姉の身代わりになった引きこもりは身勝手な社長の妻になる

獅月 クロ

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九話 体調不良が続き

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~ 隆一 視点 ~


上層部からの批判の声や、TVで俺が一般女性と婚姻届を出したニュースは流れていた
唯一、このビルの下にマスコミが集まっても中まで入って来られないのが救いだ

何も知らなくて、只俺を愛そうとしてくれたルイに女達の事は聞かせたく無かった

今の問題は、愛しい者が妊娠して本当に辛そうにする現状を見て俺は深く考えず" 子供を産め "と言った事に後悔している

多少辛いと言うことは知ってたのだが、此処までとは……

「 もう四日は飯をまともに食ってない。水や炭酸水は飲ませてるが… 」

家に居られる時間は朝と夜だけ、昼間はずっと寝てたりしてるのは分かるのだが、日に日に顔色も良くないし食うことすら拒絶し始めた

仕事が終わり、別のオフィスで仕事してる蓮を連れ共にマンションへと帰る

「 今日食わなかったら、五日目になる 」

「 俺が行って、何か変わりますかね…… 」

「 それでも、俺には分からない原因が分かるかもしれないだろ 」

二人で見れば見えなかったルイの気持ちが分かるかもしれない
そう思い、蓮を連れ部屋に行き玄関を開けて中に入る

「 まぁ……そうですね…… 」

「 ただいま、ルイ 」

帰って倒れていたらどうすればいいんだ
その不安を抱えて少しだけ会うのが怖くて、ルイが寝ている寝室へと行く
枕元に有る容器には胃液が入ってるのを見れば、胃が空なんだろ
吐くものすら無いのに、胃液を吐くのは喉や咥内を悪くする

「 ルイ……ただいま 」

『 ……隆ちゃん…おかえり… 』

弱々しく顔を向けたルイの髪に触れ、優しく頬を撫でればほんの五日で此処まで顔色が悪くなり、窶れるなんてな……

「 ん…大丈夫か?今日はトマトのそうめんでも作ろうと思うが……頑張ってみないか? 」

『 ……やだ…隆ちゃんの作る…料理、吐きたくない…… 』

「 別にいい。少しでも何か口に入れないか 」

出来れば消化して栄養にして欲しい
そう思うのに、嫌そうに顔を埋めた彼女を見れば眉を下げ、少し離れ寝室の入り口で眺めていた蓮の元へと行く

その場で話すことなく、キッチンへと行き買ってきた材料とレシピの載ったスマホを置きエプロンを着ける

「 ……精神的でも堪えてますね 」

「 かなりな…… 」

匂いが少なくて、さっぱりした物を選び先に鍋に火をかけ、沸騰するのを待ちその間にトマトを洗い切っていく

「 一つ考えれるのは共感者が居ないのも、原因かと… 」

「 共感者? 」

「 余り他人に会わせるのは嫌だと思いますが……一度、母親に会わせたらどうですか?母親は経験してますし…… 」

「 あぁ、そうか……考えてなかった 」

男やマスコミと接触させない事ばかり考えて、ルイの母親の事なんて忘れていた
シェパードさんの一件があり、五十嵐グループを毛嫌いしてる為に、名字は同じだが関係の無い者として会っていた
もし、知ればどんな顔をするだろうか……
俺がまだ小さい頃に亡くなったと言えど、その原因となった社長の顔は見たこと有る

ルイにも父親と接触してた事を最近まで黙っていたのにな

「 気晴らしをさせてあげるのもいいかなと…… 」

食べやすいようそうめんを真ん中で折り、鍋に入れ軽く長箸で動かしては押していたタイマーを見て、つゆの準備をする
他にもつわりにいいと書いてあったレシピのおにぎりを作る

