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一章 聖獣への道のり編
05
しおりを挟む夕暮れまで魔法の練習をし、フリーレンが夜に眠った頃
誰も居ない庭へと行く月を見上げてから姿を人型へと変える
灰色かかった髪は夜風に揺れ、アンドリューから譲り受けた剣を腰へと差し
前まであったファー付きのロングコートは無くなり、変わりに白いカッターシャツと細身の黒いズボンを履き、肩から羽織るように、フリーレンから貰ったフード付きのマントを靡かせる
白手袋へと視線を落とせば右手の薬指にある、金色のリングにはチェーンが付き手の甲から手首へとクロスし巻かれていた
これは恐らくシロと契りを交わしたときに身体に埋まったと感じた鎖だろう
人型になれば目に見えて分かるのだと知りは口角は上がる
『 シロ、こっちで頑張ってるよ 』
手袋の上からついている金のリングへと口輪の上から口付けを落とし、頬を揺るませては目を閉じ身体の周りに冷気を漂わせ片腕を横へと動かす
『 氷鎧 』
魔法を呟けば身に鎧が纏い、青い騎士の様な姿へと変わる
もう少し洋風かと思ったのだが、狼の姿と同じく軽甲冑のようで、波が氷によって凍り付いた様な模様もあり手足を動かすのも動きやすい
目を開き、感じる冷気を一ヶ所で止めるようにしすれば剣を抜き手持ち部分から先へと触れ、魔法を唱える
『 冷たく氷る冷剣を全てを切り裂け……氷狼神 』
刃は凍り付き魔法と共に振り上げ、目の前の木々を斬るように振れば、辺り一体はスパンと切れ木は倒れていく
軽く振り剣へと視線を戻し、指先を当て見詰める
刃は無傷な事に、この技は使えると思う
『 悪くないな、範囲は広いし、標的が小さかったら使えないが…… 』
避けられそうにも見えるから、もう少し小回りが使えそうな技をかんがえないとな、と反省し
剣を構えて素振りをする
『 はぁぁあっ!! 』
人型になれる夜に戦ってもいいように、月が出てるときは比較的にこの姿で素振りをし
身体を鍛えておく
元大学生の俺が戦うことを当たり前と思い、こうして強くなろうと思ったことは無かっただろ
其でも昔はどうあれ、今は守るべき者があると考えれば自然と身体は動く
『 ふぅ……にしても、この口輪が暑苦しい 』
息を吐き剣を鞘へと納め、口輪に感じる汗の感覚に直ぐに乾くとは言えど気分の良いものではない
本当に外れないのか試して見たくなり、氷鎧を解除しては片手で口元の革部分を掴み反対の手で後頭部にあるベルトに爪を当てる
『 ふっー、ん!!っ、ふぅんむっ!んーー!!! 』
変な声を絞りだし、必死に外そうとしても外れない口輪
これを外そうと企みた方が全身の力を使った気がして息が荒くなる
『 はぁ、くそ、外れねぇ…… 』
どんな魔法かは知らないが、びくともしない口輪に人型でも着けてることに、そんな趣味はないと眉は寄るが仕方ない
『 まぁ、此があるから俺は防御に優れることが出来たんだろうけどな…… 』
感謝する程だと思っても、気になる口輪
片手で触れていればふっと感じる気配に視線を上げる
『 すまん、騒がしいか? 』
「 えぇ、とても騒がしいですね 」
『 ですよねー、すみません 』
妖精が僅かに放つ気配で感じるようにはなったが、其でも急に現れて此方へと歩いてくるバトラーにはもう少し慣れる必要が有ると思う
苦笑いを浮かべ、近くにある柵へと腰を掛け片手で口輪を弄っていれば彼は笑みを溢す
「 構いませんよ。強くなろうと頑張ってる貴方は応援してます 」
『 へぇ?意外に応援してくれてたんだ? 』
ダニだらけとか色々言われたり、余り会話しないバトラーから言われた意外な言葉に
視線を向ければ彼は赤い瞳を此方に向け、可愛げもなく腰に手を置きキッパリと告げる
「 当たり前です。フリーレン様を守る為の聖獣が弱いなんて笑えないので 」
『 弱っ……弱いのは認めるけどちょっと心に刺さった 』
グサッと感じた胸に刺さる槍に、肩を落とし視線を外す
「 主より使えない聖獣が居ることに驚きです 」
『 使えない…… 』
「 大体、魔力すら制限できず主の魔力を喰らうなんて、暴食にも程がある 」
『 暴食…… 』
胸やら背中に刺さる言葉の数々に、こいつはわざと其をいいに来たのかと睨むように顔を上げれば
密かに揺れる薄い金色の髪に、ルビーのような宝石色をした目は猫のように細くなった
「 だから、強くなって貰う為に。多少五月蝿くても我慢できます 」
『 我慢ね…… 』
シルキーと言う種類の妖精である、彼は家事が好きな妖精であり、争い事は好まないし戦える力があるわけでもない
だが、家を守る事にはどんな妖精より想いがあるだろう
その家に住む主である、フリーレンが大切だからこそ守って欲しいと思う気持ちは分かる
『 なら目を閉じて、俺が剣を振って暴れてるのを無視してな 』
「 其のつもりですが…… 」
『 ん? 』
他に何か文句が有るのだろうかと、僅かに反らした視線を戻せば
足元を見たときには目の前まで燕尾服を着たバトラーが其処にいて、彼は白手袋を着けた手で頭へと触れた
『 んっ…… 』
「 無理せず、時折休息はしてくださいね 」
まるで不出来な子供を褒めるように、彼は何度か手を動かし頭を撫でてきた
獣の姿で居るときすら、撫でて来ないのに気紛れな奴だなと、撫でられることになれてしまった俺は心地好さ気に目を閉じ受け入れる
『 グゥ…… 』
僅かに獣な様に喉を鳴らせば、バトラーの手は離れた
「 御風呂に湯を張ってます、そのダニと汗まみれの身体。たまには洗ってください 」
『 聖獣は汚くない!多分!! 』
撫でられて気持ちよかったのに、言われた言葉に繊細な心は傷付いたと怒っては、風呂場へと向かった
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