竜は一夜を交した黒豹に恋をする

獅月 クロ

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~ レイバン 視点 ~


竜久が来てくれたのは、正直嬉しかったが贈り物迄あって尚更、気分は高鳴る。
其れをそのままお返しするようにあの箱を持って、客間へと戻る。

街に行く気は起きないが、彼がこうして来てくれるなら話のネタになりそうなものを見せるのも苦ではない。
彼はきっと他の大人達とは違って、欲しがったりしないだろうなって自信があったから持ってきた。

「 これだ、なんだと思うか? 」

「 分からないが…小さな箱だな 」

「 そうだろ。十四年前に、庭に落ちてきたんだ。凄く貴重なんだってさ 」

「 十四年…前? 」

箱をテーブルに置いて見せてから、一緒に持ってきた小さな鍵を手に、その錠へと差し込み取る。

彼が首を傾げたが、そっと箱を開けると同時に僅かに目を見開いたのに気付く。

「 それ、は…… 」

「 驚いた?竜の宝玉だって 」

蓋を開け、中を取り出せば彼の視線は銀色の宝玉へと向けられる。

「 やっぱり地上に有るのがびっくりするよな、この触り心地とか好きなんだ 」

宝玉へと頬を擦り寄せて見せれば、彼は突然と声を上げた。

「 それに触るな!! 」

「 へ…… 」

「 え? 」

辺りにも突然と大きな声を出すから俺も茜もビクッと肩を揺らして好調すれば、彼は深く息を吐き片手を向けた。

「 今すぐ、それを俺にくれ 」

「 何故だ?私が拾ったんだ。私の物だ 」

宝を見て目の色を変える奴はいるが、彼の場合は切羽詰まってるように見えて少し怖い。

立ち上がって宝玉を胸へと抱いて後ろへと下がれば、彼は私を睨み、唇を噛み締めた後に少し後ろへと下がりその場で深く土下座をした。

「 頼む……。俺に、それを下さい……。金なら払う。だから、下さい 」

「 金はいらない、欲しい理由を言え。私が十四年あまり持っていたものだ。そう簡単には渡せない 」

きっぱりと断われば、彼は一瞬身体に力が入ると答えた。

「 欲しい理由は言えないが…ある奴の、大切なものなんだ。俺はずっとそれを探していた。だから、下さい……いや、返してくれ 」

十年前、落ちてきたものだ。
…大切な誰かの物を…探していた?

その大切って誰だ?婚約者か?と嫌な嫉妬に震えそうな口を開く。

「 これを返して欲しければ、私の婚約者になれ 」

ハッキリと言った言葉に彼は顔を上げ、深く眉を寄せる。

「 俺は…それを持って実家に帰る必要がある。だから、御前の婚約者にはなれない。番にもなれない 」

「 なら、上げない。これはもう私のだ! 」

「 御前が持っていても何の価値にもならないだろ!俺に返せ!! 」

「 っ……! 」

彼は人族だと思っていた…。
だが、気を荒げているのかその瞳は鋭い瞳孔を持ち赤く血走った様に光、徐々に肌に感じる程に重く痛みすら感じる空気に気付く。

「 レイ様、下がってください!!此奴、矢張り人族でも獣族でもありません!! 」

私の前へと守る様に立った茜の姿は半獣となり、毛を逆立てていた。

「「 レイ様!! 」」

襖を開け、半獣のティガーは威嚇し、小柄なベルもそれとなく威嚇し、外にいた春樹もまた枝切りハサミを持って対抗しようとするが、彼の頬は鱗に覆われ其の姿に此処にいる誰もが驚いた。

「 返せ……俺の……宝玉だ…… 」

「 竜…… 」

部屋に繋がる襖は黒い鱗に覆われた長い身体によって壊れ、畳へと爪を立てる竜の鬣すら、普段の彼らしく漆黒の美しい色をしていた。

「 返せ、俺の…!! 」

「 っ!! 」

此方に牙を向けた黒竜に、ティガーは虎の姿で胴体へと噛み付けば彼は大きく身体を捻り動かし、思いっきり柱へとティガーをぶつけた。

「 グッ!! 」

「 ティガー! 」

「 レイ様…距離が離れれば、彼は人型に戻るはず、逃げて下さい!! 」

「 なっ、ッ!! 」

ティガーを心配したい気も有るが、声を張った茜によって私の身体は廊下へと飛び出していた。
背後では追い掛けようとする黒竜を止めるティガーや茜達の姿が見えたが、獣人は人族より身体が丈夫だと信じてる。

「 はっ、竜……!?竜久が、竜…だなんて…! 」

昔、まだ…人族が存在するより…遥か昔。

竜と獣は幾度と無く永い争いをしていた。
領土ではなく、お互いの存在意味と価値を知る為に、殺し合う戦いを…。

何十年、何百年と続いた戦争も…子を生まれる数も少なく、成長する時間も遅い竜の数が減った事で、竜は敗北を認めて天空へと逃げた。

そこから竜と獣は交り合う事も無く、
御互いの存在を敵視したまま今の令和迄、
竜の存在は幻とまでなっていた。

その竜が、態々姿を見せて宝玉を取りに来たのには理由があるのでは無いかと思う。

「 俺の……宝玉!! 」

部屋を破壊しながら向かって来る竜は、地を這う様に歩き飛ぶ様子が何一つない。

只、自我を失い手に入れようと向かって来る様子に逃げていた脚は止まり、立ち止まる。

「 貴方……。飛べないんだな…… 」

「 グァッ!!! 」

実家に帰りたい、そう告げた意味を理解出来てそっと両手を向ければ顔を横にした竜は大きく口を開いた。 

「 ッ!! 」

そっと目を閉じた瞬間に腹に感じた痛みに顔を歪めれば、身体は大きく浮遊する。

足元が地面で無くなったことに背中に感じる風圧に、閉じていた目を開けば私に噛み付いた黒竜は空を飛んでいた。

「 い、っ…。竜は…獣族が、嫌いなのに…私に触れられ、さぞ…嫌だったよな… 」

赤く光る目は何処を向いて、何を見てるのかすら分からない程に理性が無いのは分かる。
僅かに動く片手を口元へと触れながら言葉を続ける。

「 でも、嫌なら…なんで、嫌と言わなかったの…なんで、求めたの。なんで、家に来たの…?なんで…私に…名前を教えたんだ、竜久!! 」

「 っ……!! 」

名を呼べば竜の瞳の色は徐々に本来のアメジスト色の瞳はゆっくりと口元である私の方へと向けられた。

強く噛んでいた牙も緩くなったぐらいには、耳に声は届く様子。

「 貴方に…、黒化を否定されなかったことが嬉しかった…呪いだと言われてる私を、そう見ないのだと…。貴方に…名前を…教えてもらえて…嬉しかった。私は、貴方と交わった日から…一日たりと、貴方を考えてない日は、無い…! 」

婚約しなくてもいい、帰りたいなら宝玉を持って帰ればいい。
けれど、その目的があったにも関わらず私の前に現れる彼の理由が知りたかった。

竜はその場で留まり、長い身体を揺らしながらゆっくりと声を発した。


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