竜は一夜を交した黒豹に恋をする

獅月 クロ

文字の大きさ
上 下
11 / 20

04

しおりを挟む
~ 竜久 視点 ~


仕事が手に付かず接客の方ではなく、事務所の事ばかりしていたが、ふっと下の階に行く予定もないが、何となく脚を向け赤いカーペットが敷かれた階段を降りていけば、部下がコソコソと話してる様子を見掛けた。

「 御前等、仕事をサボってなんの話をしてるんだ? 」

「 副代表! 」

「 すみません、ちょっと…お客さんで… 」

「 言うのかよ!?あ、いや…その… 」

幽霊でも見たように肩を揺らして驚かなくても、なんて思うが彼等は目線を合わせたりしていれば、黙って見詰める俺の視線に負けたようで、金魚のように閉じたり、開いていた口をやっとまともに開けた。

「 それが……外で眺めていた若いカップルが人族と思って店内に招いたのですが…多分…獣人ではないかと… 」

「 多分っていうか絶対よ!あんな美男美女カップル、人間じゃ滅多にいないから 」

彼等の言葉に溜息は漏れる。
ある程度は入り口で拒否出来るのだが、中には佇まいから人間らしい連中もいる。
特に力のある獣人は、それだけ人間らしい外見を持ち合わせてるから後々気付くなんてあるだろう。

人間の中には獣アレルギーなんて厄介な人がいるから、毛がつくことは避ける必要があるが若いカップルがドレスを見てたならそれだけ、欲しいのだろう…
そう思うと今更、外に出すわけにも行かない。

「 招いたからにはお客様には変わり無い。俺が接客してるから、御前達は仕事に戻れ。それで、どのカップルだ? 」

「 あの奥側で…黒いドッキングドレスを着てる黒髪の女性と、髪が派手なスーツスタイルのような男性です 」

「 分かった 」

見れば一目で分かりそうな格好の為に、軽く頷いて彼等の心配そうな視線を他所にウェディングドレスが多く展示してるエリアへと脚を向ける。

「( 嗚呼、彼等か…… )」

一目で存在感がある雰囲気に、あれのどこが人族に見えたのか問いたいが、恐らく金のある連中だと思ったのだろう。
確かに佇まいや服装の雰囲気からして金持ちそうだが…だから言って招くか?

