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第18話
しおりを挟むいま私たちがいる拠点は温泉施設があっていつでも源泉掛け流しでお風呂に困らないし、テントの周りにも各地で調達してきたグッズを多く置いていて正直かなり快適に過ごしている。
ノンくんが現実世界で頑張ってくれている筈だから、帰れるようになるまで待とう!と、ある種今後の方針のようなものが決まっていたのだけど‥1日経っても2日経っても、私たちが現実に戻ることはなかった。
いまこの世界は現実と同じ真夏。食べ物には困っていないけど、医者がいないこの世界ではきっとちょっとしたことが命取りになる。
「‥大丈夫だってば」
「うぅ、でも‥」
ーーー蒼くんが熱を出してしまった。
うどんとゼリーは食べれていたけど、焦点が合ってなくて辛そう。体温は38.8℃‥幸いにも近くの薬局に薬が置いてあったのでそれを飲んでもらう。
もし風邪じゃなかったらどうしよう。拗らせて肺炎になったり、悪化して起き上がれなくなったら‥?
ここには医者がいないのに‥!
「‥‥ふ‥」
蒼くんが小さく笑った。とろんとした目がゆっくりと閉じていく。
テントの中にはマットレスと布団も敷いてる。キャンプのようでキャンプではない、出鱈目な暮らし。快適を求めた蒼くんが「極楽‥」と言ってすぐ眠りに落ちてしまう布団。
ーーいまこの瞬間だけは眠ってほしくないと思ってしまった。いや、寝なきゃ治らないし、寝てもらいたいけど‥‥もし目を覚まさなかったらどうしようかと不安になってしまったのだ。
もちろん体を揺さぶって起こしたりなんてしない。ただただ、繰り返される蒼くんの呼吸をジィッと見守っているだけ。
団扇で蒼くんを仰ぎながら、蒼くんの体が熱に打ち勝つことを祈ることしかできない。
ぷつぷつと浮き出る蒼くんの額の汗を拭いたその時だった。
「‥‥‥俺、おまえが嫁にいくの、やっぱり‥‥」
小さすぎてぎりぎり届いた声だった。
寝言‥?なんの話だろう‥
「‥蒼くん?」
「‥‥‥やっぱ嫌なんだよ‥」
「‥え?」
「‥梨花、おまえ‥なんで‥」
起きてるのか寝ているのかわからない。寝言にしては随分と会話らしい会話ができていると思う。
起きているのかな‥?熱にうなされてボーッとしてるのかな。
「‥‥大丈夫?」
「‥‥‥なんで、あの時嘘ついたの」
ーーーーー嘘??
夢を見ているわけでも、幻覚を見ているわけでもなさそう。聞いているこっちが切なくなりそうな、苦しさを含んだ蒼くんの声。なんだかとっても、弱っているみたい‥。熱のせいかな‥。
記憶を失う前の私が蒼くんを悲しませる嘘をついてしまったんだと思う。だけど今の私にはそれがなんのことだかわからない。
「‥‥ごめんね、蒼くん‥」
「好きだったのに」
「え?」
「‥ずっと、好きだったのに」
ドクン、と心臓が跳ねた。
蒼くん‥一体どうしちゃったの‥‥?
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