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十二話 そっち系ではない
しおりを挟む額の傷を自ら手当てしようとしてる彼
テーブルに鏡を置き、前髪を片手で上げては持ってきた救急箱を開いてるのだが、どうやら前髪が落ちるよう
いや、ヘアピンでも使えよ!って思うけど言えなくて仕方無く横に行き、椅子の向きを変える
『 ほら…やってあげるから前髪上げてて 』
「 いいのか?ん……頼む 」
背後では料理を続行してる蓮さんがいるんだけど、あの事を聞きたくても聞けない
気にしないよう思考を傷へと向け、大理石にぶつけて切った額に、薬を付け大きめの絆創膏を貼る程度、直ぐに滲むけど見た目より酷くはない
『 はい、出来た 』
「 ん…ありがとう 」
上げていた前髪に触れ、整える様子を見ていれば笑みが溢れる
案外、髪型とか気にしてるんだから…
『 そう言えば、マナー教えてくれるんだよね?どんなこと? 』
「 カトラリーと受け答え位か……まぁ、そこまで気にする必要はない。普段の御前見てると大丈夫そうだ… 」
『 子会社でも、社員だったからね…。その時の営業スマイルなら出来るよ 』
ふっと笑って見せれば、口角を上げた彼は救急箱を閉じては片付けて、此方へと向き直し頬へと触れる
「 普段のままでも可愛いよ 」
『 ……あ、うん…ありがとう 』
普段なら、冷めてる目を向けてる私が可愛いいのか分からないけど頭を打ったことでちょっと馬鹿になったのかなって思う
頬を撫でていた手が外れれば、チラッと蓮さんを見てから隆一のシャツを掴み引き寄せる
「 ん? 」
『 あのさ……蓮さんって……そっち系の人? 』
「 なにがだ? 」
『 だから……その、やがつく仕事してたとか…。さっき、チラッと見えて…… 』
「 あぁ~…… 」
やっぱり気になったら聞きたくなる!
怖いけど、黙ってられる方がもっと怖いと思い問えば、彼は意味を理解したらしく蓮さんの方へと視線を向け片手を出し手招きした
「 蓮、ちょっと来い 」
『( んぇ!? )』
「 ん?なんですか? 」
手元を止めて、此方に来た彼に驚く私は強く服を掴んでいた
そんな、聞いて急に殴られたらどうする!?
さっきの見てたら、蓮さんならあり得る気がすると恐怖心を抱いていれば、隆一はサラッと言う
「 ルイが刺青気になるって、見せてやれよ 」
「 あぁ、さっきので?いいですよ 」
『( 良くないよ!! )えっ、刺青あるの!? 』
「 ありますよ……隆一とは違った刺青ですがね 」
そこは拒否しようよ!というか、刺青もってる人なんて早々居ないから!と内心焦ってる私に蓮さんは背中を向けるなり、スーツを脱ぎ始めた
その脱ぎかたが、焦らしがあっていやらしいなんてガン見していれば、隆一の手は後ろから両目を覆った
『 ちょっ! 』
「 脱ぐまでお楽しみだ 」
脱いでるときの方が楽しみなんだけど…
なんとなく残念になっていれば、カッターシャツの外れる音が無くなり、蓮さんの声は聞こえてくる
「 どうぞ、見えたのは蓮のタトゥーでしょ 」
その言葉と共に、隆一が手を離せばゆっくりと目を見開きその背中を見た
背中と言うより、右の腰から背中側にかけて彫られた青紫色の蓮の花
花の下には水の波紋があり、二羽の蝶が飛んでいる
怖いと言うより綺麗な刺青に、見惚れれば波紋が少し変なことに気付き指を伸ばし触れる
『 ここ……火傷? 』
「 えぇ、火傷を隠すために刺青によって多少消しました 」
「 その火傷、俺がさせてな…見る度に辛くなるのをこいつが気にして…高校生の頃か?彫ったよな 」
頷いた蓮さんを見てから手を離し、二人を交互に見れば彼等は話をしてくれた