「( 指導を改めてやり直さないとな…… )」

客を見た目で判断するなと言っておこうと思い近付けば、男の方は何やら謝るような仕草をしてからその場を離れて行った。

「( トイレか? )」

反応からしてそんな感じがすると思うが、この店内には獣人用はない。
だが、そこを使うのだろうと推測はできる為に小さく溜息は漏れ、女の方に近付く。

「 こんにちは、いらっしゃいませ。当店のドレスはお気に召しましたか? 」

「 嗚呼……ん? 」

「 な…… 」

俺は、もう少しあの夜の事を覚えていれば良かったと思うが…そんなのは無理だろう。
なんせ、あの黒豹が女の姿になったのはほんの僅かな時間。

裸を見て動揺していた為にそこまで記憶に残っていなかったが、俺の声を聞いて振り返った女は長いストレートの髪を揺らし、視線をこちらに向けた。

「 あ…… 」

「 ッ!! 」

金色の瞳に整った顔立ち、外出する為のメイクは少し濃くも見えるが、今着ているドッキングドレスとよく似合う。

こんな仕事を十二年ぐらいしていても思う…
ドレスがよく似合う容姿だと改めて思うが、腰に来る甘い痺れに、毎晩の様に自慰していたせいで変は疼きを感じる。

「 何故…御前が、ここに居るんだ 」

今は客なんて理性は切れ、絞り出すように出た言葉はここに居る理由だ。

「 外で見ていたら、店員に誘われたんだ。中で見ませんかって 」

「 そうか…( それはさっき本人から聞いたじゃないか )」

知っていた理由だが、今の俺にはそんな事を考える余裕は無い。

「 でも、丁度良かった。もう少し探すと思っていたからな 」

「 探す?何がだ……? 」

嫌な予感に、冷や汗を感じ此処から立ち去りたくても一度身体を重ねたαを前に脚は動かない。

必死に表情を崩さないように冷静を保とうと苦戦していれば、女性の皮を被った黒豹は俺の胸元へと指先を向けた。
 
「 御前を探していた。私の、婚約者になれ 」

「 ……はぁ!? 」

「「( 副代表が告白された!? )」

一瞬、頭の上にひよこがかけ走ったが
直ぐに言葉の意味を理解すれば、否定しようと口を開こうにも女は胸の下で腕を組む。

「 私も二十四歳になる立派な豹だ。そろそろ相手が居ても可笑しくはないだろ。そこでだ、御前にしようと決めたんだ。相手はいないだろ?匂いで分かる 」

「 っ……( こいつ、俺の意見を聞く気はないな )」

αらしい傲慢な理由だと思った。
偶々、番のいないΩと出会ったからそいつの将来を何一つ考えず、自分の所有物にしたいと言う。

αは、数体の番を作ることが出来るとしても、Ωはαが浮気すると死んでしまうようなものだ。
それはコイツは知ってるのだろうか…いいや、箱入り娘はそんなことを教えられてもないだろう。

「 どうだ?アスワド家に婿養子になる気は? 」

「 断る。俺は、御前のようなαが一番嫌いなんだ 」

「 それは……黒変固体種が嫌いということか? 」

「 は?ちげぇよ 」

黒変固体種?そんなの嫌な理由にはならないだろ。
それを言うなら俺だって竜の中では珍しい黒竜だ。
コイツが黒豹だからってそこに嫌がる理由はないが…と思っていれば、コチラを睨んでいた目は急に丸くなり、緩く頬を緩めた。

「 そうか、ならいい。嫌いで無ければ婿に来い 」

「 は?だから、容姿は如何でもいいが。その態度が気に入らないって言ってんだ 」

声を張ってしまった事に此処には俺がαだと思い込んでる連中が居ることを知り、奥歯を噛み締めコイツの腕を掴む。

「 此処では話辛い。来い 」

「 っ、どこに行くんだ!?茜を待つ必要が 」

「 知るか 」

暗闇で距離があったから気付かなかったが、そういえばあの男は侵入者に煩いとか言われてたやつか。

アカネという名前は如何でもいいが、三毛猫だと思い出したら納得する髪色じゃなかったか。
もっと早く気付けば関わることなく部下に任せただろうに…。

やらかしたと思いながらも今更引けず、裏の非常用出口から外に出れば、裏路地側に連れ、手を離す。

「 良いか、俺は御前と婚約する気は…… 」

「 今日は発情した匂いはしないんだが…。まぁ、あの匂いは好かないから…今の方がいいぞ 」

振り返ればあの時の様に目の前に顔があった。
俺の視線からは脳天しか見えないが、それでも胸元のスーツに顔を寄せてる様子にこんなタイミングですら、夜の事を思い出してしまう。

「 っ~ 」

後孔がひくつき疼く様な腹下の感覚に、奥歯を噛み締め耐えれば、その華奢な肩を掴む。

「 αは…そうやって、Ωを惑わす。だから…俺達の仕事出来る場所も限られてるんだ。俺は…御前等…αが嫌いなんだ 」

個人という単体ではなく全てのαを敵視ししている。
何度も泣き寝入りしているΩの部下を見たせいでだ。

吐き出す様に告げた言葉を受け入れたはずの黒豹は、甘美な笑みを浮かべ此方へと見上げた。

息を呑む程に美しい容姿だと知っているからこそ、直視しないようにしていたが目が合えば逸らすことは不可能に近い。

「 そうか…私が嫌いではないのだな。それだけで十分だ 」

「 !! 」

彼女の片手がスーツの上から腹下をなぞるだけで腰は甘く痺れ、片腕が首へと回ることすら振り払う事が出来ず、身体が硬直する。

グッと目を閉じた時には、唇へと吐息が触れる。

「 …また会いに来る。私はレイ…。レイバン•アスワドのレイだ。 」

「 レイ…バン……アスワド…… 」

「 そう、その名前だけでも覚えていてくれ。神崎…さん? 」

首から離れたしなやかな腕は外れ、変わりに右手は胸元に触れた。
そこには名札があり、呼ばれた名字の意味を知る。

「 神崎…竜久…。α嫌いな、俺の名だ 」

「 そう、竜久。また会える日を楽しみにしてる 」

名字は世話になった老人夫婦のものだからこそ、余り呼ばれたくはなかった。
何となく下の名を教えれば口ずさむ彼女はヒラリとドレスを揺らしては、背を向け離れて行った。

猫のように気紛れで触れる時でさえ弄んでる感じに思える。

「 それに、なんだ…。なんであんなにも自分を嫌うことを気にする? 」

黒変固体種が嫌でなければ、私が嫌いでなければ、それまるで嫌われていたかの口振りに気になって仕方ない。

また頭から離れなくなる理由が増えた事に苛立ちに壁を殴っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...