3 / 263
一章 聖獣への道のり編
1話 召喚獣になったらしい
しおりを挟む雪がちらつく寒い冬に
高校時代からの友達に誘われ夜の海へとやって来た
『 なんで敢えて海なんだ…… 』
「 冬の海って気持ちいいって言うだろ?それに御前は、フラれたばっかだし 」
『 それは言うなって……身体も冷えてんのに心まで冷えるわ 』
砂浜付近で友達が運転していた車を駐車し、厚着のファー付きの黒いコートの釦をしっかりと止め車から降りた
横風が吹き抜ける度に手足から冷えていく感覚がし、ポケットに両手を突っ込み身震いする
こんなことならもう少し着込めば良かったと後悔するほどに寒い
「 ははっ、気分転換って大事だと思うんだよなー 」
他人事のように笑い
後から続くよう降りては俺の横に立ち、
同じく身震いしては足元を見ながら石段から下へと降りていく友達
俺がつい最近に二年間付き合っていた彼女からフラれた事を話したら
それじゃ気分転換に行こうぜ、と気前よく誘ってくれたのはほんの三十分前のこと
いい奴だと思ったのだが、場所を選べよ……
確かに夜遅くまで開いてる店なんて飲み屋しかない、こんな海辺の田舎
気晴らしとして行く場所が無く、海になるのは不自然ではないが他に場所は無かったのか……
互いに住む家、なんて言っても普段は都会の寮生活
大学生の冬休み期間中に実家へと帰還してる為に
こんな夜に男二人でわちゃわちゃ騒いだら傍迷惑にも程がある
やっぱり海かと自身で諦めながら友達の後を追う
常夜灯がポツポツとある程度で、真っ暗と言ってもいいほどに人気もなく薄気味悪い
冬の海はこんなにも、身も心も冷たくさせるものなのかと改めて海へと視線を向け思う
『 気分転換だからこそ、実家に帰ってきたんだ 』
「 初心に戻るってか?御前って案外、繊細だよなー 」
『 五月蝿い……悪かったな 』
白い息を吐き独り言の様に呟いた言葉は拾われた
繊細だと言われ否定は出来ないが、其なりの時期を付き合ってた彼女に突然とフラれたんだ
直ぐに立ち直れる訳がない
お気楽に笑った友達の横顔を見ては常夜灯に沿って沖の方に歩いていく
今は満潮なのか、常夜灯に照らされた海へと続く階段の上付近まで有り、足元まで来てるようにも見える
「 それで、理由はなんだったんだよ?御前は顔は良いのに、夜が下手だったとか? 」
『 なわけないだろ……結婚するまで手は出さない 』
「 えっ、じゃ……童貞? 」
『 ……あぁ、そうだよ。って、それは関係無くてな! 』
心が弱ってるのか、つい流されて言ったが
童貞だと笑われても仕方無い
その辺りはキチンとケジメを付けてる為に将来結婚を決めた相手しかヤらない、と考えてたら二十三歳を過ぎても童貞のまま
周りは経験してる話を聞くし、この友達からも聞いた記憶がある
それを羨ましく思ったことは何一つない
いや、そんな童貞だからって言う話はどうでもいいと友達へと視線を向ければ
立ち止まり此方を見詰める友達は首を横へと捻る
その容姿を見てはふっと違和感に気付く
寒くて目が霞むのか、其とも暗くてよく見えないのか分からないが
こいつの顔がハッキリ見えない気がする
それに、こいつの名前は……なんだったか
「 じゃ、なんだ?ーーにフラれた理由は……」
元カノの名前を告げたのだろ、だが風の音で聞こえない
『 待ってくれ……何か、可笑しい…… 』
「 ーーー、どうした? 」
俺の名前すら聞こえない、呼ぶ声が遠くに聞こえてくる
フラれたことのショックで寝不足だったのが原因か、いや此方に来てしっかり寝てるのだからそんな事はない筈だ
急に酷く痛み始める、頭の頭痛
頭に響くように聞こえる高い耳鳴り
『 いっ…… 』
「 おいっ……急に…… 」
片手で押さえていた手を、両手へと変えて頭の米神辺りを押さえ付け
フラつく足取りをなんとか動かしこの場から離れようと歩くも
視界すらぐにゃりと揺らぎ上手く元の道に戻れない
真っ黒の絵の具に白い色を垂らし、混ぜたように白い灯りを灯す常夜灯は暗闇に飲み込まれていく
『 っ!! 』
一瞬、足元がズルッと滑る感覚を感じ
頭の血の気は引き真っ白になった
海へと落ちる、と思った思考と落下までの速度が遅く感じるほど
その僅かな時間で様々な事が頭に過る
スマホに防水カバー付けていれば良かった、とか
部屋の電気を切ってなかった、とか
明日の昼飯はそろそろ、おせちではなく別の料理だろうか、とか
考えてる間に身体は背中から暗い海へと水飛沫を上げ落ちていた
「 ーーー!! 」
俺の名前を呼ぶ声は、やっぱりちゃんと聞き取れなかった
冷たい海水によって身体は一瞬で動く機能を失った
常夜灯の灯りがまるで月のように照されてるのが遠くに見える
嫌な耳鳴りも頭痛も無くなり
聞こえてくるのは徐々にゆっくりとなる心音だけ
『( あぁ、俺は……ここで、死ぬらしい…… )』
全てを悟ったときには
意識は暗い闇の中へと落ちていた
11
お気に入りに追加
2,197
あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~
みなかみしょう
ファンタジー
錬金術師イルマは最上級の階級である特級錬金術師の試験に落第した。
それも、誰もが受かるはずの『属性判定の試験』に落ちるという形で。
失意の彼女は師匠からすすめられ、地方都市で工房経営をすることに。
目標としていた特級錬金術師への道を断たれ、失意のイルマ。
そんな彼女はふと気づく「もう開き直って好き放題しちゃっていいんじゃない?」
できることに制限があると言っても一級錬金術師の彼女はかなりの腕前。
悪くない生活ができるはず。
むしろ、肩身の狭い研究員生活よりいいかもしれない。
なにより、父も言っていた。
「筋肉と、健康と、錬金術があれば無敵だ」と。
志新たに、生活環境を整えるため、錬金術の仕事を始めるイルマ。
その最中で発覚する彼女の隠れた才能「全属性」。
希少な才能を有していたことを知り、俄然意気込んで仕事を始める。
採取に町からの依頼、魔獣退治。
そして出会う、魔法使いやちょっとアレな人々。
イルマは持ち前の錬金術と新たな力を組み合わせ、着実に評判と実力を高めていく。
これは、一人の少女が錬金術師として、居場所を見つけるまでの物語。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる