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一章 聖獣への道のり編
06
しおりを挟む二時間置きにお腹が空いたと文句を言って、食べればまたトイレに連れていってと言う子猫を
俺は半年間、傍を離れず世話をしてきた
大きくなっても良かった、銀狼の子供でないと知った時からどんな姿でも受け入れたのだが
目の前にいる子は、意識を操られただけの人形であり、普段の蜂蜜色の瞳からは涙が流れていた
「 グァッ!! 」
『 ガウッ!! 』
心の弱さで魔法が使えず、その牙に突き刺さる事も、爪で身が引き裂かれ倒れてもまた起き上がり、身体へと噛み付く
痛い!と叫ぶルークの声を聞く度に胸が張り裂けそうになる
怪我をしてる銀狼を見れば倒さなきゃいけないのだが、俺にはどうやっても止めを刺す程の力が出ない
「 ロルフより速い超高速再生?そんな、何と合成したキマイラなんだ!! 」
「 えー、教えるのー?素材は聞かない方が身の為だよ? 」
「 言え!! 」
俺達が戦ってる間に、ファルクは少年へと近付きその首を掴み手前へと引き寄せた
氷の鉄格子へとぶつかった少年は、頭から血を流し平然そうに笑った
「 だって、ボクは良く" 聖獣 " を理解してるから 」
「 なっ!?っ……! 」
『 ファルク!?ガハッ!! 』
にこりと笑った少年は自らの手を動かした
その瞬間に、彼の身体に突き刺さったのは少年の伸びた爪であり
五本の鋭い爪が身体を貫き、ファルクは抜き刺さったと共にその場へと倒れ、俺もまた首を咬まれ投げ飛ばされた
『 はぁ、ファルク…… 』
「 ゴホッ……っ…… 」
「 聖獣はその召喚師が死ぬと使い物にならないの。だからさぁ~下手に敵に近づくとダメだよ?学んだ?おにーさん 」
血の流れる身体を動かし、ファルクに近付く俺は、その流れる血を見れば息を詰め、顔へとすり寄り首を下げれば、毛を掴むファルクに合わせてその場から離れ、銀狼達の傍に置く
「 ファルク!!しっかりしろ! 」
『 リカルド、主を頼む。俺はまだ戦える、だから決着を付けてくる 』
「 嗚呼、そっちは任せた 」
ファルクの兄であるリカルドに彼を任せれば、俺は尾を揺らし無傷の様に怪我が治っているルークへと向ける
『 つまり、素材は召喚師とその聖獣か 』
「「 !! 」」
「 おや、当たり~。でもだからといって殺せないでしょ? 」
『 殺せるよ" 人 "が入ってるのなら…… 』
何故、片言でも言葉が話せるのか、幼い思考なのか、成長が速いのか、そんなの全て理由がついた
ルークが召喚師と合成させられた聖獣だから
召喚師の魔力が残ってるから成長が速いのだろ
人の言葉を理解できるのも" 人 "が含まれてるから
だから、俺は殺す事に躊躇わなくなった
「 !!ぱ、ぱ…… 」
「 ありゃまぁ、ボクの玩具が…… 」
『 ルーク、神の庭 に帰ってこい。そして御前の主はまた…出会える 』
その首へと噛み付き、再生する前に人である子供の命を止めた
彼の毛の中に隠れた僅かな人間の喉元は、まだ幼く柔らかいものがある
倒れたルークの瞳には色が戻り、現れた魔法陣は光り、その身体は人の姿と聖獣の姿へと別れた
「 ぱぱ……ありがとう……」
『 あぁ、ルーク……またな 』
耳を下げて嬉しそうに笑った小虎は静かに魔法陣の中へと消えれば、召喚師だった少年の身体は灰となり消えていく
「 残念、またやり直しじゃないか……でもいいよ、召喚師は使えるって分かったからさ 」
『 っ、待て!! 』
牢の中に入っていたあの謎の少年は、名前も告げることなく他の二頭を連れ、紫の魔法陣の中へと消えていった
殺せば良かったと後悔してる俺は、胸に感じる痛みに顔を向けた
「 ロルフ!!戻れ! 」
『 はっ、ファルク!! 』
他の仲間の声に、急いで影へと戻り
魔力の消費を求めてからファルクが手当てされるのを只見ていた
御前なら大丈夫と何処か信じては、治療を終えた彼の元から他の仲間は離れた
「 ロルフ……」
『 なんだ?俺は此処にいる 』
俯く彼等に、俺は姿を現し手を伸ばすのに合わせ人型へと変える
部屋に差し込む月明かりと共に、彼の手を掴み自らの頬へと当て被さるように見詰めれば
うっすらと開いた彼は笑みを浮かべ俺の頬をそっと撫でる
「 いい子……よく、頑張ったね…… 」
『 守るのが役目だろ。町も…… 』
御前は守れなかった……
ルークとの戦いに気を取られてた俺の落ち度だと鼻先が痛む感覚に
身体を動かし肩へと当てれば、ファルクの片腕は俺の頭に触れ髪へと指を挟む
「 ロルフ……俺と、出逢ってくれて、ありがとう…… 」
『 当たり前だ、また会える。何度でも会えるから……必要とするなら、俺を呼べ……! 』
御前の魂は俺を呼ぶんだ、必要とする日が来てくれる
その日迄待っているから、どうか一時的なさよならだと思いたい
「 ん、呼ぶよ…。ロルフ…最後に、願いを…聞いてくれるか… 」
『 なんだ……言ってくれ 』
「 苦しいんだ……御前の、牙で……終わらせて…… 」
彼の身体はもう助からない……回復出来るならしたいほどなのに、手当てをしても包帯から滲む血を見て眉を寄せる
『 っ…… 』
「 ……お願い、だ……ロルフ……俺を、殺せ…… 」
『 グァッ!! 』
最後の命令によって犬歯を突き立てた
今回の召喚で……大切なものを三人殺すなんて……
頭に触れていた手はベッドへと落ちる音に目を見開き
瞳からは滴が流れ落ち、身体は震え首を振った
口から垂れる血は……愛しい人のもの……
『 ごめん、ごめん……守れなくて、ごめん……次は必ず、守るから……ファルク……うぁぁぁあぁ!! 』
何故、俺はどんなに傷付いても生きてるのに
人はこんなにも脆いものなのか
ずっと傍にいて、彼の子供を見て、また静かに眠りにつくのを夢に見たのに
どうして……
やっと強くなれたと思ったのに、まだ未熟であり
一つの油断が大切なものの命を落としてしまう
『 いやぁっ、ぁっ!あぁあっ…… 』
契約が解除されたと分かる、魔法陣が現れ
首を振る俺は離れたくないと願ったが、もう俺の役目は無いんだ
それが召喚された聖獣の役目
主が死ねば、元の世界へと戻るだけ
『 っ……ファルク…… 』
手の平に感じる、草花の感触に
神の庭へと戻ってきてしまったのだと実感し、酷く取り乱し泣いていた
もっと傍に居たいと願うほどに、主の死を見るのがこんなにも辛いなんて……
「 ぱ、ぱ…… 」
『 っ!! 』
けれど俺は進まなきゃいけない、またファルクの魂が巡るまでの間
俺は新しい" 子 "を育てる役目がある
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