転生したら召喚獣になったらしい

獅月 クロ

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二章 宝物捜索 編

06

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~ クラウス 視点 ~


雨によって流行り病が深刻化した

戦争によって争いで亡くなる死亡数より遥かに人も魔物も死んでいき、
森や自然が失われる事で精霊を見なくなった

精霊は美しい場所にしか住まないからな

そして半強制的に終戦し、他国同士のゴタゴタが取り除けないまま流行り病を止めるべく、回復術士は解毒魔法を開発した

流行り病が治まったのはほんの二十年前

この二十年でやっと世界は動き始めたが、
雨によって住む場所を失った者達は海へと出たものの、
大型へと進化を遂げた魔物に食われるものが多く、魔物同士の争いも日常的に引き起こされている

安全な場所は強い者が守る結界の張られた国か船の上
空を目指した者も存在するが、羽を持つ大型の魔物によって撃ち落とされていた

どの世界も貧困が激しく、裕福に暮らしてる者は存在しない

「 洗濯しても乾燥しない、湿度の高い部屋の中でどう綺麗に服を干すんだ?誰もが風や火属性の魔法が使えるわけじゃない。この長い魔物との戦いで戦士や魔道士は亡くなったからな。その血筋を持つ人間も少ない 」

『 それは、そうだけど… 』

昨夜…初めて此奴の人の姿を見た時、其の服装が余りにもきらびやかで綺麗だから、良い育ちの貴族かと思った
いや、貴族だろうとこんな真っ白なマントを羽織ってる奴はいない

シルクの原料となる昆虫、それが食う植物は雨によって腐り絶滅し、それと同時にその昆虫もまた姿を消した

純白のシルクを得る事は此の八十年半では有り得なかったのだから、白い服は存在しない

魔物の皮を加工する技術もまだ追いついていないし、其れを得た所で魔物を退治出来る、冒険者や海賊の数が少ない

「 俺の様に力を持つ者は稀なんだ。御前が知る時代ではごろごろと存在し、素材集めも楽だったのだろうが…この時代はそうはいかない 」

落ち込む様に視線を落とした此奴には、少し荷が重い話だろう

本の中でしか知らないが、聖獣にとって人間は瞬きする間に死んで行く短命な生き物なのだから、こうして傍にいるのも暇つぶしと同等なのだろう

その日を必死に生きている人間の気持ちなんて、理解は出来ないはずだ

見る限り痛覚も無ければ、身体を粉砕しても元に戻る程の再生能力
人間は痛み、苦しみ、失った物は元には戻らない

雨によって失った多くの犠牲もまた、
呑気に強くなろうとしてる聖獣にとっては理解出来ないだろう

そう簡単に能力を使えるなんて…羨ましい限りだ

「 理解したなら行くぞ。服は今ある物で十分だ 」

金のある海軍や海賊から奪った服を大事に使ってる俺達にとって、新しい物を敢えて買う必要はない

服屋に要はないと口を閉じた此奴の横を通り過ぎて、出ようとすれば脚は止まる

「 あ? 」

引っ張られてるような感覚に振り返れば、コートの裾を持つ此奴は落としていた視線を持ち上げた

『 でも…晴れただろう?洗えば綺麗になるのだろ? 』

「 何言ってんだ 」

『 少し…魔力を貰うからな 』

「 は?っ……! 」

聖獣なら、もう少し主人に従順で必要な時だけ力を貸すもんじゃないのか?

何故こいつは、無駄に自らの魔力を消費してまで突っかかって来るんだ

「( 人間味があるのは…何故だ? )」

『 氷よ、雪解けの水の様に解け…風よ、此の地に春の様な暖かみのある風を吹かせ。我の名に従え。この身に宿る魔力を糧に……春の芽吹きスプラウト 』

俺のコートから手を離した此奴は、両手をそっと広げれば彼の足元には黄色、緑色の三十魔法陣が現れれば其れは広がり、この都を覆う程に大きな魔法陣へと変われば、身体に来る魔力消費による重みを感じた

「( この馬鹿、特大魔法使ったな!? )」

人様の魔力だからって食いまくる事に文句でも言いたいところだが…

今回ばかりは、許してやろう

「 氷が溶けていく!!? 」

「 きゃっ、急に…風が!! 」

服を綺麗にするだけのはずが、此奴はこの地に永く降り続いて積もっていた雪を溶かしたんだな
 
言葉通りに…春を連れてきた

俺が着ていた服は本来の色を取り戻し、綺麗な質の高い物へと変わり、服屋にあった服もまた美しい八十年半前に作られた当時と同等の物へと変わった

『 よし、これでいいだろ?初めての魔法だから上手く出来たかわからないが…って、おぉ、見違えるぐらいに綺麗になったじゃん! 』

「( 無自覚のままに高難度の魔法を一発目から使えるとは…。此奴…魔法の使い方を教えたらもっと強くなるだろうな… )」

嬉しそうに服に触れる此奴の笑顔を見れば、文句を言う事さえ如何でも良くなり、その獣の耳が生えた頭に手を置き撫でる

『 ん? 』

「 今回は俺の負けだ。女…この店にある男物の服を全て買い取らせてくれ 」

「 ふえっ…? 」

「 客が殺到する前に買っておきたい 」

「 は、はい!! 」

クルー達が喜ぶだろう、綺麗な服を着れるというのは今の殆どの連中は生まれてから無いからな

『 すげぇ、買ったなー!全部影に入れちゃえばいい。後で俺が出すし…おっ、外の雪も無くなってんじゃん。やっぱり道はレンガかー 』

「 こんなに晴れてると…気持ちいいな 」

船と上とは違う暖かみのある風が港町へと吹きゆけ、美しい朝日と共に光る町並みと太陽は雨の様に曇っていた心を何処か晴れさせてくれる

「 この光景を両親に見せたかった… 」

『 ん?なんか言った? 』

「 なんでもない。行くぞ、湿った本もまた綺麗になってるだろうからな 」

『 お、おう! 』

八十歳以下の者なら誰もが思うだろう

晴れた空を、愛しい者に見せたいと…

「 おぉ、神じゃ…神が舞い降りたに違いない…。空が晴れるなんて 」

「 すげぇ、すげぇ!!あったけぇ!! 」

街を歩けば空へと拝むお年寄りや雪の無い道を走る子供達
其々の服に困惑する若者は、
誰もが俺の横を歌を歌いながら、呑気に着いてくる青年がやったとは思わないだろう

『 犬は喜び~子供も駆ける~ 』

「( 欲しいものでも買ってやるか )」

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