「 そうだな、聞いてみる 」

そうめんを茹で終わり、冷水で冷やしてから薄味にしためんつゆと共に先に盛り付ければ、ルイを呼びに行く

「 ルイ……飯を食おう 」

『 ん…… 』

ゆっくりと布団から出て来て、容器を持って来たルイから容器を受け取り、キッチンで洗えば座っている蓮へと視線を向けた

『 蓮さんだ……なんか、座ってるの新鮮 』

「 今日は一緒晩御飯食べさせて貰いますね 」

『 うん……是非…… 』

元気さは無いにしろ、人前だからなのかちょっとだけ笑顔を向けようとしてるルイに胸は痛くなる
椅子に座ったのを見て三人分の料理をテーブルに並べていく

『 ……トマト、好き 』

「 そうだろ?無理せず食べてな 」

蓮と並び、座れば両手を合わせた彼女と共に合掌する

『 いただきます… 』

「「 いただきます 」」

彩りも大葉やらネギを乗せてみたが、どうだろうかと食べる前に見ていれば、ルイは先にトマトを口に入れゆっくりと咀嚼して飲み込んだ

『 ……冷たくてさっぱりしてる 』

「 少し冷やした、ゆっくり食べな 」

「 ん……これは夏バテの時に食べたいですね 」

早々に食べてる蓮を他所に、俺も一口食べて薄味だが、このぐらいの酸味が良いのかと理解し飲み込む
噛みやすいそうめんに、久々にルイは自然な笑みを溢す

『 おいしい……これなら、食べれる 』

「 そうか、ならいい……続けても大丈夫か? 」

『 大丈夫!明日も、食べたい 』

やっと笑ってくれたことに一息付き、自分の分を食べ進めていれば、おにぎりを手にしたルイはその匂いに眉を寄せ、口に含むことなくテーブルに置き直す

『 こっちは……ムリかも…… 』

「 嗚呼、いい。俺が食う 」

『 ん、ありがとう 』 

皿を受け取り手前に寄せ、箸でつまんで食えば分かる
ご飯の独特な匂いがダメなんだ…… 
めんつゆ系や酸味が良いのかと思っていれば、蓮は言葉を挟む

「 ルイさん……母親に会いたくないですか? 」

『 えっ……お母さんに?会えるの? 』

「 嗚呼、連れていくさ 」

『 やった、会いたい! 』

嬉しそうな様子にやっぱり、会いたかったんだなって思い
蓮と顔を会わせてから、まだ時間も遅すぎない為に此れから行くことにした

そうめんは完食したルイにほっとして、皿をセットし終わり服を着替え寒くないように着せ、車へと行く

俺の隣に座っては外を眺める、ルイはいつもよりウキウキだ
 
『 ふふん……楽しみ 』

もし帰りたくなったらどうすればいい
数日限定で家に帰らせるか?
それもルイが望めば、考えてもいいと一人思っていれば母親に与えた新しい家へと行く
荷物は殆ど移動させたらしいが、思い出として箱の中から出してないだろ
どんな内装になったか検討がつかないが、まぁいい