「 隆一…ではなく中一の時に家庭科の合同授業で。油を使ってたんですが、クラスの男子が騒いで鍋をひっくり返して……近くにいた三年生の隆一を庇って 」
「 それでも俺を庇ったときに傷が出来たのにはかわりねぇよ…… 」
「 もういいじゃないですか。俺は気にしてませんし 」
と言うことは火傷の" や "はつくけれど私が思ってた仕事とは違うことに安心した
服を着替え直す、細身だけど引き締まった身体を見た後にテーブルに両手を付きながら少し笑ってしまった
『 じゃ、昔っから蓮さんは隆ちゃん守ってたんだー。頼りないもんね 』
「 いや、ちげぇんだよ。こいつが無駄に俺より強いんだ 」
『 えっ、そうなの?隆ちゃんの方がアスリート体型なのに…… 』
スラッとしてるからそんな様子は見えないと思っても、さっきの早業を見たら確かにと納得は出来る
そうなの?とばかりに蓮さんを見上げれば彼は爽やかにニコッと笑った
「 小学、中学と空手で都大会優勝して。高校では主将してました 」
『 ……んー……強いの? 』
「 滅茶苦茶な…… 」
いまいち分からないが、取り敢えず強いんだと納得すれば隆一は無茶ぶりをいい始めた
「 型をやってやれよ、今も出来るだろ? 」
「 出来ますけど……みたいものですか? 」
『 見たい!!本物の空手! 』
「 分かりました……簡単にしますね 」
その無茶ぶりに私ものった
アニメとかでは見るけれど、直接見れるものではないから楽しみだと頷けば、彼は着直したスーツの上着を椅子にかけ、通路側の広い方へと行き
何気無く左右の広さを確認しては、大丈夫そうだと呟き拳を構えた
「 蓮は、今でも空手続けてるからな。しっかり見てたらいい 」
楽し気に告げた隆一の言葉に軽く頷き、深く呼吸をした彼は気持ちを整え最初の型をする
脚を動かし、前へと拳を突き出し身体の軸がブレる事無く、左右へと同じよう動きをし、元の位置へと戻り次の型へと
カッターシャツのパンッ!と高く鳴る音や、風を切る様な動きは、それだけでかっこよくて見惚れていた
「 こんな……もんですかね? 」
五つの型を見せてくれた彼に自然と拍手していた
『 凄い!格好いい!蓮さん、めっちゃ格好いい! 』
「 満足したなら良かったです 」
「 相変わらず迫力あるな……さっき倒された時も動きが見えなかった 」
『 うん!一瞬で地面に倒れてたね! 』
脚が長いし、顔も格好いいから何時間でも見てられると思うぐらい
褒めてた私に隆一は少しふてくしたように、視線を外した
『 隆ちゃんは何かしてた? 』
「 空手は飽きてやらなかったが…バスケなら高校生までしていた…… 」
『 ごめん、なんか……可愛いって思ってしまった 』
「 なんでだ!? 」
いや、ほら……本格的に黒帯を持ってる人の空手を見た後にバスケなんて言われたら、男子だなーって思って可愛いって思うわけで
苦笑い浮かべた私に、蓮さんは頷きキッチンへと戻った
「 遊び事のバスケでしたもんね。部活もサボり気味で…… 」
「 あれは予備校の方が忙しかったんだ。そう言うルイはなにしてたんだ? 」
『 えっ、私? 』
聞かれるとは思ってなかったけど、この皆が言った後じゃ言うのは必然的にそうなるか
なんて言ったらいいのか悩んで、頬を掻き笑って誤魔化す事にした
『 小学生の頃は身体弱くて病気で殆ど休んでたし、中学はイジメで三年間で半年しか行ってなくて…高校の時は帰宅部だったし。辞めちゃてるから……学校、殆ど行ってないんだ 』
保健室登校だったと答えれば、二人の表情は何処か曇った
やっぱり、ちゃんと学校行ってる人がいいよね……パーティーの時に自慢出来る学歴も持ってない
自分で言って、ちょっと寂しくなって其を気にしないよう早口言葉になってくる
