姉の身代わりになった引きこもりは身勝手な社長の妻になる

獅月 クロ

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番外編

番外編 サブストーリー ②

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~ 隆一 視点 ~

一蓮が生まれてから十三年目

長男の一蓮(いちれん)は中学一年生
次男の真二(しんじ)は小学五年生
長女の三葉(みつは)は小学二年生

其々に大きくなったと実感するほど、俺達も歳を重ねた
いや、俺が四十代後半ってだけで、ルイはまだまだ若々しいな
可憐で、無邪気で年齢を感じないほど子供達の良き母となり、三葉にとっては友達にもなるだろう

だが、深刻な問題がある

「 ……パパ、結婚してから母の日のプレゼントなんて贈ったことないんだ…… 」

「 へ? 」

「 は? 」

「 ん? 」

只今、ママであるルイは姉であるルカの元へと遊びに行っている
普段、子供達の事を頼んでいるから、
母の日だけは休憩して欲しくて実家に送ったのだが…

それだけなんだ

俺が出来るとしたら、休憩して貰うだけしかプレゼントが考えられなくて

母の日、当日の日曜日
其々好きなことをして暇を潰してる息子達へと深刻な悩みを打ち上げた

「 僕は去年、カーネーションをあげたよ。切り花が嫌いだから鉢にしたけど……今年は花を咲かせてるから鉢は続けて渡せないし 」

中学一年生のくせに、とは言えないが
既に高校の勉強をしている一蓮は持っていた参考書から視線を外し、ベランダの方へと視線をやった

其処には何度か子供達がプレゼントした、プランターが置いてあり
ルイは、朝に水やりをするのが日課で気に入っている

子供達が大きくなったら引っ越そう
そう思ってたのだが、交通の便が良くて
結局、結婚当時からこのマンションを移動して無かった

彼等の学校も近く、高校や大学には近くを通る駅から行けばいい 
敢えて遠い場所に引っ越す気も無くずっと此処に居るために、当時より増えた荷物

二人の男子は同じ部屋、娘には一人部屋
そして俺とルイは同じ寝室を使っている

その為に、プレゼントの物も年々増えていったのだ

「 カーネーションは考えたさ……だが、ママは花束が嫌い…… 」

ダンッと力尽きるようにテーブルへと額を当てた
一蓮の言うように、ルイは切り花が嫌いだ
萎れてしまったり、命を切って飾るような物はとくに……

「 じゃ、肉で良くね?母さん肉が好きだし。高級松阪牛のAランクとかちゃちゃーと買ってさ 」

「 真二、お母さんは“高級“って言葉が嫌いなんだよ。安くて良い、それに肉料理は今日作るつもりだし 」

「 ママのプレゼントー?ママとパパの絵をかくのー! 」

「「 うん、三葉のそれでいい 」」

可愛い、三葉……
もう胸が締め付けられるほど悶えたけど、
そうルイは肉料理ってだけで喜んでくれるから
わざわざAランクの松阪牛なんて買わなくとも……
というか、そんな物を買ったら“勿体ない“の一言で不機嫌にしてしまう
  
「 はぁ、バッグも…靴も拒否するんだよな 」

「 プレゼントは値段じゃないってことだよ。いつもみたいにお疲れ様で良いんじゃない? 」

「 そうはいかないさ、婚約して約十三年は経つのに…… 」

十三年という区切りは中途半端に思えるかも知れないが、今年になり中学一年生へとなった一蓮もいることで、一つの節目みたいなもの
そんな時の母の日に、プレゼントが無いって言うのが贈り物が大好きな俺からすれば致命的なミスだ

「 じゃさ、じゃさ!兄貴はなんか贈るのかよ 」

「 僕はハンカチにカーネーションの刺繍を施したのをプレゼントする予定だよ。手縫いとミシンは得意でね 」

「 うわっ、すげ…… 」

「 狡い!パパにもちょうだい! 」

「 そっち?えっ、欲しいほう?キモいからやらないけど…… 」

一蓮の手作りプレゼント!
クオリティーも高く、ルイも喜ぶものだが
俺はアイロン掛けとボタン付けは出来ても刺繍までは出来ない

なに、この子……そんな女子力が、と思ってサラッと拒否された事に心臓に槍は突き刺さる
本当、ルイには甘いのに俺には冷たいよな……うちの子は……

「 一蓮はハンカチか、真二は? 」

「 あ、俺?俺はー…… 」

「 なになに~、準備してるんでしょ? 」

にんまりと笑った一蓮の表情を見た真二は、照れくさいように視線を泳がし
このリビングにあるソファーの上で寛ぐ、まだまだ若いが此でも老猫のクロへと視線をやった

「 母さん…クロの事、大好きだし……。黒猫のぬいぐるみ作った……んだよ…… 」

「 ブッ!おまっ、糸が足りないとか言ってたけどそう言うこと!?ははっ、ぬいぐるみなんて 」

「 笑うなよ!ぬいぐるみでもマスコットなんだよ!こう、黒猫でもクロだよ! 」

顔を真っ赤にさせて、片手サイズとばかりに強調して告げる真二に一蓮はテーブルを叩いて腹を抱えるほど爆笑した

一蓮にとって、ツンデレで学校じゃガキ大将なんて言われてる真二が細々とした物を作るのが面白くて堪らないのだろう
だが、俺からすれば案外、真二の方が集中力があり几帳面に見えるんだよな