「 着きました、新しい星乃家です 」

『 ……引っ越されてた 』

ポカーンとするのは無理無い
小さめの一軒家としても、ルイから見たら驚くだろ
先に連絡して行くことを伝えていた為に、車の音に気付いた母親は玄関を開けた

「 ルイ、おかえり 」

『 ただいま、お母さん!! 』

早々に駆け寄って抱き締めるルイに、相当会いたかったんだな…
俺の見てる範囲で連れてくれば良かったと思いながら母親に招かれるまま家に上がる

そこまで与えたときと変わってないが、写真はあちこちに飾られていた
どれも綺麗に撮られた写真は姉妹のみ

『 お母さん、あのね、聞いて! 』

「 ん、なに? 」

母親には伝えてあったんだが、ルイにはそれを教えてなかった
まるでドッキリとばかりに照れたように笑えば、腹下へと触れて答える

『 隆一さんとの、赤ちゃんできたの! 』

「 まぁ!!ルイ、おめでとう!! 」 

『 へへっ、ありがとう~ 』

流石母親だとごく普通に喜んだ様子に、俺も笑みが溢れれば軽く頭を下げた

「 母子共に大切にします…… 」

「 此方こそ、宜しくお願いします 」

「 マジで、ルイ。おめでた?私と一緒じゃん! 」

『 えっ、ルカちゃんも? 』

二階からやって来たルカと一瞬目が合うも、完全に無視をされ二人はハイタッチをした

「 いえーい!いとこ宜しく! 」

『 うん!何月? 』

「 十一月~! 」

『 私、十二月だよ! 』

『「 いえーい!! 」』

姉妹、いとこになるってことに嬉しいのだろ何度もハイタッチをしていれば、ルカも座ったところで妊娠中の話になった
男二人はそれを聞くことしか出来ない

『 つわり?酷いんだけど……ルカちゃんはどう? 』

「 私ぜーんぜん、ガンガン食べてるよ 」

『 えぇ……食べれる?匂いで…アウトなんだけど 』

「 酷いタイプなんだろうねぇ…。私は食べまくって吐き気を抑えてるかな…お腹すくと気分悪くなるし。お母さんの時ってどうだった? 」

やっぱりつわりでも人其々症状は違うのか
ルイみたいに酷いタイプもいるんだなって思えば、ルカの問に母親はちょっと驚く素振りを見せたあとに眉を下げた

「 折角、皆集まってるし言うね…… 」

「『 うん? 』」

それは俺が、ルイと許嫁だったと言うことより驚くことだろ
此処にいる全員の思考と身体が停止した

「 実は……二人を産んでないの。貴女達はお父さんの連れ子だから……妊娠経験なくて…… 」

「『 えぇぇぇえ!!? 』」

俺は何故あの日、アランさんは居ても母親が居ない理由が分かった
彼の連れ子だから連れてきたのであって、血の繋がってない彼女は招待され無かったのか

血の繋がりを気にする上層部が多いために、納得は出来るが、黙ってたのか

「 私、子供が出来ない体質みたいでね…アラン…貴女達のお父さんが二人子供いて、子育てしたいなって話してたら……意気投合して、結婚したの 」

母親は馴れ初めを話した
まだ四歳と二歳の子を連れた、シェパードさんと出会いスピード結婚した事
亡くなるのも早かったけど、大切な人の子供を育てようと思い、娘達の成長を見守って感動してることを……

どんなに血の繋がりが無くとも、母親には変わり無い事に姉妹は涙を浮かべる

「 ちょっと待ってて、アルバム有るわ…… 」

席を離して探りに行った母親を見て、姉妹は顔を合わせた

「 まぁ、お母さんと似てないもんね……納得したよ 」

『 普通にお父さん似ってだけかと思ってた…… 』

「 まぁ、それは分かるよね 」

俺達も頷けば、母親は丁度よく戻ってくればテーブルの上に古い色褪せた薄いアルバムを置き、一頁目を捲る

「 これがお父さんだわ。このアルバムは…貴女達三人しか載ってないの…… 」
 
『 お父さん、イケメン!! 』

「 爽やか美形過ぎて惚れそ…… 」

確かに爽やかでかっこ良かったな
ヘラヘラとしてたけど、ルイの世話をする様子は見ていて優しいと思うほど
懐かしいとルイの隣で肘を付き同じく見ていれば、俺の背後に立ち覗く蓮もアルバムを見る

「( ルイ、可愛すぎる…… )」

アルバムの写真が欲しいぐらいに、可愛かった

色々話を終え、ルイは母親よりルカとの話でつわりの改善方法を聞いてどこかスッキリした顔をしていた

『 今日はありがとうー!驚いたけど、楽しかった! 』 

「  それはよかった。また連れてくる 」

『 ルカちゃんと話す方が嬉しいかも、なんせいとこになるって! 』

「 嗚呼……そうみたいだな 」 

凄く手を出すのが早い、みたいに睨まれたけど別にいいだろ
子供は最初から欲しかったことだ

「 蓮、ありがとうな……ルイも元気になったようでよかった 」

「 いいえ、何事も気分転換が大切なので……ではまた明日 」

「 嗚呼……また明日 」

自分の腕の中だけでなんとかなる、なんて思っても無理な時は無理なんだな
少し経験になったと思い部屋に戻る

なにより、その日はルイは吐かなかった事が一番嬉しいもんだ
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