じゃあなんでわかったんだろう。テレパシー‥?
「すごいね。腐れ縁パワー?」
「‥‥お前案外臆病なとこあるじゃん。俺熱出てる間寝れねーんじゃないかと思って」
「‥‥」
あー。そうですか‥。そういうの、分かっちゃうんですか‥。へぇ‥。ま、お隣さんだしね。付き合いも長いしね。
あぁ。どうしよう。心臓が‥痛い。
「‥ほっぺ赤いけど‥。風邪移った?」
「‥‥あー、どうだろ。熱測ってこようかな、あっちで」
「?ここで測れば良くね?」
「‥気分転換を兼ねてくるよ」
「‥?」
ああ、どうしよう。元の世界に戻った時のことを考えないといけないのに、心が勝手に走り出してしまっている気がする。
むしろこんなに理解しあってて、仲だって普通に良くて‥どうして今まで恋に発展してこなかったんだろう‥‥?
普通だったらくっついてるんじゃないの?と思ってしまう。だめだ。こう思ってる時点できっともう蒼くんに惹かれ始めてる。
早くこの気持ちに蓋をしないと。
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