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第一章 俺とお嬢様
13 ララの日常 ~ララside story~①
しおりを挟む日がだいぶ登り朝日が差し込み出す時間。
私はレイラ様の寝室のカーテンを勢い良く開ける。
「……ぅうん……」
「レイラ様、おはようございます。お着替えの時間ですよ」
「ぅうん……おはよぅ……」
レイラ様は身体を起こし右手で目を擦るが、その愛くるしい瞳の瞼は開いていない。
「ふふ。しょうがない御方ですね。まずは御髪を整えますよ」
私と眠たそうに目を擦るお嬢様は御髪を整える為に鏡の前へと移動した。
そして私はお嬢様のキラキラとした御髪に丁寧に櫛を通し始めた。鏡に目を向けるとお嬢様は気持ち良さそうにしていた。なんだか子犬のブラッシングをしているような気分だ。そんな事を思いながら再びふふっと笑みをこぼすと私はふと、お嬢様の胸元にお嬢様と同じ色の瞳の石がついたアクセサリーがついていることに気が付いた。
「お嬢様?その胸元についているアクセサリーは……」
「あ……へへへ。これね、実は星の夜祭のときにノアに貰ったの。昨日の夜に着けてみて……そのまま寝ちゃった」
お嬢様は嬉しそうに頬を少し紅くさせながらそう言って、そのまま当時の事を話し始めた。
『星の夜祭』の日はよくは知らないけれど、なんだか大変だったそうであまり屋台など回れず落ち込んでいたお嬢様を見かねて、ノアが祭の屋台で見つけてこっそり買って帰り際にプレゼントしてくれたそうだ。
「そうだったのですね。お嬢様の瞳の色と似ていてよくお似合いです」
「へへへ。確かにそうね。宝石のアクアマリンみたいだわ。まあ、宝石店のものでもないし本物ではなさそうだけどね。でも、私の宝物よ」
お嬢様はそう言ってアクセサリーの石を両手でぎゅっと握り締めた。御髪を整え終わるとお嬢様の着替えをお手伝いし始める。着替えが終わると部屋の外からノックをする音が鳴った。
「お嬢様、おはようございます。ノアでございます」
「っ!!ど、どうぞ!」
お嬢様は身体をビクッと弾ませて少し声を上ずらせながら答えた。部屋の扉が開くとまだ12歳という年齢ながらも、ピシッと執事服を着こなしたノアが立っていた。そして、お嬢様の顔を見るとにこっと微笑み口を開いた。
「おはようございます、お嬢様。朝食のご準備が整いましたよ」
「そうね、今向かうわ!いつもありがとう、ララ」
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
ノアの元へ小走りに向かうお嬢様に私は頭を下げながらそう答えた。顔を上げるとお互いに嬉しそうに笑い合うお嬢様とノアの姿があった。
「それ、着けて下さったんですね」
「あ、うん……どぉ?」
「とてもお似合いですよ、お嬢様。プレゼントしてから全然着けて下さらないので、失くしたかと思ってました」
「そ、そんなわけないでしょ!」
私は2人でじゃれ合う光景を微笑ましく見つめながらそのまま2人を見送った。
お嬢様が朝食を済ませる前に専属メイドの私はシーツと枕を取り替え、布団を干す準備と部屋の掃除を済ませる。
お嬢様はというと、朝食を済ませると直ぐに家庭教師から勉強を教わっている。また、皇太子殿下とご婚約をしてからは、その勉強に加えて未来の皇太子妃になるべく礼儀作法は勿論のこと特別な教育を受けている。
幼い頃から聡明でいらしたお嬢様はそつなくこなしているが、無理をしすぎていないか私は心配で堪らない。
「あ、ラーラ姐さーーーーん」
「あ、姐さん!おはようごぜぇます!あ、布団と洗濯物ですかい?俺らが持ちますぜ!」
私がお嬢様の洗濯物と布団を持っていると、ノアのげぼ……新しい使用人達に声を掛けられた。
「大丈夫よ、これくらい。それより貴方達、今日は公爵邸全ての窓拭きの掃除があるでしょ?自分達の仕事をまず済ませなさい」
「へへ!ついでですよ!ついで!」
「そうですよ!姐さん!アニキに任してください!」
「おい、おめぇも持つんだよ!」
「あ、へい!」
そう言って2人はヒョイっとそのまま持ち上げてしまった。
「はぁ、まったく……まあ、いいわ。それじゃあ外までお願いするわ」
「「へい!」」
男2人は笑顔で返事を返した。
この2人はスラム出身らしい。祭の時に色々とありお嬢様が屋敷の旦那様に相談をして新しく雑務などをこなす使用人として雇う事となったようだ。
正直はじめは、あまり2人の事を信用しきれなかった。しかし、数週間ほどだが2人の仕事振りと一緒に過ごしてみて、少しずつグロブナー公爵家の使用人として信用できるに値すると思えるようになってきた。
そんな身勝手で2人にとっては失礼な胸の内を休憩中に2人に話してみたら「そりゃあ、当たり前ですよ!」と笑い飛ばされた。私はなんだか申し訳なくなり、思わず謝罪をした。すると、
「それでも俺達は感謝してるんです。こんな俺達を拾ってくれたお嬢にも公爵の旦那様、奥様にも、ノアの旦那にも……そんで受け入れて下さった公爵邸の皆さん、あとララ姐さんにも!」
男はそう言って不揃いな歯をニカッと見せた。そんな顔を見て私は思わずふふっと笑って「なんだか、私はおまけみたいね」と返した。すると、男は何故か少し頬を紅く染めながら慌ててしどろもどろとしていたが、その姿がまた可笑しくなり私は声を上げて笑った。
この2人を見ていると、なんだか昔のノアの事を思い出す。ノアも2人と同じようにスラムの出身だった。ノアと出会ったのはいつだったかしら……?
私は元々没落した男爵家の一人娘だった。両親も不慮の事故か自殺だったのか……私を置いて亡くなってしまい身寄りもなく彷徨ってた私を、たまたまこのグロブナー公爵家の旦那が運良く拾って下さりメイドとして雇われることとなった。「娘となるべく年の近いメイドが欲しかったのだ」と旦那様は仰り私は4歳になるお嬢様専属のメイドを任された。
そうして私は9歳になる頃に、レイラお嬢様と出会った。
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