一蓮はどちらかと言えばその場のノリで誤魔化す事がある
きっとハンカチの刺繍でも、小学生の頃にやった知識を生かしたものだろうな

「 だって、マスコットって……それこそ買えばいいのに、縫い目とか悲惨そう 」

「 おー、言ったな?なめんなっ、家庭科の評価三なんだよ! 」

「 チョー微妙じゃん、あははっ、おかしっ! 」

ケラケラと笑う一蓮に、俺は二人の相変わらずな様子を見て笑みが溢れる
歳が近い為に、真二にとって兄である一蓮は良きライバルだ

その為にちょっと生意気な口調だったり、態度をするが一番母親の事が好きだしな

「 マスコットもいいじゃないか、確かにルイはクロが好きだからな…… 」

「 クロー 」

「 ンニャァー…… 」

お絵描きを止めてソファーの上に居るクロを抱っこして、脚がぶら下がるまま好き勝手に触る三葉をクロは鳴くが、本気で嫌がりはしない
散々、二人の男の子に遊ばれたから慣れたのだろうな

「 じゃ、お父さんもクロに関するプレゼントをしたらいいじゃん? 」

「 いや、俺はクロの世話をしてないから……今更な 」 

触りはするけど、トイレの世話とかはルイがずっとしてるからな……

「 世話って言うか餌しかやらねぇよな 」

「 そしてお母さんに怒られる……高級キャットフードとか買ってくるから…… 」

「 だってたまには良いもの食わせてやりたいじゃん!? 」

「「 たまにならな…… 」」

餌が無かったりするとついつい買ってみるか
あのイエネコ専用とか書いてあると気になるんだ
ルイはずっと昔から使ってる餌を食べさせたいみたいだが……

「 知ってるかよ、猫って急に餌を変えると下痢とかになんの。父さんがクロを死なせる日も近いな 」

「 ホントそれ、知識ないなら餌を買うなっての 」

「 ちょっと……君達、毒舌過ぎて……心に刺さる…… 」

「 パパ、むねが、痛いの?だいじょーぶ?にゃんにゃんする? 」

「 三葉~……にゃんにゃんして~ 」

ぐすんと鼻を啜り、心配で来てくれた三葉を抱き締めればよしよしと頭を撫でられる
なんて優しい子なんだと改めて思う

クロの餌については相当ルイから怒られるから、最近は買ってないんだが
オヤツとか与えるからクロがちょっと肥満体型にな
その結果、またルイに怒られるという事を繰り返してるからこの二人に睨まれている

母さん怒らされるな、クソオヤジとでも思われてるだろうな…… 

「 はぁ、高いの買えば良いって考えのあるお父さんには……プレゼントしないのが一番良いと思うけどね 」

「 だよな。俺もそう思うぜ?だって母さんさ、父さんと一緒にいる時間だけで嬉しそうだ 」

「 えっ、そうなのか……? 」

ルイが俺と居ることが嬉しい?
それは、つまり……まだ愛想を尽かされて無いってことか?

「 うん、見れば分かるよ。お父さん休みの日って…お母さんを実家に連れていこうとするけど、それ、果たして本気で喜んでる気はしないし 」

「 今日だってさー。母さん" デートするかと思ってた "なんて言ってたんだぜ?父さんのプレゼントって……休みの日に母さんと一緒にいることなんじゃね? 」

「 三葉の事はもう、僕達に任せていいからさ……デートしたら? 」

いつの間にか息子達は成長していた
少し前までパパ、ママと呼んで引っ付いて来て
毎日のように泣いたり、喧嘩してた二人が、
今は一緒になって一番下の子の面倒見てくれるという

「 そうか……なんか、御前達……大人になったな…… 」

「 そりゃ中一だし? 」

「 高学年だからな! 」

子供の成長とは早いな……
だから俺が二十年、ルイを待つ事が出来たのだろう
いつか立派な大人へと成長すると知っていたからだ

「 今からでも間に合うだろうか 」

「「 もちろん 」」

「 そうか……三葉。今日、夕方までお兄ちゃん達と遊んでてくれるか? 」

日曜日は子供達と一緒にいる
そして、ルイを自由にさせよう
そう思っていた考えはいつのにか少しだけ緩めて良いのかもしれない

三葉と向き合って、問い掛ければ大きく頷いた

「 うん!ママとでーと、してあげて! 」

「 嗚呼、ありがとう……。一蓮、真二……三葉を頼む 」

「 はーい、行ってらっしゃい 」

「 晩飯には帰ってこいよ!いってらー 」

「 行ってきます!本当、御前等ありがとうな!好きなもの考えていてくれ! 」

上着を持ち財布とスマホをポケットに突っ込み、車のキーを取りに行けば早々に玄関へと走った

朝から連れていった為に、まだ十時になったばかり
これから夕方までデートしても時間は幾らでもある

久々のデートに誘えることに嬉しくなりながら、家を飛び出す

「 新しい医学書買って貰う、二万ぐらいする高いやつ 」

「 新しいTVゲーム買ってもらおう 」

「 みつは、かわいいふくがいい!! 」

彼奴等きっと、俺の扱いが上手い

そんな事を知らず、車を走らせて実家へと向かった

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