『 隆ちゃん達みたいに何か優れてたら良かったんだけど、人様に自慢できる資格とか持ってないし…高校資格と日数が足りなくて結局自主退学して、中卒だからって仕事辞めさせられて……全部、中途半端に止めてて……あれ、なんで…こんなこと言ってるんだろ…… 』
同情して欲しいわけじゃ無いのに、ペラペラと話してしまった事に気付いた時には鼻先が痛くなり涙が出そうだった
我慢して、目元に手を当てればちゃんと聞いててくれた隆一は優しく告げた
「 ルイは頑張ってたんだな。その後にバイトや仕事してたじゃないか。偉いぜ 」
『 っ……! 』
「 中途半端に終えては無いだろ?向こうが辞めさせたんだ。御前はちゃんと前に進んでた 」
引きこもりになって家から出なかったのをきっと知ってる
それでも頭に触れてから、椅子から立ち上がり私の身体を向ければ抱き締めてきた
「 よく頑張ってきたのを知ってる。だから…今はもう甘えてくれ 」
『 んん……隆ちゃん…… 』
「 泣くなよ?なんか、俺まで泣ける 」
「 そうですね……玉葱が目に染みました…… 」
何故か知らないけど、貰い泣きしてる二人にこっちが驚いた
よく頑張った、その言葉でどれだけ助けられたか
やっぱり…優し過ぎると思い背中に腕を回し強く抱き着いていた
何度も頭を撫でてくれる隆一に、今だけ甘えた
「 揚げてないコロッケと、トマトのスープ。柚子豆腐。バナナヨーグルトを作りました。どうですかね? 」
『 蓮さんも……料理得意なんて…… 』
「 五十嵐家の男は、家事は得意だぞ? 」
「 えぇ、それなりには 」
女の子止めてしまいたいと、思った私はしくしくと悲しくなりながら匂いが気にならず、さっぱりと食べれる料理を口へと運ぶ
『 うぅ、おいひいです…… 』
「 安心しました 」
「 コロッケうまっ…。おかわりあるか? 」
「 ありますよ、持ってきますね 」
なんか、蓮さんがお母さんに見えてきた
もうそれだけ優しさに溢れてる、味付けに心もほっとする
久々に自分の手料理ではない料理を食べる隆一も、おかわりしてるぐらいには美味しかった
「 では、おやすみなさい 」
『 おやすみ、またね 』
夕食を食べ終わり、ある程度話してから蓮さんは帰っていった
今日は料理作って食べるだけなんだと残念に思って玄関からリビングへと戻れば即隆一は後ろから抱き締めてきた
『 んー、なに? 』
「 蓮さんに惚れたか?格好いいのは分かるが。かなり妬いた 」
素直に妬いたと告げる彼に、軽く笑えば後ろへと腕を伸ばし横髪へと触れ上を向けば彼は額へと口付けを落とす
『 なわけ……好きなのは隆ちゃんだよ 』
「 ほんとか? 」
『 うん、ほんと……大好き 』
優しくてかっこよくて、年上なのに子供っぽいところとか、全部好きになっていた
私で良ければパーティーに行くし、此れからも傍にいると気持ち的に表現していれば、彼は身体を離した
『 ん?隆ちゃん? 』
何故、離れるんだろ?とちょっと寂しくなり向き合うように身体を向ければ彼は数歩後ろに下がり、口元へと手を置き視線を反らす
「 ……すまない。嬉しすぎて理性、飛びそうになった……気持ち、落ち着かせるから待ってくれ…… 」
『 んー? 』
「 はぁ、すげー……嬉しい……。ルイが俺を大好きって……蓮に電話しよ…… 」
『 待って 』
おい、蓮さん今出ていったばかりでしょ!
報告大好きな兄弟だなってツッコンでしまったよ!
寧ろ、そんな惚気を聞かされてる蓮さんの気持ちを考えてみて!凄く嫌だと思う!!
「 録音するから、もう一回言ってくれ 」
『 言うかよ 』
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