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十話 最終章
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しおりを挟む銃弾の音にアランは目を開きウィンドは必死に手を伸ばした
「 ....っ、 」
デリットの身体はそのまま月明かりの照らす暗い海へと落ちていく
大きな水飛沫と共に沈めば高波はぐらりと船は揺らぐ
アランは剣を持ち拳銃を持った海軍へと向かえば切り捨てる
「 ガハッ! 」
「 ルイ!!! 」
直ぐに手摺へと戻り下を見たときには彼の姿はなく涙を浮かべ
不意に横に過ぎた透き通った青色の鱗とヒレに気付けば其は海へと飛び込んだ
尾ビレは見えたそれにアランは肩を竦め眉を寄せ呟く
「 君はいつも、俺の出来ないことをする...ルイを命顧みず助けることも....傍にいることも、そんな君がただただ羨ましかったよ.... 」
振り返り残りの海軍へと目を向けたアランは剣を向ける
「 俺はアラン=フォーサイス。王を継ぐもの!!二人には手を出させないよ 」
ポツポツと降り始めた雨は涙と流すように甲板を打ち付ければアランは残りの敵へと剣を向ける
大きな水飛沫と共に冷たく凍るような青く暗い海の底に引き込まれるような感覚に、僅かに口から空気は漏れる
もがく気力も無く只沈む感覚に身を委ね、そっと遠くに見える月の光を掴むように幼く小さな手を伸ばす
" 誰か、助けて... "
沈む身体と反して息苦しさに意識は薄れていく
こんな事ならばもう少し泳ぎを教えて貰えばよかったのだろうか
そんな事さえ考える余裕すら無く泡と共に涙は流れ上がる
" ッ....! "
意識が薄れる寸前で見えた気がした
青く深い海に揺れ動く魚よりも遥かに美しい青みがかった尾びれを...
其処で意識は途切れた__
何時しかの記憶は甦ると共に切ない海の底へと身が沈む
もがくことも億劫でこのまま何処までも堕ちて行けばいいかと今更ながらに思い出した走馬灯
アランのこともウィンドの事もクルーやオウガのことも
自分がどこで誰の元で生まれ育ちそして生きてきたのか
空白だった記憶のパズルは全て埋まっていきデリットは密かに涙を流せばキラリと海に光る鮮やかな姿は徐々に姿を見せればデリットは伸ばした手に鱗で覆われたその指から手は重なり握り締める
『 ...... 』
「( また、助けられたな...... )」
重なる唇と光る魚類の口先は合わされた彼の肺へと空気は贈られた
大切に彼の身体を腕からヒラヒラと靡くヒレを揺らし抱き薄く透き通り尖った背鰭は首筋から腰まであり、長いヒレは海中の光を全て集め輝やく
直ぐに上を向いたそれは勢いをつけ水面へと上がれば其々のクルーは顔を上げた
「「 っ!! 」」
黒光りと海賊船は海軍船へと接触していれば海軍船への甲板へと落ちた魚類に驚いたまま啜り泣く声に動く身を止める
『 っ、デリット....しっかり、して....目を覚まして.... 』
魚類から聞こえる声は自分達の知るもので其々に言葉を失い目を見開けば有るものは顔を背け有るものは口元に手を置け
月に光る鱗は流れることのない涙に反した様に輝き続ければ
デリットは密かに目を開ける
「 ...きーす、泣くな..... 」
『 デリット!! 』
「 ....なぁ、みてみろ.... 」
彼は月へと手を伸ばせばウィンドはゆっくりと見上げ満月へと見れば顔を下げ笑ったように僅かに明るい口調になる
『 キャプテン...月が、綺麗ですね... 』
「「 っ........ 」」
雨雲で覆われた分厚い雲によって見えることの無い満月にウィンドの言葉にクルーは涙を流せばデリットは目を閉じ優しげな笑みを溢す
「 御前の方が、遥かに....美しい...... 」
『 こんな、醜い姿を月よりも褒めてくれるのですね... 』
「 ...いつも、御前は美しいと思っていた...
やっと、気付いた...あいして.....いるよ...う、いん.....ど..... 」
『 っ...私も......愛して、います....ずっと、ずっと愛しています...... 』
降り続く雨は泣けない魚の変わりに泣いてるように降り続く
愛しているとやっと気付いたんだ___
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